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冥熾霊装(めいしれいそう)

 「おいしー!!」


 俺の目の前で全力で皿に乗っかっている食べ物をがっついて食べている少女がいる。

 既に3人前は平らげてしまっているんじゃないだろうか。


「いやぁー地上界のご飯は美味しいと聞いてましたけどもこれ程美味しいとは思ってもいませんでした。これならいくら食べても飽きないですよ!!」

「・・・・・・あーそりゃよかったな」


 彼女が颯爽と登場して間もなく空腹で動けないと言い出したので俺らは彼女を担ぎ、一旦アルヴァンドの宿まで戻り食堂にて取り敢えず食事をしているところだ。

 しかしよく食う、よく食うどころじゃないやたら食ってやがる。


「ふぅーご馳走様です。やっと生き返った感じがします!!」

「ふぉっふぉっふぉ~死神の口から生き返るなんて言葉を聞くなど生まれて初めてじゃわい」


 どうやら、食うのに満足したみたいだ。


「やっと腹一杯になったか?えーアルマだったか名前?」

「はいそうです。私が死神のアルマと言います」

「わかった。これからお前のことをそう呼ぶ。とりあえず聞きたいことは山ほどあるが、まず先に聞いておきたいことがあるんだが」 

「何でしょう?ディル・イクシナード様」

「呼び方はディルでいい。それでまずさっきこっちに出てきた時に髪の色がとても青く染まっていたんだが今は黒になっている。最初は空腹か何かで変わっていたのかと思ってたんだが・・・・・・今も髪の色が黒のままはどういうことなんだ?」


 俺はとにかくアルマの第一印象に惹かれた青色の髪が戻らないことについて聞いてみた。


「それはですね・・・・・・えーと何でしょうねぇ?」

「いや・・・・・・質問を質問で返されても分からないんだが・・・・・・もしかして知らないのか」

「あははー・・・・・・ちょっと分からないです私にも」


 どうやら彼女自身も分かっていないようで、なんでだろうかと頭をかいている。


「・・・・・・アルマよ。其方は冥界にてこの地上界での説明を受けていたのではないのか?」


 死神のガルドがアルマに対して口を開いて質問をしてきた。


「えっえっと・・・・・・ですね、多分聞いたハズなんですけどもちょっと忘れちゃったかもです・・・・・・あはは」


 俺はこの時点でアルマの評価というものが決まった気がした・・・・・・多分頭悪いだろコイツ・・・・・・


「やれやれ、仕方がない。私が説明してやろう。アルマ・・・・・・其方が地上界へ現れた時に身に纏っていたものは”冥熾霊装(めいしれいそう)”という状態だ。我々では霊装と呼んでいる。霊装は冥界にいる間は常に虚無の力を得ているので常に纏って居られるが、地上界は冥界と異なり正と負のエネルギーが多く虚無の力を常に引き出すことはできん」

「それはつまり虚無の力を大量に取り込めなくなるから使用するには一定の間は冥熾霊装めいしれいそうってやつだったか?それが発動できないっていう制約がかかるってことなのか?」

「ディル殿、流石だ。理解が早いと説明も手短に済んで非常に助かる」

「あははー・・・・・・みたいなようです・・・・・・」


 これはアルマに質問していたら日が昇ってしまいそうだな・・・・・・質問は全部ガルドに直接聞いたほうが早いなこれは。


「霊装を纏っていない場合、死神はこの地上ではどんなことが起きるんだ?」

「霊装を纏っていない場合、地上界の人間と同じ立場になる。死神には無縁である人間の3大欲求、食欲、睡眠欲、性欲すらも払えない状態になる。冥界ならば虚無の力を取り込むことで傷を負っても死ぬことは無いが、虚無の力を取り込めない地上界で死に至る様な状態になった時は人間と同様に死ぬこととなる」

「纏っていれば死ぬことはないのか?」

「霊装を纏っている状態に傷を負えば修復に虚無の力を使うことになる。体が粉砕するような一撃を受けてしまえば例え霊装といえど死に至る」


 死神の持つ特殊能力である冥熾霊装(めいしれいそうを纏っている間は髪は青色に変化するということか。

 常に纏えれば強いが虚無の力というものが空になればただの人間って訳か・・・・・・使用時間の制約がある以上、使う状況を見誤れば大変なことになるってことか。


「ちなみに霊装が纏える時間ってのはどのぐらい持つものなんだ?」

「各々の死神によって時間は異なる。一日に一度使う程度であれば私は1時間程纏えるがこればかりはアルマ当人に聞かぬと分からぬ」

「ってことはこっちに来て30秒も立たずに霊装が剥がれたってことはそれがアルマの霊装限界時間なのか」

「っう・・・・・・!」


 アルマは顔を引き攣るように体をびくりとした。

 ガルドが1時間は纏えると言った後に30秒しか纏えないともなればそれはショックなのだろう。


「恐らく、冥界から地上界に来る場合には大量の虚無の力を使いこちらに来るのでもっと霊装を纏えるはずだ」

「そっそうだったんですね。なんかちょっと焦りましたがそれを聞いて安心できました」


 アルマはそれを聞いてホッとしたようだが、まぁ完全な状態で使用してみないと分からないだろうなそれは。


「そういえば話が反れて詳しく聞けなかったが死神がこの地上に来た理由を改めて聞いてみたいんだが」

「そうだったな。少々長話にはなるが話しておこう」


 ガルドの前置き通り、死神が地上界に来た話については長話だった。

 聞いている間はアルマは眠たそうにうとうとと体を揺らし、長老は完全に寝ていた・・・・・・何とも困った連中だ。

 ともあれ長話の内容はこうだ。

 この世界には神と天使が住む天界、悪魔や魔物が住む魔界、人間の住む地上界の3つの境界が存在している。

 この3つの境界はある存在によってバランスが保たれているらしい。

 そしてこの3つの境界のバランスを保つために各境界で死んだ者の魂は全て冥界に集約され輪廻により循環を保っているようだが・・・・・・輪廻という概念が俺にとってはよくわからない。

 ざっくりというと生前の生き方によって裁量を図り、魂に残る前世の記憶するメモリをリセット後に各界に新たな魂を送り境界のバランスを図る循環機構のようだ。

 裁量方法に関して俺は質問してみたが、これは冥界の神、ハーデスという者だけが知るので教えようがないことだそうだ。


 次に各境界の存在について教えてもらった。

 まず初めに天界という世界は神という存在によって作られた世界であり、神の存在が必要とするようである。

 その下で神に仕える女神及び天使が存在してバランスを保っているようだ。

 次に魔界という世界では負のエネルギーによって生まれ、負の力によって悪魔や魔物などが生きることができる世界である。

 天界と異なる点は神がいることでバランスを保たれるのに代わり、魔界は魔神のような存在がなくても負のエネルギーさえ存在すれば問題ないという点である。

 最後に俺がここにいる地上界については曖昧な世界だということらしい。

 地上界は自然のエネルギーの繁栄によってバランスを保たれているという話だ。

 自然のエネルギーというものは火、水、土、木、風の5つの自然のエネルギーが主な自然のエネルギーで構成されている。

 またこの世界で生きる人間の心には天界からの聖のエネルギーや魔界の負のエネルギーに影響されやすく、その各エネルギーの影響によりバランスが変わってしまい、云わば天秤に乗っかっている状態が地上界だということだ。

 

 この3大境界で大昔に天界と魔界の正面衝突となる大きな戦争が勃発したらしく、結果は勝敗がつかず両者大きな傷だけが残り境界のバランスが不安定であった。

 更に追い打ちをかけるように天界の神がこの戦争にて戦死し、且つ魔界の魔王も共に倒れる結果となった。

 天界は神がいなくなったことにより大きくバランスを崩し始め、この危機を打開すべく神の下で尽くす大天使12人により神の肉体だけを天界の最奥にあると言われる"天界の門"(ヘブンズゲート)に保管し、完全なる肉体になるまで修復をし続ける聖域を設けた。

 そして失われた神の魂は冥界にて輪廻の審判を待ち、新たな魂の帰還があるまで神は天界の(ヘブンズゲート)で眠り続けているそうだ。

 ガルド曰く、天界の神の領域まで達したものの輪廻転生を行うまでには数千年はかかるとされると言われている。現在もまだその再誕までの期間が続いているようである。


 そしてこれから語られる話は死神が地上界へ訪れることになる大きな事件になる。

 戦争後、神が不在になってから天界は混乱が始まると同時に魔界では魔王がいなくなったことにより統制力が乱れ始め、各魔王の部下や悪魔など新たに権力を手に入れようと動きが活発となり次第にそれらの勢力が地上界へ進出するようになった。

 地上界で負のエネルギー拡大させることにより魔界の境界を拡大し、3つの境界を魔界だけに目論む者まで現れる事態へと発展し始めた。

 負のエネルギーを得られれば特に問題としない悪魔にとって地上界への進出は容易であった為、それにより地上界では悪魔や魔物が急増し、その結果は地上界の境界バランスが大きく崩れ始める原因となった。

 それを良かれどしない天界の天使たちは、魔界の拡大を抑えるべく地上界へと降り人間と共に対抗することとなった。

 この時、天使は人間に対し魔術を教え始めたことにより地上界で魔術が認知され発達するきっかけとなる。 

 だがしかし、共闘を行っても魔物の数に対処しきれず次第に天使と人間の共闘側は劣勢に追い込まれ始める。

 

 バランスを崩し続ける3つの境界は次第に冥界へも影響し始め、ついに冥界の神とされるハーデスは重い腰を上げ冥界に従属する死神に対し"天界の神の再誕が完了とするまでの間"は地上界へと向かい魔物の討伐を行い続けるよう命令を下すことになった。

 死神の地上での活動は既に1500年も経過するとされ、今もなおその命令が発令され続けているという訳だそうだ。



 神が今も尚存在しない天界。


 

 未だに地上界へと進行し魔界の拡大を目論む悪魔及び魔物達。



 魔物の脅威に屈せず戦い続ける人間の住むこの地上界。


 そして、今もどこかで戦いを続けているかもしれない天使と死神の共闘で今の3つの境界は保たれている状態なのだ。




「死神が地上界へと来る経緯は何となくわかった。確かに歴史の中で天の神と魔の王が大きな戦争を起こしたという話も俺は知っている・・・・・・ただ神が死んだなんて歴史では書かれていなかったんだが」

「恐らく、神がいないなど人間の教会共が改ざんしたのだろう・・・・・・崇める宗教の神がいないなど口が裂けても言えぬものだろうからな。例え地上界では曲がった歴史が教えとなっていようとも冥界では嘘は通じぬ。なにせ死神は不死故に今でもなおその真実を知る者は多くいる」

 

 こりゃ死神の前では考古学者など相手などされなさそうだな・・・・・・ある意味では恐ろしい存在だな。

 ただこの話でもう一つの疑問は解決はしていない、そうなぜ死神は人間である俺に協力を求めるかについてだ。


「ガルド、もう一つの質問をしたい。俺にとっては一番重要な質問なんだが」

「ほう。それは一体なんだ?」

「なぜ今回、死神であるアルマの協力者として選ばれたんだ?死神が地上では一定の時間のみでしか死神として力を引き出せないことは分かったんだが、それを補う役目として協力する人間ってのはもっと沢山いるはずだろ?例えば高等な魔術を扱える人間や高い技量を持った剣士なんて者もいるはずだ」

「ふぉっふぉっふぉ~!それについてはワシから教えてやろう」

 

 いままで暇そうにしていたディプト長老がいきなり笑いながら話し始めた、いきなり笑い始めるのは怖いよいきなりは・・・・・・。


「ディル。お主が今回選ばれた理由・・・・・・それはお主には魔術師としての魔力を一切持たない人間だからこそ選ばれたのじゃよ」

「確かに俺は魔力は一切ない人間ですが、それとこれと関係があるのですか?」

「そうじゃ。死神と協力関係を結ぶ際、協力者には証として体の一部に紋章を刻まなければならない決まり事が存在する。そしてその紋章は死神のみ扱える冥熾霊装めいしれいそうの能力を協力者の人間も扱えるようになれるのじゃ」


 ・・・・・・霊装が使えると言ったのか?この俺が死神の力を引き出せるっていうのか。


「ちょっと待ってくれ。霊装が使えるってことは俺は死神になるってことなのか?そもそも霊装の能力そのものが何なのかわかっていないし、死神の力を引き出せるというのなら尚更魔力のない俺よりも他の人間の方がいいんじゃ・・・・・・?」

「ふぉっふぉっふぉ~!心配するでない。歴代の協力者は皆、魔力を持たない人間だけじゃ」


 何の心配なのだろうか。

 俺と同じ魔力がない人間のみが契約できる掟なんだろうか?

 そう考えているところにガルドが契約者について話を加えてきた。


「協力者との契約そのものは誰とでも契約はすることはできる。しかし、冥熾霊装めいしれいそうというものは本来虚無の力により聖の力や負の力を0(ゼロ)即ち無の状態へと収束させる力を持つ。その特殊な能力故に魔力を扱えるということは聖のエネルギーあるいは負のエネルギーを体内に宿している。そんな者が霊装を発動をさせれば即座に体内にある魔力は枯渇させ、更にその反動によって生命活動に必要とするエネルギーさえ奪ってしまう場合がある。つまり魔力が持つ者が使えば自殺行為そのものに繋がるのだ」


 冥熾霊装めいしれいそうの能力はそういうものだったのか。

 つまり霊装を纏っている間は魔術も呪いも無力化させる力が霊装っていうことだよな。


「それってかなり凄いことじゃないか・・・・・・どんな攻撃も無力化できるって話になるよな。ただ魔力の無い人間が霊装を纏った場合は即死はしないのか?」

「それはない。そもそも死神が扱う冥熾霊装めいしれいそうは魂を燃やす為に使う生命を維持するための活動エネルギーを糧として能力を引き出している。

生命エネルギー以外のエネルギーが混合すると点火の時点で暴発を引き起こし廃人または即死となる。しかし魔力エネルギーがなく、純粋な生命エネルギーのみの状態で点火することで霊装は纏えることができるので霊装を纏える人間は一切体内に魔力を持ち合わせていない人間のみにしか扱えないのだ」


 やっと俺が死神から協力者としての理由が全てわかった。

 そういうことだったのか。

 魔力のない人間の俺だからこそ死神が使う冥熾霊装めいしれいそうという能力を扱うことができたのか。

 理解したそれと同時に、俺は協力者としてアルマと冒険を始めたならばこれから待ち受ける未来がぼんやりと見えたような気がしてきた。

 

 その時だった。


「さて話は終わったことだ・・・・・・ディル殿。これから協力者としての試験として死神アルマと戦って頂きたい」


「「えっ?」」


ガルドのその言葉に、俺とアルマは同じタイミングで口に出していたのは言うまでもなかった。


 

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