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10話

敵からの攻撃は不思議な力が働いて小生には届かない、という話は理解しています。別の世界に生まれた際に備わったらしい力なのだという事も。ですが、だからといって襲われる恐怖が拭える訳じゃありません。


小生が木から降りずに居ると姉上は仕方なく角兎(ホーンラビット)を探しては仕留めて下さっていました。逃げる数の方が圧倒的に多い中、何の手伝いも出来ない事は申し訳なく思います。…が、それとこれとは別の話なのです。

小生にも戦う力があれば違ったのでしょうが、弱いのだから仕方がありません。

姉上が闘う姿を見て陰ながら応援しているのがやっとです。


姉上は町で一番と言える程に強いと思いますが、実際に戦う姿を見るのは初めてかも知れません。訓練ですとか、ならず者を押さえ付ける姿は見ますが、化け物との戦いなど見る機会がありませんでしたから。

逃げる角兎(ホーンラビット)を魔法なるもので仕留め、窮地だからこそ捨て身で向かって来る角兎(ホーンラビット)の攻撃をかわして殺さないように槍で叩き付け、まるで舞いでも見ているような心地です。



「っ!…ヒロト…ッ!」


「…え?」



動けなくした角兎(ホーンラビット)に囲まれながら一息吐いている姉上を眺めていたら、視線が此方に向きました。その表情は驚いているような青ざめているようなもので何を見たのかと首を傾げたところ、危険を知らせるような声音で名を呼ばれたので振り向いたのですがその先には大きな蛇が上から降りて来ていました。


なかなかに大きな身体をしていますが、蛇も食料です。小生の前に現れた事、後悔しても遅いですよ。

木を這うようにずるりと降りてくる蛇は、小生と目が合うと大きな口を開いて迫ってきました。速度は小生よりも遅いです。座っていた木の枝を蹴って飛び退いたのですが懲りもせず追い掛けてきます。

想定内ですよ。少し上の方の枝に掴まるのと同時にその枝を折り、尚も大きな口を開けたまま迫る蛇の喉を目掛けて枝を突き刺してやります。

猫の爪や牙は失ってしまいましたが、道具を使える身体になったんです。10年も使ってきている身体ですからね、蛇如きに遅れは取りません。


喉を突かれてけたたましい声を上げた蛇は退散するように小生から離れますが、逃がすとお思いか。

大して使えない短剣を腰から引き抜いて逃げる蛇の頭部へと突き立てながら地面へと降り立ちます。武器を振り回す事は不得手ですが、刺すくらいは出来るんですよ。



「ヒロトっ!大丈夫!?」


「姉上、この蛇も食べられますか?」


「え、あ…、わ、私は苦手だけど…美味しいって言う人は多いよ。」



そういえば姉上は蛇の肉は好んで召し上がらないのでした。

でも獲物を仕留めた高揚感もあってか褒めて欲しくて姉上を見詰めていたら、くしゃくしゃと頭を撫でてくれました。

やはり姉上に撫でられるのは好きです。出来れば頬や顎の下も撫でて欲しいところですが、撫でてはくれないので自ら姉上の手に頬を摺り寄せます。



「ふふっ、本当に猫みたい。これじゃヒロにゃんって呼ばれる訳だ。」


「…姉上にそう呼ばれるのは嫌ではありませんね。…小生は猫ですから、撫でて貰うのは好きですよ?人を選びますが。」


「もう、またからかって。」



からかってなどいないのですが…。今度じっくりとお話して差し上げたいところですが、小生が猫である事を信じて貰えるでしょうか…?


食用の肉は生きたまま血抜きをした方が美味しいのだそうで、姉上は失神させるだけだったのですが…小生はその辺りの加減を知らないのでしっかりと止めを刺してしましました。小生が雌であったなら我が子に狩りを教える際、獲物を生かさず殺さずに出来たかも知れないのですが…八回生まれ変わっても雄でしたので獲物は仕留めてしまうのです。


この蛇は女王蛇(クイーンスネーク)といってこの辺りではまず見られない化け物だそうです。そしてかなりの高額取引をされる美味なる肉だとか。

…食事が楽しみになりましたっ。



「逃げるばかりで弱っちぃガキかと思ったが、なかなかやるじゃねぇか。」


「あなたは…っ!」


「クソ猫共もお前も血祭りに上げて遣ろうと思ってなぁ、お友達を連れて来た訳だ。遊んで貰うぜ?ガキ。」


「全く情けない。あなたが先に突っかかってきたんでしょうが。」


「お前は黙ってろ。後でたっぷりと身体の隅々まで可愛がってやるからよ。」



姉上に可愛がられるのは貴殿の方だと言おうとしたのですが、口にする前に姉上が槍を構えたので黙る事にしました。

先程組合の前で騒いでいた大柄な男性と頭数の増えた仲間たちが卑下た笑いを浮かべています。報復など…非生産的だと思うのですが、人間は屡々(しばしば)行うそうで。どうにも度し難い。

小生たち猫にも、強敵に挑み続ける場合はありますが…、基本的には強者には逆らわず極力喧嘩を避けて生きていくのが当たり前なのです。

人間のこういうところは理解に苦しみます。

彼等の姉上を見る目がいやらしい事は理解出来ます。人間は繁殖行動以外にも交尾をする生き物ですからね、そういう目で姉上を見ているのでしょうが…何となく腹立たしいのは何故でしょうか。



「そう…、…私は今、遊んで貰いたい気分…よっ!」



姉上もその視線の意味を理解しているのか途轍(とてつ)もなく不機嫌なご様子。…小生は離れていますね、姉上…。心の中でそっと呟いて一蹴りで再び木の上に避難します。


姉上が槍を構えて大柄な男性へと駆け出しますが男性の大きな斧で姉上の攻撃は防がれてしまいました。そういえば、槍と斧は相性が悪いと姉上から聞いたような…。

しかし姉上の攻撃は止まりません。槍の矛先を防がれてしまってもくるりと回転させて柄の部分で男性の腹部を突きます。…あぁ、あれは痛い。

男女の腕力の差なのか、大柄な男性の筋肉が厚いのか…姉上の一撃はよろめかせるだけであまり利いていない様子。

男性から振り下ろされた刃は姉上には届かないものの、他の男たちから投げナイフや矢の援護が加わりました。姉上は避ける事をせずに槍で全ての攻撃を叩き落としてしまいます。その隙を突いて剣を持った男性二人が姉上に斬りかかりますが、その刃は姉上には届きません。槍の柄と先端を器用に使って軌道をずらしてしまったからです。そのまま柄で剣を持った男性二人の背中を順に叩いて昏倒させてしまいました。

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