6.
私に水を飲ませ、額に冷えピタを貼り、頭の下にきちんと氷枕を敷くと母は下に降りていった。きっと、これから私のリクエストしたお粥を作るのだろう。
上からも下からもヒンヤリとした冷気に火照った頭が冷やされる。
目を閉じて、さっきまで私が見ていたはずの夢を思い出そうとする。
「だめ、だ。おもいだせない……。」
残念ながらまったく思い出せない。ただ一つ確かなことは良い夢ではなかったこと。それだけだ。
夢を見ていた時、流れていた涙。それに答えを求めるように、私はいつまでもかわいてひりつく頬に触れていた。
「薙?なーぎ。寝てるの?お粥、出来たわよ。薙、起きて。」
頬を触ったまま寝てしまったようだ。母の声が聞こえたので目を開けると湯気を立てる鍋を持った母がいた。
鍋からは美味しそうな香りがしている。
グウッ
「あら。」
母は私のお腹の音を聞き、面白そうにクスクスと笑った。
「ちょうどお腹もへったみたいだし……お粥、食べる?」
器にお粥をよそいながら母が言う。
「たべ、る……」
起き上がりながら答える私の声は少しかすれていた。
母は水の入ったコップを私に差し出すと、もう一つの器にお粥をよそいはじめた。
「ママも薙と一緒に食べちゃうわ。ふふ、薙と二人きりで食事って久しぶりね。」
水で喉を潤しながら聞こえる母の嬉しそうな声にやけにホッとする。
そういえば、父と兄はどこに出掛けたのだろう?母に聞いてみようか。
「ママ、パパとおにいちゃんはどこいったの?」
「パパと蓮は飛行機博物館に行ったわ。お昼はその近くにあるレストランで食べてくるってさっきメールがきたわよ。」
「そうなんだ。」
「はい、薙。お粥、食べよっか。」
お粥のはいった器と子供用のクマさんスプーンを受けとって膝に敷かれたタオルの上に置く。器から美味しそうな香りが立ちのぼって鼻をくすぐる。
「「いただきます。」」
スプーンで一口お粥をすくい、口に運ぶ。
「っ!!」
おいしい。その一言に尽きる。
お粥にかかっている出汁の効いたあんかけ、細かく刻んだシャキシャキのネギがお米と素晴らしくマッチしている。
「!!」
スプーンが、止まらない。一口食べるたびに美味しさが溢れる。
「ふふっ。薙、美味しい?」
私の様子を見ながらスプーンを口に運ぶ母。三十歳とは思えない若々しさ。……むぅ、こんな女性になりたいものだ。
今世の私の母、樫木 華はとても綺麗で料理がとても上手い。
『続いては、いま注目のビジュアル系バンドの……』
「薙、大丈夫なの?気持ち悪くなったら言うのよ。」
「ん。わかった。」
いま私は一階のソファに座ってテレビを見ている。
お粥を食べた後、五時間眠ったらだいぶ気分もよくなったので下に降りたのだ。
母は台所で夕飯の準備をしながら心配そうに時々様子を見にくる。
『……の皆さん、ありがとうございました。続いては、番組初登場!!アイドルグループの……』
いま見ているのは、音楽番組だ。だが、なかなか私の心を掴むパフォーマンスをするアーティストがいないのだ。
さっき出ていたビジュアル系バンドは白塗りお化けみたいだし、いま歌って踊っているアイドルグループは歌も踊りも下手くそ。がっかりだ。
『ありがとうございました。素敵なダンスと歌でしたね!』
司会の人が本気で褒めているのだったら、彼女の頭を疑ったほうがいいだろう。
『さて、続いては…ダンスと歌が売りの初登場のアーティストさんです!どうぞっ!!』
司会の人、なんかこのアーティストだけ言い方が雑な気がするぞ。
「つぎのひとがざんねんだったら、かえよう………」
リモコンを手にスタンバイ。さあ、お次の残念アーティスト!こい!!
『♪〜♬〜♫♩♪』
音楽が流れてステージ上のアーティストが歌い、踊りはじめた瞬間。
「!!」
私は、心を鷲掴みにされた。