幸せと不幸せ
7、幸せと不幸せ
ひどい顔で萌々子が出勤してきたときには朋美は本気で心配した。
どうも同じ年齢とはいえ、朋美にとっては萌々子は少し出来の悪い妹のような存在なのである。いろいろ悩んでいるような暗い顔をしているのは以前から変わらないが、額の赤黒い痣はひどいものだった。
『夜勤明けに寝ぼけてぶつけちゃいました・・・。』
暗い感じで言われたので『そう・・・。大丈夫?』としか言えなかったのだが、萌々子が暗い原因はそれだけではないことは朋美にはよく分かっているつもりだ。
ソフトボール大会以後、萌々子が深く悩んでいるのはなんとなく感じていた。
彼女の悪い癖はそういう悩みを抱えると、他のことがおろそかになることだ。朋美にはそれが心配で仕方ない。仕事で小さな失敗をするぐらいならいい。こちらで気を付けてフォローしてやればいいのだ。
しかしこうやってプライベートの時間で大きな怪我をされると心配せざるおえなくなるのだ。
最近、人手不足もあって二人勤務になるシフトには、極力、朋美が入るように心がけている。
その日も朋美は2階のシフトに入ることにした。2階の人手不足は深刻である。
介護業界の人手不足は業界全体にわたる悩みでもある。国は『社会福祉に力を入れる』と嘘ばかりついてこの現状に目を向けようとしない。この国の介護は朋美が高齢者になるときには破たんするのではないかと時折不安になることもある。
何が大きく問題なのかといえば、やはりきつい業務に対する報酬が安すぎるということだろう。
一般的な工場などの製造業での夜勤に比べるとはるかに賃金は安い。それは決して企業のせいではない。介護報酬が少なすぎるのが最大の原因なのである。
もちろんほかの業界に比べればやった仕事がすべてパーになるということはない。必ず9割は会社に入ってはくる。そういう意味では固い仕事ではあるのだが、良く考えてみればそんなことはごく当たり前のことで、人間を扱う仕事なのだからそのぐらいは保証されるべきなのである。
自分で時間をかけお金をかけて勉強をして、自分に投資しても返ってくるものが少ないというのが、この業界に人が流れてこない一つの要因でだろう。
介護保険は改正のたびに使いにくくなっている。増税をしてもまったくもって社会福祉には使われていない。使われているのかもしれないがまったくそれを感じることはない。それはこの業界にいればだれもが感じるところであり、『介護保険はありがたい。』などというような人間がいればそれはまったくもって介護を知らない人間だろう。
グループホームは比較的、そういう介護業界の中でも金銭的には恵まれている方ではある。
それでも介護には人材は入ってこない。
きつい仕事は誰だって嫌である。きつい上に給料がもらえないのだから、そんな業界に入ろうという人間はよほどの志がある人間であろう。そういう志のある人間に甘えているようでは人材は一切育たないし、この業界が破たんをきたすのも時間の問題なのである。そもそもこの国のかじ取りをしている政治家の先生方は金には困っておらず、老後も金を使って人に自分の世話を見させるわけだから介護保険などは必要としていないのだ。だからこそ介護にはまったく力を入れていない。否、現実はそうではないとしてもそう思えてしまうような政策しか実施できていないのだから現場の人間にそう思われても仕方ないのだ。
『今回の求人も空振りですか??』
萌々子はどんよりとした声で言った。
そもそも萌々子は1階の職員である。2階のユニットの職員が少なすぎるので、萌々子たち正社員の休みを減らしてまで2階に来てもらっている。
そんなことは続くわけもない。
早く新人が入ってこないことには、この国の介護より前に、この施設の介護が破たんしてしまう。
『毎回、求人かけてるんだけどね。』
『そうですか・・・。』
萌々子の赤黒い痣は赤いチェックの柄のスカーフを頭に巻くことによって隠している。
萌々子には赤が似合う。
そういう洒落たところは彼女のいいところで、彼女は自分が思うほど魅力がない女ではない。もちろんだからと言って絶世の美女・・・というわけではないが・・・。
『ごめんね。休みの日に出勤させちゃって。』
『いや・・・大丈夫です。』
『出勤』と言う言葉に嬉しそうな顔をする萌々子。
今までの暗い顔が少し緩む。
その原因はよく分かる。というのも朋美を入れて今日の2階の勤務は3人でこなしているが、朋美と萌々子と、もう一人は敬なのだ。
『あのさ・・・余計なことなんだけど・・・。』
『はい。』
『どうすんの?』
『どうするって・・・まだちょっと分からないです。』
普段、少し話がかみ合わないような萌々子が何も言わなくても『どうすんの?』と言うだけで敬の話であることが分かるのは少し不思議なような気がする。恋の力とは偉大である。
萌々子は基本的には竹を割ったような性格である朋美とは対照的に非常に優柔不断ではある。しかし今回のことに関してはそう簡単に結論を出せないことであることはいくら短気な朋美でもよく分かるから結論を急がせたりはしない。ただ萌々子の場合、こういうプライベートでのテンションが仕事に影響するから朋美はそれも心配なのである。
そもそも萌々子にだけに限らず、女性はみんなそういう傾向にある。公私混同してはいけないとはよく言うが、完全にそういうことを分けて考えられる人間は男性にだって少ないのではないだろうか。
週末に嬉しいことがあれば、週明けからの仕事はにこやかにできるのが普通だし、嫌なことがあれば苦虫をつぶしたような顔をしてしまうにはどうしても仕方ないことである。それは人間が感情の生き物である以上はある程度は仕方ないことだと朋美は思う。
だから管理者としてはスタッフ一人一人のプライベートにもできる限り気を配るようにしている。もちろん余計な干渉にならないぐらいに・・・だが。
『そっか・・・。まあ・・・簡単な話じゃないからね。』
『・・・はい。』
『あたしが言ったことは参考程度にして、そんなに気にしなくてもいいからね。』
参考程度にして・・・と自分で言いつつ、ああ言われたら気にせざるおえないだろうな、と朋美は思った。
朋美なら人に何を言われても『参考程度』にするのだが、萌々子はそんなわけにはいかないだろう。とくにこういう恋愛の問題に関しては完全に自分では結論を出せないのではないかと思うのだ。
考えてみればこんな偉そうなことを考えている朋美ではあるものの、自分も若い頃はそうではなかったのだ。
恋愛の経験が乏しかった頃は先輩や友人にいろんなことを相談して、その通りにしたこともあったりした。
片想いの最中は実はいろいろ楽しかったりする。
もしかしたら恋愛は片想いしている時が一番楽しいかもしれない。
あの人はどんなものが好きなんだろう、と・・・考えている時間は女の人生の中で一番純粋でかわいい時間なのだろう。これが両想いになるとそうでもない。いや・・・最初はいいのだ。しばらくして慣れてくるとそうでもなくなるのだ。
人間、慣れというものは怖いものである。
両想いだけならまだしも結婚してしまうと完全にあのときめきはなくなってしまう。
ある意味、朋美は萌々子がうらやましかったりもする。
3人いれば仕事は比較的、楽である。2人勤務に慣れてしまったせいもあるのが、3人で仕事するのが基本であることをを考えると2人勤務に慣れるということはシフト上、大きな問題があると言わざるおえない。
お昼が終わり、少しゆっくりした時間が続く。
午後からの時間は一番気を引き締めなければいけない時間帯である。
この時間帯に職員の気が緩みがちなので離設、つまり利用者が徘徊し施設を出て行ってしまうことなどの事故が起こりやすいのだ。
朋美は自分の中で気合いを入れなおした。
ふと見ると、敬も萌々子もそれなりにそういうことの重要性を理解しているらしく、顔つきを変えて仕事をしている。言わなくてもこうやってギアを入れ替えて仕事をしてくれるスタッフは本当に心強い。中にはそうでない者もいるからである。
『ホーム長!!!!』
1階から大きな声がした。
明らかに何かあったときの声だ。
朋美は近くで利用者と話をしていた萌々子に『ちょっとここお願いね!』と言うとすぐに1階に駆け下りて行った。2階から1階までの階段はほんの10段ぐらいのらせん階段だが、信じられないぐらい長く感じる。足がなんだか前に進まないような感覚を覚えるときは、身体が緊急事態を感じ取っているときだ。
『どうしたの?』
努めて冷静に朋美は言った。
『リンさんが・・・。』
朋美を呼んだのは関本珠実という名前の新人だった。ついこの間入ったばかりのスタッフで、他の職場は経験しておらず、この業界は初めてである。
珠実は真っ青な顔をしてリンの部屋の前で立ち尽くしていた。
みなまで言わなくてもなんとなく何が起こっているかは想像できる。
『大丈夫。落ち着いて。』
朋美は珠実に言った。
『リンさーん。』
ベッドで眠っているように見えるリンの顔は紙のように白くなっており、素人目でみても死んでいることは分かる。
恐らく、朝ごはんを食べて部屋に帰って、眠りながらそのまま逝ってしまったのだろう。
この業界が長ければ、高齢者の死に直面することもある。
長ければ死体を見ることもあるし、施設勤務であれば施設で亡くなる方もいるのでいちいち慌てたりはしないのだが、経験がない上に、通常の生活の中で死というものと接することは少ないだろうし、ましてこういう場面に遭遇することなどないだろう。
真っ青になってしまうのは分かる気がする。
当然の話だが、声かけをしてもリンは返事をすることもないし、起き上がることもない。
『救急車呼んで。』
朋美はベッドの脇に座って珠実に言った。
『あわてなくていいからね。』朋美はあわてて電話のところに行こうとする珠実を呼びとめて言った。
こう言っちゃなんだが、もう手遅れである。手遅れ・・・というのは少し違う。寿命なのだと思う。リンの顔は静かに眠っているような『安らか顔』をしている。
一応、朋美は脈をとった。
もちろん触れない。
気道を確保し、心臓マッサージをする。間に合わない・・・というか無駄なことは分かりつつもCPRの真似事はすることにしている。
しばらくするとサイレンが鳴りながら救急車がやってくる。
119番するときに珠実にサイレンは鳴らさないように伝えるのを忘れたことを後悔しつつ、朋美は心臓マッサージをやめた。気が付くと全身から嫌な汗をかいている。
慣れたつもりでも、毎回、こうやって嫌な汗をかくのは実は身体が拒否反応を示しているのかもしれないな、と朋美は思った。
『すみません。こちらです。』
救急隊員がやってきたので珠実が居室に案内してくれた。
『関本さん、悪いけど2階にいる川本さんにご家族に連絡するように伝えてくれる?』
本来ならその連絡ならだれが連絡してもかまわないのだが、基本的には責任者でもある朋美かユニットリーダーが連絡するのが筋ではある。ただ今日はユニットリーダーは休みだし、朋美は救急隊の相手をしなくてはいけない。
ここは一番経験のある萌々子に対応してもらうのが一番だろう。
『たぶん、もう・・・。』
『そうですね・・・。』
『警察を呼びましょうか?』
『お願いします。』
いくつかのやり取りの後、今度は警察を呼ぶことになる。病院で亡くならない限りは自然死であっても必ず警察が入る。それはもう今まででも何度もやってきたことではあるのだが、やはり何度経験しても慣れることはない。
リンが家族に引き取られ、部屋の中をある程度片付け終わると、すでの周りま真っ暗になっていた。
ガランとした居室は、昨日までリンがいたとは思えないぐらい殺風景な状態になっている。
抜け殻のようになって朋美は居室を眺めていた。
『お疲れ様です・・・。』
後ろから声がした振り返ると萌々子がいた。
『あ、お疲れ。今日、ごめんね。』
『いや・・・大丈夫です。でも突然でしたね。』
『そうね。』
昨日まで元気だった高齢者が今日、いきなり亡くなってしまうということは少なくない。
グループホームには比較的身体が元気な高齢者が集まるので、リンのように死別することは非常に少ないが、寝たきりの高齢者を介護している分野の事業所では1年で利用者の顔ぶれがガラリと変わってしまうことも少なくないらしい。
『なんか・・・こうなってしまうと悲しいですね。』
萌々子の言うとおりだった。利用者はわがままを言う。高齢者だからといって性格が丸くなる人ばかりではなくアクの強い人も多い。だから介護は苦労するのだ。
苦労するが、こうやって亡くなってしまうと寂しく感じてしまう。昨日まで憎まれ口叩いていた人間が今日には存在しなくなると・・・『死』というものを身近に感じざるおえない。
朋美は何も言葉が出なかった。
『リンさんって・・・どんな人生だったんでしょうかねえ。』
萌々子はぼそりと言った。生活歴に書いてあるのは決まりきった出身地や、やってきた仕事の内容、趣味ぐらいのもので彼女がどういった経緯でこの年にこの施設に来るようになったかなんてことは記載されていない。
考えてみればそういうことは家族にも分からないことが多く・・・きちんと聞き取りすることは難しいのかもしれない。
朋美自身、自分の両親のそういった『生活歴』を教えてくれ、と言われても詳細までは分からないからだ。大抵、こういう書類を作る際には本人と家族に聞くのだが、本人の記憶があやふやなので家族が代わりに答えてしまうことが多い。それでもって代わりに答えた家族もあやふやなものしか分からない。
聞くこちらとしても、立ち入ったことはなかなか聞けないので通り一遍の聞き取りになってしまうのである。
『なんでそんなことあなたに言わなければいけないの!』
そう強く言われたときには非常に返答に困ったことがある。確かにこれには意味があるのだが・・・。
その人がどのような人生を歩み、どんな生き方をしてきたか、ということは今後の生活に関係がないことではない。生活するお手伝いをさせていただく介護職はその人の価値観をある程度は把握した上でケアを行わなければいけないのだ。
実はそれでそういうことを聞いているのである。
しかし、そういうことを話すのが嫌な人というのはこの世の中にはけっこう多くいる。というより喜んで自分の過去をすべてさらけだせる人間は非常に少なく、自分のことを話したがらない、そういう人間の方が多いのかもしれない。
『人の世話になるだけなのに、自分をこの年になってこんなにさらさなければいけないなんて・・・。』と泣き出した利用者までいるそうだ。朋美の友人のケアマネジャーは在宅の仕事をしているのだが、実にこういうことを聞くときが一番苦労すると話していた。
そんなわけで、朋美は入居者の生活歴を完全には把握できていない。
聞いてもちゃんと答えてくれないし、前述のように怒り出したり泣き出したりされるとそれ以上はつっこめないのだ。
『面談の時はあまり何も話してくれなかったからね・・・。』
朋美は後ろを振り返って萌々子に言った。スカーフを外した萌々子は薄暗い部屋の前でも赤黒い痣がうっすらと見えるのだが、その痣はずいぶんとよくなっているように見える。痕にならなければいいのだが・・・。
『どんな人だったんでしょうかね・・・。』
萌々子はぼそりとつぶやいた。いつもつぶやくように話す萌々子だが、今日はひときわそれが際立っているように感じられるのは気のせいではなさそうだ。
『恋の話ばかりしてたよね。』
『はい・・・。なんか最近それが妙に鼻についちゃって・・・。』
萌々子は自分の片思いがあったからそういう風に感じてしまったのかもしれない。
リンは若いスタッフを捕まえては『恋をしなさい。』と言っていたのを朋美は知っている。もっとも萌々子はそんなに若くはないが・・・。
『あの人、どんな恋をしてきたんだろうね・・・。』
『あれだけ人に恋を薦めるんだからいい恋してきたんじゃないかな?』
『案外、恋バナが好きなだけだったりして。』
珍しく萌々子が悪戯っぽく笑った。やっぱりこの年齢にしてはかわいい方じゃないだろうかと思いながら朋美はまじまじと萌々子を見て思った。
『結婚歴は何回かあるみたいだよ。』
初回の面談の時のことを思い出しながら朋美は言った。
結婚歴を聞いたとき、本人は下を向いて何も言わなかった。
その時は認知症による記憶障害なのかな、とも思ったのだが、そうではなかったことに今更ながら気づく。
『おばあちゃんは3回結婚しているんです。といってもあたしもよく知らないんですけど・・・。』
孫である女の子が言っていた。孫と言っても20歳をすぎたいい大人ではあるのだが。
リンの年齢から考えれば結婚を3回しているということはかなり恥ずかしいことなのだろう。今ならそうでもないが昔は離婚など恥であるという時代だったからだ。もっとも朋美もそういう時代のことはよく分かっていなかったりする。
離婚、と一言に言ってもいろいろあるのだろう。
死別したのかもしれないし、旦那がろくでなしだったのかもしれない。時代は関係なくそういう事情を加味されずに結婚歴が数回あると女は悪者になってしまう場合が少なくない。
ましてリンの時代に離婚の事実があるというのは、相当な苦労だったのだろう。
そんなことを思いながら、今はもうだれもおらず、布団すらなくなってしまったベッドに腰掛けて朋美は萌々子の方を向いた。1階にも2階にも夜勤者が出勤する時間になっており、お互いの一日の仕事はとりあえず終わっている。
『お疲れ様』と言って帰りたいのだが、なぜかこの場を離れがたい。そんな気持ちにさせるような出来事がリンの突然の死だった。
『3回も・・・あたしなんか1回もできていないのに・・・。』
リンの結婚歴が3回あることを話すと萌々子は少し自虐的に笑いながら言った。
『いいんじゃないの?そんなもん。人それぞれだよ。こんなこといちごちゃんに言っても納得しないだろうけど、結婚したって幸せとは限らないんだよ。』
『そうなんですか・・・。』
自分で言った言葉ではあるが、確かにそれはその通りで、朋美は結婚して子供もいるが『すごく幸せ』というわけではない。もちろん『不幸』ではないが『幸せ』か?と問われれば即答することはできないかもしれない。
独身の頃に比べたら好きなことができなくなったのは事実だ。
好きな買い物に行くのも、ドライブに行くのもいちいち家族の予定に合わせて行かなければならない。急に行きたくなっても独身時代のようにふらっと行くわけにはいかない。食事やお茶だって好きな時に行くわけにはいかない。
主婦の仕事や共稼ぎの今の仕事もきちんとやって当たり前。もちろん旦那は感謝してくれているがそれでも誰かに認められるような何かをしているわけではないのだ。
『日常』をなんとか保つために朋美は日々、奮闘している。
その戦いは一人の方が戦いやすい場合もある。一人の方が身軽なときもある。
家族が煩わしくなることも少なくない。
でもその反面、一人だと悲しくなるときもある。
そんなとき家族がいるから耐えることができるとも思う。
だから、朋美は今の状況を幸せか・・・と聞かれると即答はできないのだ。人生は『痛し痒し』の部分が多い。100%幸せということはまずないのだ。
その中で幸せと感じることが多ければ『幸せ』だし、そうでなければ『不幸』なのである。もちろんその割合は白か黒かというものではなく『どちらでもない。』という答えもあり、大半の人の答えがそこに属するのではないか、と朋美は思う。
そう思うのは朋美自身が『どちらでもない』に属する人間だからだろう。
『そうだよ。幸せなんて、要はその人の感じ方一つでどんな形にも変えられるんだよ。』
『リンさんは幸せだったんでしょうかね?』
『幸せだった・・・と思おうよ。』
朋美は萌々子の肩をポンポンと叩いて言った。
また切り替えて行かなければならない。




