魔王の思い。
短いお話です。
一応、魔王視点のつもりで書いています。
「嫌ならば、やらなければよかろう?なぜそなたは、そうまでして私にこだわる?」
私はそう、勇者に問いた。
最初は意味がわからなかった。
かなわない相手に、がむしゃらに挑み続けてなにになるのか。ひどく理解に苦しんだ。
誰が見たって、負けることが分かり切っている戦いを進んでやろうとするやつの気がしれなかった。
そうまでして、戦う意味があるのか?
そう、なんども問いたかった。
だけれども、私は魔王であいつは勇者。どんな素朴な疑問であれど、聞くに聞けない仲なのだ。
はじめは数日であきらめると思っていた。何百、何千年もの間、挑んできては帰って行くものたちを何度も目にしてきた。
そして、私のいる魔王の居城を目指してやってくる勇者は、だんだんとその数を減らしていった。
私は魔王というのは名ばかりで、善行も悪行も、なにもしない。言わば、引きこもりのような存在だ。
私に仇討ちやら、制裁を下すものは居ないし、作った覚えもない。
むしろ、魔王らしく人々を苦しめて来いと、じいやが耳の痛くなるような説教を毎日してくる。
そんな私に戦いを挑もうとする輩は、ただの筋肉馬鹿ばかりだったし、そんな筋肉馬鹿でも、臨死体験にあったらそれに懲りて姿を見せなくなった。
どんな馬鹿でも、生命の危機に晒されれば学習するらしい。馬鹿は死ぬまで治らないというのは、割りと当たっていたようだ。
そんなわけで長年勇者などとは無縁だった私の元に、新たなる勇者が現れた。
それが今、私の目の前で剣を構えているこいつだ。
そうだな……見た目はイケメンでもないがブサイクでもない顔立ちで、割りと間抜けそうな、これといって特筆すべきところがない奴で、これまでこの城にきた歴代の勇者たちに比べたら、かなり貧弱そうだということぐらいが、特徴だな……。
ううむ…。今更だが、なぜこいつはここまでこれたのか……これのことに関しては疑問が尽きないな。人間にこんなに興味を持つことがあるとは思ってもなかったな……面白い。
「なに笑ってるんだよ。余裕だな。こんなに追い詰められてるっていうのにさ」
笑って……笑っていたのか、私は……。
ほほぅ…。これは面白い。
今まで無意識に笑うことなどあっただろうか、いや、ないな。あったらじいやに気持ち悪がられているはずだ。
「追い詰められているだと?それはお前の方であろう。こんなところまでのこのこと入ってきおって、警戒心のない輩じゃの。よく考えてみよ。ここは私の城なのじゃぞ?」
まぁ、実際追い詰められているのが事実なんだがなぁ……。もう少しこうして遊んでいたいから、少しだけ嘘をついても罰は当たらないはずだ。
この勇者に斬られるその時まで、楽しんでやろう。この世界をな。
諦めないでここまできてくれたそなたに、私はひどく感謝しているのだ。
読んでくださって、ありがとうございました。
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