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悪役ーなにそれ美味しいの?  作者: 白城ソラ
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4.

鏡に映っている樫木 薙、つまり自分を改めてじっくりと見る。

青みがかった肩まである艶やかな黒髪ストレートに黒の瞳。無表情で色白のまだ幼い小顔、長い手足。一言でいうと美少女である。年齢は多分、五歳だろう。記憶を探って去年の五月に五歳になっていることを確認。

ラッキーなことに前世の記憶と今世の記憶が上手い具合に融合しているので結構すんなりと現状が受け入れられている。

ヒリヒリする額に手をやり、鏡を覗くとうっすらと赤くなっていた。


「かがみにゴッツンしたんだ。」


おや?おかしいな?「鏡にぶつけちゃったんだ。」と言ったつもりだったんだが……。


「ゴッツンして、ぜんせのきおく、おもいだしたんだ。」


あらら。「ぶつけて、前世の記憶、思い出したんだ。」と言ったつもりなのに……。精神年齢は前世と今世を合わせて三十歳でも体はまだ五歳児なのか。

むむっ。五歳だと自覚した途端に眠くなった。そういや寝る前に鏡を覗いてたら頭をぶつけて前世の記憶を思い出したのか。

壁に掛けてある時計を見ると、もう夜の十時過ぎ。子供は寝る時間だ。これからのことを考えたかったがまた明日にしよう。

額をさすりながらフカフカのベッドに入り、目を閉じる。


おやすみなさい。







「……ぎ。………てる?な……。起きてー。薙??」




「?ん……」


自分の名前が呼ばれた気がして重い瞼を開けると視界いっぱいに美形(少年)が広がっていた。


「………!」


誰か叫ばなかった私を褒めてくれ。


「おはよう、薙。なかなか起きないから心配したよ。」


少年(美形)は爽やかな笑顔で挨拶をしながらベッドから降りた。

さらさらな黒髪ストレートに黒の瞳、色白の整った顔、長い手足、歳は九、十歳ぐらい……あっ。誰だかわかった。


「ん。おにいちゃん、おはよう。」


私の兄、樫木(かしぎ) (れん)だ。

表情を変えないままコクンと頷き、あいさつを返すと兄は不満気に口を尖らせた。


「もう…せっかく可愛いんだからさ、笑わないのは勿体無いよ。薙には笑顔が一番似合うよ?僕は薙の笑顔がずっと見てたいな。」


………兄よ、そういうセリフは彼女ができてから言いたまえ。妹にいう言葉ではない。


「おにいちゃんも、えがおのほうがにあう。」


コテンと首を傾げて言うと兄は途端にパアッと笑顔になった。


「ああ、もう!!何で薙はそんなに可愛いのかな?!無表情でも可愛いとか…天使だね!それじゃあ僕の薙、朝ごはん食べよっか。」


「ん。たべる。」


兄と手を繋いで部屋を出る。そこで自分がパジャマのままだと気づいた。兄はきちんと普段着に着替えている。


「おにいちゃん。ふく、きがえてない。」


「んっ?ああ、薙はそのままで良いんだよ?着替えはごはんの後にしよっか。」


「ん。わかった。」


そのまま兄に手を引かれて再び食卓に向けて歩き出すのだった。





「蓮、薙おはよう。」


「お母さん、おはよう。」


「ママ、おはよう。」


食卓に着くとまず私の母、樫木

(かしぎ はな)があいさつをしてくれた。母は黒髪ストレートに黒の瞳の儚い雰囲気の美女である。ちなみに私は母似だ。


「アナタ!聞いた?薙がママって言ったわよ!!ママって!!!」


(はな)、毎日呼ばれてるだろ。蓮、薙。おはよう。今日はいつもより遅いな。」


「お父さん、おはよう。今日は薙が起きるの少し遅かったんだ。」


「パパ、おはよう。」


朝から興奮する母を宥めてあいさつをしてくれたのは私の父、樫木(かしぎ) (ふじ)。黒髪ストレートに黒の瞳の爽やかな雰囲気のイケメンである。兄は父似だ。


「今日、起きるの遅かったのか?具合悪かったら言うんだぞ。土曜日なんだしゆっくりしなさい。」


「だいじょぶ。」


心配そうな父に答えると、母が額に温かい手をあててきた。


「ちょっと熱があるわね……。子供だから大丈夫だと思うけど。一応、午前中いっぱい寝かせとくわ。」


「そうか……。薙、ごはん食べたら寝るか?」


「ん。ねんねする。」


母特製のフレンチトーストを食べながら返事をすると兄が拗ねはじめた。


「えぇっ?薙、寝ちゃうの?……今日は一緒に遊びたかったのに。」


「蓮、我儘言わないの。それに学校の宿題があるでしょう?」


「宿題なら昨日終わらせちゃったよ。今日、薙と遊ぼうと思ってたんだもん。」


「じゃあ、英会話の宿題は?」


頬を膨らませて母に言い返していた兄はサッと目を逸らす。その様子を見て母はクスクスと笑った。


「やっぱりね。ごはん食べ終わったら終わらせちゃいなさい。そしたらパパと二人で出掛けていいから。」


「ほ、本当?!いいの?やった!」


母の言葉に兄は大喜びするとごはんを大急ぎで食べ終え、バタバタと部屋に上がっていった。

私は食べかけのフレンチトーストをゆっくりと味わう。


カリッとした表面、噛むと口の中に広がる甘み。添えられた苺の酸味との相性が完璧。流石、料理上手の母だ。


気が付くとあっという間に食べ終えてしまっていた。


「薙、食べ終わったの?そしたら歯磨きして寝なさい。」


母が皿を片付けながら言ってきたので、洗面所に行く。


「んっと……。はぶらし、はみがきこ。」


可愛いクマの絵が印刷されている水色の歯ブラシをとり、ぶどう味の子供用歯磨き粉を手に母の所に歩いて行く。


「ママ、はみがきして。」


私の言葉に母は眩しい笑顔で頷いたのだった。

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