10.
よろしくお願いします。
父、活躍するの巻。
ドサッ
人が倒れた音がした。けれど、覚悟していた痛みはこなかった。
おそるおそる目を開けると見覚えのある逞しい背中が私と母を守っていた。
「五十嵐、久しぶりだな。」
この声は、父だ。
「俺の妻になにか用か?」
柔らかく、にこやかだが絶対零度の声で父は話している。そうとう怒っているようだ。
「なんだよぉ、樫木ぃ。俺は四条 華に話しかけてんだけどお。邪魔しないでくんない?」
「四条 華?誰それ?俺の後ろにいるのは、俺の妻の樫木 華なんだけど。」
「勝手に自分のものにしてんじゃねぇよぉ……後ろにいる女は俺のモノだぜぇ??」
「なんの話かさっぱりだな。」
「はんっ。そうやって知らねぇふりしててもなぁ…おめえは俺を殴り倒したんだからよぉ〜警察に逮捕されるんだよバァカ、けけけけけ。」
背中から覗くと膝をついて狂ったように笑う五十嵐がいた。その笑い声を遮るように父が冷たい声を浴びせる。
「馬鹿なのはお前だよ。俺はお前が自分の妻に殴りかかってたからそれを庇っただけ。監視カメラにもきっちり映ってる。……それに、華への度重なるストーカーや過去にお前が華にした仕打ち。それらを考えたら逮捕されるのはどう考えてもお前だ、五十嵐。」
「ああっ?ふっざけんじゃねぇよぉ!華は俺のモンだぁそこをどきやがれぇ!!」
「はぁ、これだけは避けたかったのにな。」
激昂して殴ろうとした五十嵐に父が素早く手刀を決めて気絶させた。
「っ……?」
訳が分からないといった顔をした五十嵐が最後まで見ていたのは、私の後ろにいる母だった。
「はい、薙。欲しがっていたCDだ。」
差し出された袋の中を見ると、昨日ネットで見たCDが入っていた。
「ん、パパありがとう。」
「お礼は必要ないぞ。ママを守ったご褒美だ。」
疲れたように父が笑って溜息をついた。
「ふぅ……予期していたけど、あそこで五十嵐がくるとはな。面倒ごとが片付いてよかったんだけど………。」
あの後、父は気絶した五十嵐を警察に引き渡した。兄がいつのまにか呼んでいたようだ。父への事情聴取は来週になった。
「あのへんなひと、どうなるの?」
「五十嵐、か?多分、病院送りだな。そこで一生過ごすことになるだろうね。」
そうか。それならいいんだ。母に、もう二度と危害を加えないのなら。
「さ、薙。蓮を迎えに行こっか。」
「ん。」
「あっ。帰る前にママの顔見にいくか?まだ面会時間は過ぎてないと思うし。」
「ん。」
母は、精神的なショックが大きすぎてあの後すぐに病院に入院した。父と兄の三人で母を入院させた後に兄を母の側に残してここのCDショップに来たのだ。なぜなら母が父に言ったのだ。
「薙に、CDを買ってあげて。心配なら蓮を残してくれれば私は大丈夫だから…………。」
「……………わかった……。」
父は渋々了承し、私をCDショップに連れて行ってくれた。
やっと手に入った。凄く嬉しいが、あまり喜べない。
あの五十嵐という男。彼について聞かなければいけない。
「パパ。」
「…………なんだい、薙。」
「いがらしってひとはなにものなの?」
不気味なほど静かな車内で、私は五十嵐のことを父に尋ねるのだった。
ありがとうございました。
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薙ちゃんはCDを手に入れた!




