表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アイスとジュース

作者: 菟

 いつもの帰り道。ただ家に帰るだけ。

 それだけなのに

 「じゃあまた」そう言っている君の顔がやけに格好良く見えて、苦しくなった。

 どうしたらいいのかわからなくて俯いて手を振るのがやっとだった。

 ふと前を見ると、不思議そうにこっちを見ている君と目が合った。

 「どうした?」そう聞く君に嘘みたいな笑顔で笑って「なんでもない」と言うのでやっとだった。

 何でもない日常が壊れるような、そんな気がした。


 毎日君とは顔を合わせる。

 何時もみたいに挨拶を交わして。

 曲がり角から出ながらそう考える。

 でも、先を歩く君は誰かと話してて。凄く、胸が苦しくなった。

 誰かと話してるなんて当たり前。

 どうして、苦しいんだろう。

 ぐっと、唾を飲み込み手を握る。

 秋とはいえ気温は暖かい筈なのに、何故か手は冷たかった。

 誰かと楽しそうに話している君をこれ以上見たくなくて、近くの公園に駆け込んだ。

 まだ冷たい飲み物ばかりの自販機。太陽に照らされて、きらきらとした噴水。

 暖かい空気。

 秋は近付いているのに、周りはまだ夏みたいだ。

 隣に、君がいたらそんなこと考えてる暇なんてないんだろうな

 そんなことを考えて隣のベンチに君が来た。

 いつもと同じ挨拶。でもどこかぎこちない。

 「すごい、偶然だね」

 冷たい手を握りしめる。

 怪訝そうな顔をしながら

 「何で声かけてくれなかったんだ?」聞き返す君。

 その言葉から嫌悪感を感じた気がして。苦笑いで首を振る。

 そんなことないと続けると安堵した表情が浮かんだ気がした。

 「明日は、診察の日だね。」

 暫く黙った後に君が呟いた言葉。

 「そうだったっけ」

 すっかり忘れていた。

 私の、誕生日。診察の日。

 この世界にはジュースとアイスと言う二つの人間がいる。

 知っているのは、ジュースとアイスが結ばれるとアイスが溶けて消えてしまうと言うこと。

 そして、ジュースは自分がジュースであることがわからない。

 勿論、誰もわからない。

 対してアイスは体温が低いのが特徴だ。

 それを調べるための診察が、誕生日にある。

 「……君は体温が低いから心配だったんだけど、僕が大丈夫だったんだから大丈夫だよね。」

 呟くように話す君の言葉に、重ねるように頷く。

 大丈夫、きっと。

 そう言って君は誰かのところに行った。

 また、胸が苦しくなる。

 夕日が赤い。明日はきっと晴れだ。


 次の日。私の誕生日だ。

 病院に行くのに、君がつれていってくれるから。

 朝から嬉しかった。

 何でもない話をしながら君の後ろの流れていく景色を見てた。

 病院までの10分程度。その時間でも君を独り占めできた。なんて考える私は醜い。

 別れて、受付を済ませる。

 診察券を渡すときに、受付の人と手が当たった。

 あったかい。私の手とは大違いだ。

 会釈して席に戻る途中ひそひそと後ろで話している声が聞こえた。

 ……慣れっこだ


 診察室に入る。

 知らない人に大切な診察だからと言われる。

 そんなことはわかっていても注射は嫌いだ。

 血が抜かれるのは気分が悪いから。

 注射器に血がたまっていくを見ながらそんなことを考えていると

 「最近どう?」と聞かれふと顔をあげる。

 昔から私のことを診察してくれていた先生だ。

 最近の近況を話すと、楽しそうに笑ってくれた。

 胸が苦しくなると言うと、「恋でしょ」と返され顔が熱くなるのを感じて、余計に恥ずかしくなる。

 血液を入れた機械を見ていた先生の顔が曇る。

 「アイス」

 後ろで見ていた看護師の呟きを聞いて悟った。

 そこからはあまり覚えていない。

 ただ、自分の体温が低い原因がアイスなんだと。

 恋をすることは不可能なのだと。

 「ジュースが誰かはわからないから…」

 悲しそうな先生に、「大丈夫です」と笑った。

 私は、笑えているだろうか。


 診察後、家に帰って部屋に閉じ籠る。

 部屋に入った瞬間から涙が止まらなかった。

 「私は、君のことが好きなのに。」

 嗚咽と共に出た言葉は私の気持ち。

 君は私のことを好きでいてくれるだろうか?


 彼に会った。

 どうしても、伝えたいことがあるからと。

 どう足掻いても、私には恋ができない。

 足掻いたとしても、この恋は叶うことはない。

 君に何時もみたいな笑顔で聞く。

 「私のこと、好き?」

 これが愛になり得るのなら、それでいいから。

 「ああ、当たり前じゃないか」

 そう言う君は何時も通り、続ける。

 「妹なんだから」

 その答えに頷いた。

 溶ける感じはしない。

 いっそ、溶けて消えてしまえれば。これが愛だと錯覚できたのに。

 結局、何時も通り。

 消えることはない。恋をすることもない。

 何て虚しい。

 「どうしたんだ?」

 そう聞く兄に「何でもないよ。」と返した。

 診断書はごみ箱の中。

 私の恋も、ごみ箱の中に捨ててしまおう。

昔書いたものになります。


ジュースとアイスで、アイスが溶けることのない悲しい恋ってこんな感じかなと考えながら書きました。


オメガとアルファみたいな感じですが、アイスとジュースももっと増えれば、と思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ