8.
「はい、薙。これお土産!」
兄が満面の笑みで差し出したお土産は銀色のチェーンにぶら下がっている飛行機の形をした小さなぬいぐるみだった。
「ん、おにいちゃんありがと。」
「うん!どういたしまして。保育園のカバンにつけれるのを探したんだ!」
「蓮ったら飛行機そっちのけで薙へのお土産を探しはじめたんだよ。飛行機に割いた時間、お土産を探す時間よりも短かったんじゃないか?」
「パパ、それは言わない約束でしょ!!!」
「そうだったかぁ?」
真っ赤になって怒る兄を父は軽く流すと私を抱き上げた。
「薙、体調は大丈夫か?」
「ん、だいじょぶ。」
「そうか。それならよかった。」
父は優しく微笑み、頭を撫でてくる。
「明日はみんなで出掛けられるといいな。」
「あなた、そういえばね………。」
母がイタズラを思いついた子供のような顔をして父に何かを耳打ちした。
抱っこされていたが、あまりにも小さな声で母が話したので何を言っているのか聞き取れない。
「な……そんなっ?!だ、駄目だぞ!認めないっ!!認めないったら認めない!!」
「パパ……?」
耳打ちされた父はいきなり叫びだすと真剣な表情をして私の顔を覗き込んだ。
「いいか、薙。これから先、お前はパパとママの元から旅立っていくのかもしれない。だかな、パパは薙を安心して任せられる奴じゃないと認めない。そんな奴は中々いないだろう…………いや、むしろ一生いなくていい。ずっとパパとママの所にずっと居ればいいんだ。わかったな、薙?」
「?パパ、なにいってるの?」
いや、うん。言っていることはわかる。前世の記憶があるから。だが、なぜこのタイミングで言うんだよ?それに小学一年生にもなっていない娘にいうことじゃないだろう………。
母よ、何を父に言ったんだ。
「ふふふ。あなたったら動揺しちゃって。」
「誰だって動揺する!可愛い娘に変な虫が付くかもしれないんだからな!!」
は?いやいや。なに言ってるの??わけわかんないよ。
「あら、私はそんなこと言ってないわ。ただ、『薙が気になる人がいるみたい。話を聞いてあげて?』って言っただけよ?」
「っ!ママ、それ本当?!だめだよ、僕も認めない!僕の薙なんだから!!」
「そうだ!蓮の言うとおりだぞ!!」
母がニッコリ笑顔で爆弾を投下した。
それに反応したのはシスコン疑惑が私の中で出ている兄。そして子煩悩な父。……まぁ、娘を持っている父親なら誰もが言いそうなことだけどさ。それをわかっていて、母は二人で遊んでるっぽいなぁ。
おかしいな…母は儚げ美人で守りたくなる外見と性格なのに。とんでもない一面(ドS)を隠し持ってたとは。
『私が気になる人』って三上 大輔のことだよね?気になってはいるけど、そういう意味ではないんだがな………。
「認めない!認めないんだからなぁ!薙の一番は俺だ!」
「僕の薙を変な男に渡さないもんねっ!薙の一番は僕なの!!」
「パパ、おにいちゃん、うるさい。」
ヒートアップしていく二人がうるさい。
嫌そうな声で止めると今度はショボンとしはじめた。
「そうか、薙はパパが嫌いなのか。」
「僕の薙が……薙が…うう。」
「あらあら。」
めんどくさい。
そして母、貴女がこの状況を作りだした張本人だよ?!
仕方ない。誤解をさっさと解くか。
「パパのこと、きらいじゃない。おにいちゃんのことも。みかみ だいすけっていうひとがうたってるCDほしいの。」
「そうか!薙はパパのこと、好きか!!」
「薙、僕の薙でいてくれるんだね!!」
二人にギュウギュウに抱き締められる。…結構苦しい。
「ふふふ。二人とも面白いわね。それに薙は可愛いわぁ。」
母も参戦して更に苦しくなる。
もしかして、三上 大輔のCDが欲しいってこと伝わってない?そして私、愛されてるな。
ありがとうございました。
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