第一章 出会いと幸せ
初投稿なので暖かい目で見てやってください(^。^;)
~病室~ 4月1日 優音滴
私は、何も恐れずこれから起こる事に期待もせずただ毎日を過ごしていた。朝が来て夜が来るその繰り返し。毎日が私にとってそれほど価値ないことだ。私はいつものように病室の窓の外を眺めていた。病室の外は桜で満開で、何本もの桜の木が生き生きと立っていた。きっとこの頃になったら皆、入学式や卒業式などがあり新しい未来が待っているのだろう。
ー百合桜 優音滴ー
10歳の頃から骨髄線維症でこの桜宮丘総合病院に入院している。本当なら今頃は中学二年生という新学期を迎えて楽しく友達と学校へ通ってるはずだけど…
カレンダーに目をやると4月1日という文字が目に入ってきた。
「今日は4月1日か…。」
ガラララ-
病室のドアが開いた。
「優音滴~」
パパだ。パパは私の病室に入ってくると近くの椅子に腰掛けて私の方を見た。
ー百合桜 大ー
38歳。仕事は全然出来ないけど家事や料理はとても得意。
パパは私の顔を見て一言った。
「外に出てみないか?」
私の心の中に一瞬で喜びと楽しみが脇あげてきた。
「えっ?いいの?」
「いいよ。外は桜が満開で綺麗だぞ。こんな時ぐらい外に出ないと病気が酷くなっちゃう。七瀬先生にもしっかり許可もらったし。」
パパは微笑んでいった。外に出るなんて何ヶ月ぶりだろう?嬉しさのあまりベットから素早く起き上がり外に出る支度をした。
~噴水広場~
久しぶりの地面と太陽に胸が高鳴った。病院の外は人の賑やかなざわめき声が聞こえ噴水の水の音が聞こえている。ふわふわと暖かい風が心地よい。私は噴水の前のベンチに腰掛け目をつぶり外の心地よさを感じていた。するとさっきまで緩やかだった風が急に強くなり、私の白い帽子が飛んでいってしまった。
「あっ。」
ふわりふわりと風にのって飛んでゆく。それを必死で追いかけていた。
「大丈夫ですか?」
聞いたことのない初めて聞く声だった。目の前を見ると私の帽子を持った青年が軽く微笑んで立っていた。
「あっ、あの…ありがとうございます。」
その青年は、私に帽子を渡すと何事も無かったかのようにその場を去っていった。耳に残る優しい声だった。
私はずっとその場に帽子を持ったまま立ち尽くしていた。
4月2日 7時18分~病室~
明るい日差しがカーテンの隙間からこぼれ落ちていた。眩しさに目を覚ますと看護士の牧原さんが朝食と薬を持って立っていた。
「おはよう~!」
牧原さんの明るい挨拶で今日もまた私の1日はスタートした。ベットの机にはいつもと変わらない病院食が置かれた。病院食の味が嫌いという訳ではないがパパの料理に比べたら100倍ほど美味しくはないものである。朝食が終わるとすぐに薬の時間。私はこの病院に入院して4年が経つが今だに薬と点滴は世界で一番嫌いなものとなっている。そんな事も知らずに牧原さんは大量の薬を私に次々と渡して来る。
「はい、じゃあ次これ飲んでね。」
その牧原さんの言葉が一言一言悪夢のように聞こえた。それでも私は薬を全て飲んで点滴にも打ち勝った。カバンに教科書と筆記用具を入れ髪を整えて院内学級へ向かった。
~院内学級~
「あっ!おはよ!優音滴~」
教室のドアを開けると私の一番の友達、上野川 花音が手を振って声をかけてきた。
「知ってる?今日、転院生が来るんだって!」
「えっ?本当に?初めて知ったよ!」
驚いた。転院生なんてめったに来ないから新しい友達が来るのが楽しみになった。回りの友達も転院生が来るという話で持ちきりだった。
「はいはーいっ!座って~!」
勉先生が手を叩き机の前に立った。その瞬間教室全体が静まり返った。
「今日は転院生を紹介する。入ってきて。」
勉先生がそう言うと教室のドアが静かに開いた。入ってきた転院生を見るとどこかで見覚えのある顔だった。短めの髪に二重の瞳。……確か…
「節三 健助です。宜しくお願いします。」
青年は一礼して顔を上げると私は頭の中で誰だかを悟った。昨日、私の帽子を拾ってくれたあの青年だった。顔と声も一致していて驚いた。
「はい、宜しくね。じゃあ~健助くんの席は…。あそこ。」
勉先生が指差した先は私の隣の席だった。
「はい。」
冷淡に返事をし、青年は私の隣に座った。その瞬間何ともいえない気まずさになってここから逃げ出したくなった。しかし…
「昨日、会ったよね?宜しく。」
気まずい空気をものとはせず、青年は私に話かけてきた。
「あ、うん!宜しくね。」
上手く返事は出来なかったが何だか親しみを持てたような気がする。
~病室~
授業が終わり、病室に戻った。すると私のベットの隣のベットに衣類や本などが積まれていた。私の病室は4人用にベットが4つあるが今までこの病室にいるのは私だけだった。
「病室も一緒だね。」
病室のドアから彼が顔を出して言った。
「本当だ。何かの縁なのかな?」
普通、男女共に病室が一緒になることはめったに無いことだ。
「ねえ、なんて呼べば良い?…名前。」
彼が荷物を棚に終いながら言った。
「えっ名前?百合桜 優音滴。百に合桜で百合桜。しずくは優しい音の滴で優音滴。呼び捨てでいいよ。」
「へ~。優音滴って珍しい名前だね。由来は?」
不思議そうに彼が見つめる。
「由来は…。優しい子供に育ち、豊かな音に溢れるように。滴は…付字みたいな?なんかグダグダな名前だから…。あっそうそう!節三 健助くんだよね?なんて呼べば?」
その瞬間私の頭の中で色々なニックネームが浮かび上がった。健くん、けいくん、けー、けいた、けーちゃん。そのけーちゃんというニックネームが頭に浮かび上がった瞬間思わず吹き出してしまった。
「ハハハッ。」
彼は本棚に本を入れる手を止めて言った。
「?…どうしたの?」
「いまね、頭の中でけーちゃんっていうニックネームが思いついたんだ。けーちゃんって言うニックネーム。…面白いね。」
「いいじゃんっ!それ、何だか長年の幼なじみが呼ぶ呼び方みたいでいいね!」
思いもよらぬ回答が返ってきた。″けーちゃん″なんて絶対反対されるとおもったのに。
「僕、あんまり親とかに恵まれてないからそういう親しみのあるニックネームで呼ばれると嬉しいよ。」
「じゃあきまりねっ!」
昨日、初めて会ったばかりなのに出会って2日で親しみを持てた。
4月3日 ~病室~
病室にはけーちゃんと私の2人。何も喋らないというのもおかしいので何となく声をかけてみたりした。
「…あのさ。どこから転院してきたの?」
けーちゃんはベットの上で顔だけこちらに向けた。
「京都の角岡山病院って所。」
「京都?!!京都ってお兄ちゃんが住んでるよ!」
「えっ?お兄ちゃんと離れて暮らしてるの?」
「うん!お兄ちゃんは京都の高校の寮に居るから。ママはアメリカで私のために難病を研究してる。だからパパしか病院には来てくれないけど3月には家族揃ってお見舞い来てくれるから。けーちゃんの家族は?」
そう聞くとけーちゃんは顔をしかめ、何かを隠しているような顔になった。
「僕は、父さんだけ。母さんは僕が8歳の時、家を出て行った。」
「そう…なんだ。」
病室は静かになってしまった。この場をどうにか切り抜けないと。
「あ!そうだ。けーちゃんはこの病院に来てまだ間もないから病院の中のことあんまり知らないでしょ?これだけは誰にでも自慢出来ることだから来て!!」
私はけーちゃんを病室の外に呼び出し、小児病棟㊤の扉を出てエレベーターへと向かった。
~フロア~
エレベーターを降りてフロア一階に着いた。
「私、この病院のことなら何でも知ってるから案内するよ。」
そう言って私はフロア一階の広場へと案内した。
広場や待合室はいつものように人が多く溢れていた。
「そこの広場には月に一回カウンセラーの人や病気の説明会が行われるんだ。」
けーちゃんは興味深々な様子で辺りを見渡した。
「そう言えば僕たちの小児病棟㊤と㊦の間にも、広場があったよね?」
「うん!行ってみる?」
けーちゃんは深く首を上下に降った。
~小児病棟広場~
広場では小さい子供達がブロックや積み木などで遊び、広場の中心部分にある机には小さな女の子達が思い思いのクレオンを手に取り、絵を描いていた。
「ここはね、小さい子供達が遊んだり、ここでお誕生日会をしたりするんだよ。けーちゃんの誕生日はいつ?」
「僕は、3月2日。」
「えっ!すごいっ!私のパパとママも3月2日だよ!」
私はけーちゃんに出会ってから驚きがいくつもあった。まさか自分の親と同じ誕生日だったとは…
「すごいな…!」
けーちゃんは驚きを隠せないままでいた。
「そいえばさ、あのピアノって誰が演奏するの?」
けーちゃんは、私の奥のグランドピアノを指差した。
「あれ?じゃあ…ちょっと来て!」
私はけーちゃんをピアノの前まで連れてくるとピアノのふたを開けてピアノを弾き始めた。
♪‥♪‥♪‥♪‥♪‥♪
♪‥♪‥♪‥♪‥♪‥♪
ピアノを弾き終えるとけーちゃんは感激した様子で拍手をしてくれた。
「上手い!僕は音楽には詳しくないけど、ど素人から見ても感動出来る位上手いよ!」
私は、ピアノを弾いてこんなに誉めてくれる人を初めて見た。少し照れくさかった。
「ありがとう!なんか、そんなに誉めてくれるなんて思ってなかったから。でも、これが私にとって一番の特技なの。誉めてくれて本当に嬉しい!お礼に良いもの見せてあげる。」
私は、けーちゃんを屋上へと案内した。屋上へ行くと薄いオレンジ色の夕焼けがきらきらと光っている。
「寝転んで見てみて。」
そう言うとけーちゃんは早速寝転がった。
「うわー!綺麗。」
「そうでしょ?ここに来ると元気を貰うんだ。」
春の暖かい風とオレンジ色に光る空が何処までも続いていた。
4月10月 11時8分 ~小児病棟廊下~ 健助
僕が、この病院に転院してから丁度一週間が経った。この一週間で色々な出来事があって色んな事を学んだ。今は、夜の11時5分を回ったとこだ。消灯時間はとっくに過ぎている。今日は、何故か眠れない。ふと隣を見ると優音滴は眠っていた。トイレに行こうと病室のドアを静かに開けて廊下に出た。廊下は薄暗く静かだった。僕は、トイレまでゆっくり歩いた。しばらく進むと僕以外のもう1つの足音が聞こえて来た。
スタッスタッスタッ-
最初は病院の先生かと思ったが、足音が近づいてくると顔がはっきりと分かった。
「あ。」
そう言われたが、僕は聞こえないフリをしてその場を立ち去ろうとした…
「ちょっと待って。これ、はい。」
止められ、渡されたのは小さな缶ジュースだった。
「健助って名前だったよな?俺、八重山 広。宜しくな。」
「あぁ。宜しく。」
気がつくと缶ジュースを片手に薄暗い静かな待合い席に座って、僕と広は話していた。
「広って何の病気で入院してるの?」
「俺は、難治性喘息。だから退院したり入院したりの繰り返し。健助は?」
「僕は…。白血病。」
肩を落として弱気になった僕の背中をポンと叩き広は言った。
「俺が見たにはー、健助はそんな病気に負ける奴じゃねぇ。きっと治るさ。」
弱気になった僕を力強く押してくれた。僕はまた1つ強くなれた気がした。
4月20日 ~病室~ 優音滴
目が覚めると、時計は8時20分を指していた。どうやら私は朝食を食べ薬を飲んだ後、二度寝をしてしまったようだ。授業は8時から、完璧な遅刻だ。急いで教科書の用意をしていると、息を切らしたけーちゃんが私の目の前まで走ってきた。
「ハア…ッ。早く…早くしないと次、数学始まっちゃうよ!!!」
そう言ってけーちゃんは私の手を取り引っ張っりながら走った。走っている時、私の右手にはがっちりとけーちゃんの右手と繋がれていた。私は焦ったが教室に何とか向かった。
「間に合った…っ。」
息を切らしているけーちゃんの横で私は自分の右手を見つめていた。けーちゃんが繋いだ右手の温もりが今も残っている。そのことで心臓の鼓動が速くなっているのが分かった。男子に手を繋がれてこんなにも赤くなり鼓動が早くなり焦るものなのだろうか…?これは…もしかして…。
続く
よくあるパターンのような作品になってしまいましたが、精一杯書いたので今後も見ていただけたら嬉しいです。