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始まり

 ああ…


 あたり一面が火の海だ。


 ……確か、俺はこの街を守るために戦っていたんだったんだ。

 体が重い。


 体中傷だらけだ、武器も握れない。


 これ以上戦うことなんてできないな。


 とにかくこの怪我を早く治してもらおう。



 そう思い、辺りに聞こえるように声を出そうとしたのだが…



 そうだった……もう俺以外皆死んでしまったんだな…村の人々も助けられずにあいつらにやられてしまったんだった。


 自分の未熟さと人々と仲間を守れなかった悔しさを噛みしめていると、俺の右手から力強く握りしめてくる感覚があった。


 力を振り絞り、自分の右手を見ると小さな女の子が涙を流し俺を見つめていた。


 その子を見てすぐにわかった。

 この子だけは守れたのか…徐々にその子の握ぎる手の暖かさがジワリと感じ取れ、その右手から温もりと戦いで傷ついた痛みが伝わってきた。


 そして俺は女の子に笑顔を見せ「もう大丈夫だ」と一言声をかけた途端に記憶が遠のいていった…







 「……っさん」

 「おーい、お兄さん起きてくれ。もうアルヴァンド近くに到着したんだ、馬車から降りてくれないか?」

 目を開けると俺の肩を揺すって起こしてくる人がいた。

 そうだった、俺は目的地に行くために馬車に乗り込んで移動していたんだった。


 今回アルヴァンドを目的とする理由は2つあるからだ。


 一つ目はある人物から手紙を受け取っており、差出人がアルヴァンドの住人である。

 手紙の内容によりアルヴァンドへ来てくれと書かれた内容だった。


 2つ目の目的はアルヴァンドの住民から差し出された手紙の内容の続きになる。

 その内容は気にかかる点が多かった。

 その真意をこの目で確かめるべくやってきたという訳だ。


 目的を果たす為、馬車に乗り込み旅をしてたわけなのだが…道中の合間にどうやら馬車の揺れで眠気に襲われそのまま寝てしまっていたようだ。


 「っと、いつの間にか夢を見てたのか…悪いなおっさん、すぐ降りるよ」

 「ああっそうしてくれると助かるよ。日も暮れかかってすぐに辺りは真っ暗になっちまうからな。ここらは魔物が少ないといえど出てきたらたまったもんじゃないからな」


 俺は早々と荷物をまとめ馬車から降り馬車のおっさんに金を払った後、目的地の町アルヴァンドへ歩き始めた。

 アルヴァンド、別名”天国へ最も近い眠りの丘”と呼ばれている。

 諸説はあるがこの町の丘は天界の入口に最も近く、死んだ者の魂が天界へ向かい旅立とうとしたところ天使が迎えにやってきたなどと言われており、いわゆるこの丘に墓標を立てると天界へ苦難なく行けるということだそうだ。

 呼び名もあってこの町は観光地というような雰囲気ではなく、墓標ばかり並ぶもの寂しげな景色なのであまり観光客やら冒険者はここに訪れることがないのだろう。

 ようやく俺はアルヴァンドの町の入口まで歩いてきた。

 すでに辺りは真っ暗だ。

 町の中へ入っていくと建物は20件程しか建っておらず、建物以外で目に入ってくる景色といったらもっぱら墓のみなので、面積的に建物よりも墓場の方が広い。

 おかげで宿屋は探すことなく見つけることができた。

 早速、今日の寝床を確保しようと宿まで足を運び入口まで到着し、ドアの取っ手に手を掛けようとした時、後ろから人の気配に気づき俺はすぐさま後ろに目を向けるとそこには一人の老人が立っていた。

 「ホッホッホ!見事なことだ。気配を殺していたのにも関わらず少しの気配も逃さず気づくとは、流石は兄者の弟子…ディル・イクシナード」

 「ご無沙汰です。ディプト長老…毎度のことなのですが、対面する際は堂々と正面から表れては頂けないですか?そのうち、闇討ちと思いぶっ飛ばしそうなんですが」

 「ホッホッホッ!そうしたいのも山々なのだが、今はこの墓場の管理人である以上難しい願いだのぅ。なんせここの墓は聖地な故に高貴な者達が多く眠っておる。供えた物の多くが高価なものばかりで、それを狙ってくる盗賊を追っ払うには背後からでないとのぅ〜ホッホッホッ」

 「用心深いというか長老、王魔クラスの魔術を使える貴方の実力ならば裏からなどでなくとも十分倒せると思うのですが?何故そのようなことをするのです?」

 「ホッホッホッなぁ〜にただのワシの趣味じゃよ」

 「そうですか…」

 このディプト長老は多少の変わり者であるが、魔術の才能に関しては非常に高い人だ。


 「さてディルよ、この地に訪れたということは例の手紙を読んだということじゃな?」

 「そうです。ただ手紙の後半に書かれた内容は一体何なのかを教えていただきたいのですが」

 「手紙の後半かのぅ〜…その内容についてはすぐに説明することはできん」

 「…できない?」

 説明ができないとは一体どういうことだ?書いた張本人だというのに説明を拒む理由が俺はわからなかった。

 書いた内容を忘れたから説明ができないというのであれば多少なりとも納得できるかもしれないが、どうも長老本人が忘れているといった様子は見受けられない。


 「できないと言うのものぅ〜例の手紙に書かれている通り、お前さんに会いたいと言う人物が既にお待ちかねなのじゃよ。早い話は実際に会ってみて真意を見極めて貰いたいものだと言うことじゃよ」

 どうにもこうにも俺と早く合わせたいようだ。

 人と会うのにそこまで急ぎ用なのだろうか。


 「あまり腑に落ちないところですが…わかりました。先に合ってみることにしましょう…」


 俺に届いた手紙の一文にはこう書かれていた。


 ディル・イクシナード


 アルヴァンドへ来て欲しい。

 君の力を借りたい者が待っている。

 その者に力を差し出したまへ。

 さすれば、万物の力を無に変える力を

 手にすることだろう。


  ディプト・アルカナンド






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