召喚詐欺には十分ご注意ください。
突然だが、俺はどうやら死んでしまったらしい。
さっきまでエレベーターの中に居たのに、突然衝撃を感じたと思ったら訳のわからない空間に居た。
最後に感じたのは浮遊感というか落下感だったから、多分事故にでも遭ったんだろう。
その割には随分冷静だなって?
こういうときはまず落ち着かなければ大変なことになるってのがお約束だからな。冷静にもなるさ。
周囲が真っ白な何も無い空間で、いつの間にか椅子に座っている。
どう考えても死後の世界。
何でこんなところに居るのかわからないが、ずっとこのままって訳でもないだろう。
椅子があるって事は誰かが用意したはずだ。その誰かが来るまで、大人しく待つだけだ。
それは俺以外の人間も同じようだった。
実は俺以外に男が一人、女が二人居るが、全員がこれから訪れるであろう事態に備え、静かに待っていた。
「つーか何ここー。早く帰りたいんですけどー」
訂正、一人は違うようだ。
声の主は女。しかもJKっていうかギャルっぽい。
はっきり言って苦手なタイプだ。
あんな頭の悪い生き物が同じ人間とか、理解に苦しむ。
「もー明日合コンなのに―マジありえなーい」
そのうえビッチかよ。ただの害虫だなそんなもん。
「何見てんのデブ。金取るよ」
誰がテメェみたいなクソビッチを見るかよ。やかましいから視界に入っただけだっつーの自意識過剰の歩く公然猥褻が。
大体お前ら口を開けばデブしか言わねえとか。小学生からやり直して語彙を増やしてこいよ低脳が。
「まぁまぁ落ち着いて。ここにはこの四人しか居ないんだから、喧嘩してもいいことないよ」
「……ふんっ」
メガネの男が窘めるように割って入り、ビッチは大人しく引き下がった。
はいはい。ただしイケメンに限るってやつですねー。
ちょっと背が高くて顔が整ってるからって、そこにインテリメガネ属性まで付けてんじゃねぇっての。
お前みたいなのはホモマンガの肥やしにでもなってればいいんだよ。
しかしビッチとホモのカップルか。お似合いすぎて泣けてくるわ。
「君、大丈夫? 不安かもしれないけど、ボクが付いてるからね?」
「は、はい。ありがとう……ございます……」
クソビッチの声にビビってたもう一人の女の子が、ホモメガネに声をかけられて顔をうつむかせた。
誰の顔もまともに見ようともせず、ちらちらと伺うばかりの小動物系。
何この子。すげー可愛い。
三次元の女ってビッチと売女しかいねーと思ってたのに、奇跡かコイツ。
イケメンに声かけられてもニコポしないとか、絶対本物だ。
アレだな、例え相手が誰だろうと仲良くなるには時間がかかるし、その後は欠点のある主人公の駄目なところをフォローしてくれる面倒見のいいタイプだ。
クソビッチはホモメガネに押しつけりゃいいし、あの子は俺が大事にしよう。
いやわかってる。最初はホモメガネのハーレムになるんだろうな。
デブとイケメン。このあとどうなるかわかんねぇけど、選べるんなら俺でもイケメンに付いてくほう選ぶわ。
だがニコポにならない子は一度の胸キュンより継続的なコミュニケーションで好感度を積み重ねることこそ大事だ。
だたら俺にだって勝機はある。俺は諦めないことについては定評があるからな。
ガチャに100万突っ込んでも目当てのキャラが出ないから運営に抗議したことがある。
抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議して抗議しまくった。
その結果公式に詫びさせたけど、それじゃまだ足りなかった俺はさらに抗議した。
広告詐欺疑惑で炎上させ、ガチャの出現確率を公開させ、ついに政府も動く事態にまで発展した。
お客様は神様だろうが。お客様を舐めてるからだクソ運営。
アレに比べればイケメンと戦う事くらいどうって事ない。
俺には今後の展開の予想も着いてるからな。
一人ならただの死後の世界って可能性もあるが、ここに居るのは四人。
なら勇者召喚に決まってる。
女神によって滅びそうな異世界に送り込まれるのか、それかピンチになったから誰か助けてってすがりついてくる愚か者が召喚したんだろう。
死ぬ間際だった俺たちだから選ばれたのか、それとも事故も召喚者のせいなのか。
後者だったら絶対ボコボコにしてやる。
クソなリアルから召喚してくれた礼だ。その後は人殺しってわめき立てて有利な条件をもぎ取ってやる。
勇者をするのはいいが、戦わされっぱなしも面倒だからな。
小動物のあの子とは別に、美少女ハーレムくらい用意してもらわんと割に合わん。
おっと落ち着け俺、冷静になれ。
まだいきなりハーレムが作れると決まったわけじゃない。
デブな俺はチートスキルをもらえないのが定番だからな。ハーレムは成り上がるまでお預けだ。
だからここで俺が考えなければならないのは、いかに後半で有利になるようなスキルを手に入れるかだ。
召喚の可能性も考えたが、今の状況なら多分女神に送り込まれるほうだ。
でなきゃとっくに異世界に着いてるはずだからな。
なのにこんなところで待たされてって事は、異世界に行く前に女神がチートをくれるからに違いない。
アイテムなのかスキルなのか。
どうやってチートを選ぶのかはわからんが、そこで全てが決まると言っても過言ではない。
いつ女神が来てもいいように、あらゆる状況をシミュレーションしておかねば。
俺は、今まで読みあさったあらゆる召喚モノ、転生モノの記憶を掘り返し、その時を待った。
だがその時間はすぐにやってきた。
多分20秒くらい。
目の前の空間が光り始めたから、多分間違いない。
おい、そんな早く出てくるならもっと早く出てこいよ。
あれか? ギャグ系の女神なのか? 女神くれって言ったらくれる系か? あ、電話で呼ぶほうの女神ね。
なんてアホなことを考えてるうちに光が消え、美人のお姉さんが椅子に座っていた。
流れるブロンド、綺麗な顔立ち、整った体にデカい胸。
誰がどう見ても女神だな。
「初めまして。私はこの辺り一帯の世界を管理をしている女神です。今日は、皆様にお願いがあってお呼びいたしました」
きたああああああああああああ!!
いや待て、待つんだ俺。
まだお願いの内容を聞いていない。
世の中には『突然ですが皆さんに殺し合ってもらいます』とか言い出す危ないシナリオだってあるからな。まだ喜ぶには早い。
「女神様から直々にお願いされるとは……。ですが我々のようなものでも大丈夫なのですか? なんの取り柄もない、平凡な日本人なのですが……」
嬉しそうにしつつも謙遜するイケメンうぜえ。
まぁお前にはなんの取り柄もないわな。イケメンなんざ世界中にいくらでも居る。お前程度の顔なんぞ取り柄でもなんでもないっての。
「お願いしたいのは、ある異世界に行って頂きたいのです」
異世界!
女神の言葉に俺は身を固くし、そして続く言葉に全神経を傾けた。
次のセリフで、決まるッ!
「その異世界で、皆様には勇者となって戦って頂きたいのです」
ッ、しゃあああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!
「もちろん今のままで、とは申しません。戦うための力、何でも好きなものを一つだけ授けます。その力を持って、その世界を救って欲しいのです」
きぃぃぃぃいいいいいいいいいたあああああああああああああああああああ!!!!
俺の人生。
勝 ち 組 確 定 。
言いたいことはわかるぞ愚民ども。それは死亡フラグだってんだろ?
だが鍛え抜かれたオタクエキスパートであるこの俺に、勇者召喚モノで隙があるはずがない!
「あの、質問してもいいですが」
「もちろんです。ですが、皆様をあまり長い時間ここに留めることもできないのです。申し訳ありませんが、お一人様三つまでとさせてください」
ちっ、三個か。少ないが仕方ない。
長い時間無理っていうのは予想がつく。ここに居るのは魂だけの存在で、早く新しい世界に送らないと魂が消滅するとかそういうことだろ。
「我々がここに居る時間を延ばすのは、女神様でもできないのですか?」
「はい。ここに居る皆様は、魂だけの存在。あまり長居してしまっては、魂の存在そのものが薄れていってしまうのです。これは人としての魂のあり方そのものですから、私にはどうすることもできないのです」
ホモメガネ質問一個無駄遣い乙。草生えるわー。
「あのっ、女神様の力で、元の世界に帰してもらうことは……」
「残念ながら……」
「そんな……」
小動物ちゃん凹ましてんじゃねぇよ駄女神!
攻略できない美人が地味系ヒロインいじめてんじゃねぇよクソが!
だが小動物ちゃんのおかげで助かった。その質問はするべきかどうか考えてたからな。
行き先の異世界が核戦争後の世紀末的なアレだったら絶対拒否ってたし。
さすがに三人はショックだったらしいな。質問が続かない。
でも最後の記憶を思い出せば納得するしかない。戻ったって体は無いんだしな。
んじゃここで俺が建設的な質問をしてやるか。
まともな質問もしておかないと、頭がヤバイやつって思われるしな。
「女神様、行き先の異世界はどんな世界なのですか? 何も知らずに放り出されて、文化の違いから村人に襲われるというのも嫌なので」
「あなた方の言葉で表すなら、剣と魔法の世界、と言ったところでしょうか」
よし、世紀末は回避したな。
「中世ヨーロッパのような世界。人を襲う魔物と、剣と魔法で戦う人間。そして魔王の存在。ですが人間は皆さんとそこまで違いはありません。基本的な礼節さえ忘れなければ、突然襲われるといったことはないでしょう」
ま、そうだわな。同じ姿形をしていれば、地球と似たような文化になるのも頷ける。
「何故俺たちがその世界へ勇者として行く必要があるのです。魔王が世界を滅ぼすのを阻止するためですか?」
聞くまでもないと言われるかもしれんがこれは重要だ。
魔王だからって悪とは限らない。むしろ人間こそ世界を滅ぼす悪の可能性があるからな。
「私は人間の国から発せられた、魔王を倒し世界を救って欲しいという願いに応え、貴方たちに勇者としての役目をお願いしました。魔王は世界を滅ぼすことは目的とはしていませんが、人間が滅ぶことについては何の興味も示しておりません。ただ害虫のように殺しているだけです」
ああ、お互い受け入れられないってことね。んじゃこっちも遠慮せず殺していいのか。
いやいや、まだ魔王がどんなやつかわからんからな。
ロリ系美少女魔王だったら最優先で保護だ。殺すかどうかは見てから決めよう。
され、それでは最後の質問といこうか。
「その世界には、レベルやステータス、スキルといったものがありますか?」
リアル系異世界だと無い可能性がある。そうすると俺の計画は非常に困難なものとなるだろう。
だがもし、ゲーム系異世界なら……っ!
「はい、ございます。皆様に授ける力も、そのうちの一つという形でお渡しします」
ならば決まった。
俺は、異世界で、
ハーレム王になってやるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
その後はどいつもこいつも下らん質問ばっかしてたから全スルーして妄想に浸ってやった。
ま、妄想じゃなくて現実になるんだけどな。
つーかお前ら早くしろよ。俺のハーレム伝説を早く始めさせろよ。
ああ小動物ちゃんはいいからね。君はハーレム要員第一号だから、遠慮しなくていいからねー。
だがクソビッチ、テメーはダメだ。
さっきからアホ丸出しな質問ばっかしやがって。時間の無駄なんだよ。
何が『世界ってどんな形なの?』とか『世界を越える魔法って、その世界にあるの?』とか聞いてんだよ。
しかもそれぞれの答えが『マンションの様なものを想像して下さい。理路整然と並べられ、世界と世界は強固な壁で隔てられています』と、『ありません』とか。
女神も無駄なこと言わせんなよって感じだろうな。世界を越える魔法とか、そんな魔法があれば女神に頼ったりしないだろバカが。
しかも最後の質問は、『力じゃなくて物でもらってもいいの? お金とか』『構いません』だぜ? ホモメガネだって笑ってたぜ。あーあ、おまえ捨てられたな。アレ絶対見限ってたわ。アタマ悪すぎて会話できないもんな。ざまぁクソビッチ。
「それでは質問も終わりましたので、希望の力をお申し付けください」
ついにこのときが来たな。
全員悩んでるっぽいから俺から言ってやるか。手本って物を見せてやるぜ。
「あの」
「決まりましたか?」
「はい。俺は“成長”する力が欲しいです」
「成長、ですか?」
おいおい女神、そんな事でキョトンとするなよ可愛いな。
んじゃ説明してやるから、絶対間違えるなよ?
「成長率の上昇、成長速度の上昇、そして成長限界を越えてもまだ成長する力です。レベルアップの速度も速く、レベルアップで上がる能力は誰よりも大きく、レベルアップの限界も無い。もちろんスキルも魔法もすぐに覚えるし、すぐに成長する。俺の全ての成長が早い、そういった能力です」
完全に熟成型だが、これでいい。
ホモメガネはいきなり死なないかどうかとか、最初のことばっか気にしてたからな。
大方最初からレベル99とか言い出すんだろうが、そんなものは時代遅れだ。
こっちはレベル99以上になればいいだけだからな。お前がどれだけ最初強かろうが、最後に勝つのは俺だ。
「わかりました。では、貴方には成長の能力を授けます」
「えっ?」
「どうしました? 何か間違えましたか?」
いや、てっきりそんな能力は無理とか言われるかと思ったんだが……マジでオッケーなのか?
「あの、本当に先ほど言ったことがが全て含まれてるんですか?」
「成長率の上昇、成長速度の上昇、成長限界の撤廃。貴方の全てにそれが適応される。といった能力で間違いなかったでしょうか?」
……うん、抜けは無いな。
「大丈夫です」
「であれば問題ありません。その能力をお渡しします」
マジキタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「それじゃ、お願いします」
「はい」
平静を保ちつつも内心狂喜乱舞したままゴーサインを出した。
そしたら俺の体が一瞬光に包まれた。
「はい、これで成長の力を授けました」
あっさりしてんな。まぁ了承するのもあっさりだったから大丈夫だろ。
だが……ふっ、これで俺は生まれ変わったということか。
待ってろよ世界中の美少女! すぐに殺してやるからなイケメンと魔物ども!
俺の異世界無双ハーレム伝説の始まりだぜ!!
だが、横から聞こえてきた言葉を聞いた俺は、同時に伝説が終了する音も聞こえた
「ボクには、レベルやスキル、ステータスの全てを奪い、自分のステータスに加算する能力をください。もちろん相手が誰からでも、何度でも奪うことができ、そして失敗することのない能力を、です」
◇
やれやれ、随分驚いてるね。
デブが慌てる姿は醜いことこのうえないよ?
このデブが根暗キモオタだっていうのは見た瞬間にわかった。
キャラT着てビームサーベルを刺したリュック背負ってりゃバレバレだけどね。
こいつチラチラとウザい物でも見るかのようにボクを見てきたけど、お前のほうがウザいよ? キモデブ君?
まぁ何考えてるかは予想つくけどね。
他人が羨ましいくせに自分じゃ何もしないゴミブタの癖に、ボクを蔑もうなんて身の程知らずも甚だしい。
お前が新しいゲーム雑誌を読んでるあいだ、ボクはファッション誌を読み漁る。
お前がゲーセンで太鼓を叩いてるあいだ、ボクはフットサルで仲間たちと汗を流す。
お前がブクブクと肥えているあいだ、ボクは理想の肉付きのために体を鍛える。
お前みたいに普段遊んでばっかりのくせに、いざとなったら勝手に敵認定して自分に言い訳し始める底辺野郎とは違うんだよ?
何の努力も無しで女の子の気を引けるなんてのは、妄想小説の世界だけさ。
なんでそんな事を知っているのかって?
もちろん勉強したからさ。腐女子と仲良くするには、そういった方面の知識も必要だからね。
『好きなアニメは?』と聞かれて、『ワン○ースとル○ン三世』と答えてしまえば、その時点で即にわか認定だ。会話が続いたとしても絶対に盛り上がらない。
ハイ○ューや弱虫○ダルやお○振りを抑えておくのは必須。タイ○ニに黒○事、少し古いが最○記だって外せない。なんでもいいから歴史系を抑えておくのは基本中の基本だ。薄○鬼からBAS○RAまでね。
見た目は真面目なOLさんでも、案外そういう趣味を持つ女性は居る。
幅広い知識というのは、ただそれだけで武器になるのさ。
そんな仲のいい腐女子の子からネット小説を薦められていたから、今この事態だってすぐに理解できた。
これは勇者召喚だってね。
だからキモデブの考えていることだってすぐにわかった。
どうせ最初は勝てないから後半で巻き返そうとか、デブオタ主人公と自分を重ねたんだろ?
イケメンは最初だけで後半はざまぁされる存在だとか、勝手に思い込んだんだろ?
現実と妄想の区別もついてないバカが。
自分は自分。小説は小説。
自分が主人公だと思い込んだ勇者(笑)が最後はどうなるかなんて、さんざん読んだことだろうに。
そんな事もわからないから貴様は社会のゴミだということに、どうして気付かないのか。
まぁ、わざと事情に気付かないフリして適当な質問したんだから、ゴミが調子に乗るのも無理はないけどね。
だが今の時代、ゴミだって再利用できる。
どうせキモオタのことだ。今こうして事態が変わったというのに、すぐに成長してボクから逃げ切ってしまえばいいとか、そんな簡単なことしか考えてないんだろうね。
逃がすわけないだろう? 君のステータスはボクの物なんだ。
すぐにステータスを奪って逆らえなくしてやるから安心したまえ。
やれやれ、君が悪いんだよ? 君がそんな力にしなければ、ボクだってもっと違うものを選んだというのに。
分をわきまえないブタの分際で、余計なことを考えるからこうなるのさ。
ふぅ、これから先が思いやられるよ。いくら異世界で勇者だからってボクは目立つのは好きじゃないのに、こんなブタが居たらどうなることやら。
人知れず世界を救い、人知れず去って行く救世主。
けれど世界中の人々に鮮烈に刻み込まれたその姿。
それこそボクの考える理想の勇者だ。
ブタはブタらしく、せいぜい頑張ってレベルを貢ぐことだね。そしたら女の一人くらい回してあげるから。
気が向いたらね。
「それでは、貴方には力を奪う力を授けます。間違いないでしょうか?」
「はい、お願いします」
ボクが答えると先ほどのブタと同じように体が光に包まれた。
その時間は一瞬だったが、確かに何かが変わったような感じがあった。
これでボクは力を得たというわけだ。
やれやれ。ボクとしたことがこんなことでドキドキするとは。
ふふっ、早く異世界に行きたいものだね。
さぁ、君も早く欲しい力を言いたまえ。
もちろん気負う必要はない。何があろうとこのボクが守ってあげるのだから、君には強い力なんて必要ない。
ああでもある程度の力はあったほうがいいのかもね。
となりのギャルっぽい彼女にいじめられでもしたら大変だ。
ボクが二人の取り合いにならないよう上手く立ち回れる自信はあるが、さすがに異世界だからね。何があるかわからない。
さっ、君も一歩踏み出すといい。
光り輝く、未来に向かって。
「あのっ、私は誰からも愛してもらえる力が欲しいですっ」
ちっ、メンヘラだったのか……。
◇
男の子ってバカだよねー。
何で戦う事しか頭にないんだろ。
いつまで経っても心は少年とか言うけど、それでも限度があると思うよ?
だから私は平和に世界を救うのです!
敵も味方も関係ないよ。全ての人が愛に目覚めればそれだけで戦争は終わるもん。
愛は世界を救う、だよ☆
でも何故か私の周りの男の子たちって、勝手に喧嘩し始めるんだよね。
おかしいよね。私が止めてって言ってるのに止めてくれないの。
『貴方は誰が好きなの? 私が言ったんだから止めてよ』って言うと『お前こそ誰が好きなんだ!』だって。
そんなの、みんな好きに決まってるじゃん。
独占欲が強いのはいいけど、縛られっぱなしはイヤ。
だってこんなに可愛い私は誰からも愛されないとダメなんだから!
ゲームだって可愛い子はそうなんだから、それ以上可愛い私に無理なはずないもんねっ。
喧嘩の仲裁が面倒になったからキャラチェンしたけど、私結構ハマってたかも?
いつでも明るい可愛い女の子より、ちょっと地味で大人しい女の子のほうがみんな気をつかってくれるんだもん。
目の前のキモデブと勘違いメガネも何度も見てくるもんね。
見てない振りしてるかもしれないけどバレバレだからね? 可愛いからつい見ちゃうのは、しょうがないけどっ。
キャラ作るのはちょっと面倒だけど、でも大事にしてくれるし喧嘩はしないし、最近やっとお姫様気分になってきた。
異世界に行っちゃうと折角のお友達とお別れになっちゃうけど、でも異世界にも素敵な人が一杯居るよねっ。
もちろんデブとメガネもお友達にしてあげるよ? デブは視界に入れなくても勝手に頑張ってくれそうだし、メガネはアクセサリー代わりに丁度いいかな。
一人で歩いてるとすぐに声かけられちゃうから、虫除けに丁度いいもんね。
これ以下の男は声かけてくるの禁止! ってね。逆に言うと、寄ってくるのはメガネ以上の男ばかり。
キャッ、たのしみっ♪
だけどどうしてみんなが喧嘩するのか、やっと理由がわかった。
まだ愛が足りなかったんだよね。だから私のことを信じ切れなかったんだよね。
でも女神様の愛を私が手に入れたらサイキョーでしょ?
生きとし生けるもの、世界の全てを愛します。なーんてっ。
そうしたら誰だって私の言うことを聞いてくれるし、戦争だって起こらない。
私ってば本物の女神様だったんだね。もう最高っ。
だから早くっ、私に愛をちょうだい?
「愛してもらえる力、でよろしかったですか?」
違いますーそんな簡単なものじゃありませんー。
もう、これだからオバサンはキライなの。都合のいいことだけ無視しちゃって。
「はい。ありとあらゆる全ての人から最高の愛を注いでもらえる力です。愛に気付いた人が愛のために生き、愛のために世界を変えていく、そんな素敵な力。私は、全てに愛し、愛されたいのです」
「わかりました。ありとあらゆる全てから最高の愛をもらえる力。愛に気付いた者が愛のために生き、愛のために世界を変えていく力。全てを愛し、全てに愛される力。で、よろしかったでしょうか?」
「はい、間違いありません」
私がそう答えると、ようやく私の体が光に包まれた。
もう、面倒かけちゃって。
でも許してあげちゃう。だって私は全てを愛する女神様なんだからっ。
あっ、もちろん貴方のことだって愛してあげるよ?
ケバい化粧と精一杯オシャレした服がなければ何もできない、可哀相なギャルのオバサン?
歳なんか知らないけどコーコーセーっぽいし、チューガクの私からしたら十分オバサンだよねー。
だから早く、貴方も力をもらいなさいよ。
どうせ何したって、貴方は愛されないんだからっ。
「じゃー私、なんでも切れる剣が欲しい」
なぁんだ、ただのおバカさんかぁ。私バカは嫌いなの。さよーならー。
◇
“なんでも切れる剣が欲しい”
最後に残った少女は、特に気負った様子もなく私に向かってそう告げた。
それこそ、ファーストフードのお店でハンバーガーセットでも注文するかのような軽い感じで。
いやいや軽すぎでしょ。
これで貴方の人生がどう変わるかわからないのに、よくそんな調子で言えるわねこの子。
他の三人とか汚物でも見るかのような目を向けてるけどビクともしないし。図太いわねぇ。
「それでは、なんでも切れる剣、でよろしかったでしょうか?」
一応確認入れたけど、やっぱり変わらないわよね。
「あ、ゴメンやっぱナイフで。大きいと運ぶの面倒だし」
変わりはしたけど剣からナイフって。
まぁでもいいでしょう。その言葉が本気かどうかなんて、目を見ればわかる。
だったら私は欲しいものを上げるだけ。
この子の言う通り、“なんでも切れるナイフ”を。
先ほどまでの三人と同じように彼女も光に包まれ、光が消えた後には一本のナイフが彼女の膝の上に乗っていた。
「これかー」
何の変哲もない、ただのナイフ。
彼女の世界では果物ナイフって言ったほうがいいのかしら。折りたたみのできる小さなナイフだった。
「ねぇ、これってもう使えるの?」
「もちろん」
「そか」
答えた彼女は椅子から立ち上がり、何も無い方向へ向かって数歩ほど歩いた。
そして何も無い空間に向かって、縦に二回、横に二回、ナイフを振った。
ナイフを振ったあとには、四角の切れ目。
何も無い空間に浮かんだ四角い切れ目を、ベロンとポスターをはぎ取るかのようにめくって、
「じゃ私帰るわ。あ、ゴメンけどここ塞いどいて」
「放っておけばすぐに修復されますから、お早くどうぞ」
「あそ。じゃねー」
まるで友人の家から自分の家に帰るかの調子で、彼女はそのまま去って行った。
彼女が切れ目を通って数秒後には、その切れ目は綺麗に消えてなくなった。
さて見送りも終わったことだし、残りも送ってしまいましょうか。
「あ、あの女神様? 今のは?」
メガネ、質問は三個だけって言ったでしょーが。
まぁでも多少なら時間あるし、それくらいは話してあげよっか。
「今のは空間の切れ目です。彼女が自分のナイフで切り裂いたのです」
「く、空間を!? ですが彼女のナイフは……」
「“なんでも”切ることのできるナイフ、です。自分が切りたいと思えば人であろうと鉄であろうと、惑星であろうと宇宙であろうと、そして世界と世界の壁であろうと切るとこができます。恐らく、元の世界へ向けて壁を切り裂いたのでしょう」
彼女は最初から元の世界へ帰るための質問しかしていなかったからね。
私は異世界に送り込む立場だと思ったんでしょうね。直接『帰る方法を教えて』と聞なかったのは。
だから疑われないように異世界でも使える物を選びつつ、元の世界に帰るための物を選んでた。
ストレートに聞かれても答えてたけどね。
「そんな! 女神様の力では元の世界に戻せないと言っていたではないですか!」
「アレはすでに彼女の力です。私の力ではありません」
答えてたけど、じゃあ元の世界に返せって言われたら拒否してた。
だって私が私の意思で呼んだんだから、そう簡単に返すわけないでしょうか。
だから自分の力で帰ろうとした彼女は大正解ってわけ。
『“女神様の力”で、元の世界に帰してもらうことは』って聞かれたから答えたけど、自分の力で帰れないとは言ってないんだから。
「け、けど元の世界に戻ったって、私たちの体は死んでるんですよね。なのに魂だけ戻ることなんて、許されるんですか?」
「何か誤解があるようですが、貴方たちは誰一人として死んではいませんよ?」
「「「!?」」」
四人が乗っていたエレベーターが壊れ、落下した。
けど安全装置が正常に働いたため、誰一人として死んではいなかった。
いくつかの怪我、それと落下の衝撃で気を失っただけ。
彼女以外は全員死んだと思い込んでたみたいだけどね。
その質問を最初にしないからよ。全員考えすぎ。というか順応しすぎ。
訓練されたオタクってのは、業が深いという事かしらねぇ……。
まぁでもその分チート能力は手に入れたんだから良しとしなさい。普通に遊んでても余裕で世界最強になれるから。
「さて、そろそろ時間がありません。皆さんを異世界にお送りいたします」
「なっ、ちょっと待ってください!」
いやあんたらの質問のせいで時間ないから。これ以上居るとホントに魂消滅するから諦めなさい。
「卑怯だろクソ女神!」
うるさいデブねぇ。アンタを一番に飛ばしてあげるわ。
「オバサン! いくら私が可愛いからって、恨むのは筋違いよ!」
ぷちっ。
「それでは皆様。異世界での活躍を期待しております」
ちょーっと手元が狂っちゃったけど気にしなーい。
ホントは召喚儀式してた国に飛ばそうと思ってたけど知らなーい。
あとのことなんて知らない知らなーい。
うん。私頑張った。いい仕事した。
さーってお茶でも飲みましょっかねー。
◇
「やっほー久しぶりー」
「また来たの……」
呆れたように言っちゃったけど、普通そう思うわよね?
目の前に居るのは、こないだ元の世界に戻ったはずの彼女。
『元の世界に戻れたんだから、またこっちにこれるはず!』的な調子で世界の壁を切り裂いてやってきた。
もちろん今度は生身で。じゃないと長居できないしね。
でも今日で何回目だっけ……。
「だってここのお茶美味しいんだもん」
「そりゃ私のお茶だからね。ていうか女神のお茶をカポカポ飲むな」
「じゃあその手にあるガリ○リ君返して」
「お茶くらいならいくらでも飲んでいいから、次は梨でお願い」
「おっけー」
この世界のお菓子文化はヤバいわね。この金額でこの味って、人間ホント凄いわ。
「そういえばさーアッチの世界はもう救われたの?」
「とっくに滅びたわよ」
「早っ、まだアレから三年しか経ってないのに、一体どーしたっての勇者様たちは」
あら、もう三年経ってたの。まだこないだの気分だったわ。
「あれからどうなったのか、聞きたいですか?」
「うわ、美人が無駄に丁寧で上品な笑顔すると迫力あるよねー」
「褒めてんの貶してんの」
「すっごい褒めてる。じゃあ聞かせて」
「はいはい」
と言っても語ることはそんなに多くない。
まずはデブ。
成長したらした分だけメガネに力を奪われて、レベル1のまま死んでった。
ていうか三日目で死んだ。
後半を考えるのはいいけど、まず死なない前提があってこその考え方だよね。
なんの知識も技術も無いただの人なんだから、最初の一歩こそが大変でしょうに。
メガネは最強と言えるほど強くなる前に暗殺されて死んだ。寝込みを襲われてざっくりグチャグチャと。
いくら強くても、無防備な状態では大したことできないわよね。
こっちは半年持ったから、まぁまぁ頑張ったほうかな。
でもチキン野郎だったから片っ端から能力奪っちゃって、強くなった分恨みも買った。
魔物も人も関係無しに奪ってたしね。
あと一番の理由はあのクソビッチ。
ビッチをモノにしたいやつがメガネを暗殺したのよね。
ん? ビッチが一声かければ争いなんか無くなるんじゃなかったのかって?
そんな知性があればそうかもしれないけどね、メガネをヤったのは知性の弱い魔物だったのよねー。
ほら、あのビッチ『“全て”に愛される力』って言ってたでしょ?
だからビッチを愛することのできる、全ての存在がビッチに群がったのね。
人は男も女も関係無し。
それから虫も動物も魔物だって関係無し。
知性が無くても本能で愛せるしね。
メガネの保護が無くなって魔物に拉致られて、あらゆる生物にさんざん犯されまくった挙げ句発狂。
で、この時点で既に世界はヤバいことになってたの。
メガネのせいで強い人間が居なくなったからあっさり国が滅びるわ、ビッチを手に入れるために魔物同士で世紀末的な戦争始めるわ。
最後は究極の愛は死してなお続くーとか言う上位の魔物が、世界中の生き物(自分含む)を死滅させる魔法を使って終わり。
「うん、どうしようもないね」
「どうしようもないでしょー」
「でも良かったの? 世界壊滅ぼしちゃって」
「だって勇者を求めたのはあの世界の人間だから、それを使ってどうしようが知ったことじゃないわよ。生き物は居なくなったけど世界そのものが壊れて無くなったわけじゃないんだから、数万年ほっとけばまた何か生まれてくるでしょ」
管理するのは世界であって人じゃないし。
召喚のお願いを聞いたのははっきり言って気まぐれ。無視してもいいけど、たまには仕事しないとねー。
「気の長い話だねぇ。あ、お茶お代わり」
「はいはい」
私ももう一杯。
あーお茶が美味しい。やっぱり平和が一番よ。
「よし、それじゃ帰ろっかな」
「今日は早いのね」
お代わりしたお茶を一息で飲んじゃって、もう少し味わいなさいよ。
「最近忙しいんだって。海外の大学入ったら飛び級すすめられちゃって、調子に乗って飛び級したらアレコレ押しつけられて。折角日本に帰ってきたのに忙しいし……あー、JKに戻りたい……」
「でも楽しいんでしょ」
「まぁねー」
制服を着崩した彼女も可愛かったけど、少し大人っぽい服装になった彼女はもっと可愛い。
高校生だからできるオシャレして、今は大学生らしいオシャレして。
やっぱり好きなことを全力でやってる人間は輝きが違うわね。
その眩しさをあの三バカはケバいとか思ってたんだろうけど、揃いも揃って節穴だったということね。
本当に残念なやつらだったわ。
「そうそう、今別の世界で勇者召喚の儀式が始まったんだけど、行かない?」
「その世界にガリ○リ君はあるの?」
「無いわ」
「じゃあ行かない」
でしょうね。
「それじゃまたねー」
「ええ、またね」
そのままあっさり帰っていく彼女。
ああいう楽しい人間って本当に少ないのよね。人間にしとくのが惜しいくらいだわ。
今度女神業に誘ってみようかな? 多分断られるけど。
ま、とにかく目の前の仕事を片付けちゃいましょうか。
三年ぶりの勇者召喚だし。
あーでもさすがに前回みたいにならないようには気を付けましょうか。
デブなんて死ぬ寸前まで『召喚詐欺だぁ!』って喚いてたし。
うるさいわ、デブ。
まぁでも説明が少ないのは事実だよね。
やっぱ質問は三個以上にした方がいいのかなぁ。
でも数が多いと一つ一つの質問を大事にしなくなるから、途中でグダグダになるのよねー。
あと私が疲れる。必要以上にこの場に魂留めようとすると、一気に大変になる。最近の日本人はほとんど説明しなくても勝手に察してくれるから助かってたんだけど。
昔は大変だったのよねー。説明が長いから召喚の度にこっちまで死にそうになるほど力使わされて。
うーん、とりあえず五個にしてみようかな。
次回はまた考えよう。
さて。
だ・れ・に・し・よ・う・か・なーっと。