プロローグ
殺した
殺した
何人も
何人も
それだけが生き延びる術だった
気がついたら
もう
紅い空に埋もれて
自分がなんなのかもわからない
東の大陸イグニスの、ミファアジという小国の貧民街。
その通りに、少年は座り込んでいた。
錆びれた雰囲気が支配するスラムという場。そこはいつしか人々すら飲み込み引きずりこんでしまう様な、淀んだ空気に満ち溢れた地と化していた。
しかし。
その少年は項垂れてはいるものの、スラムの住人の大半に見られる絶望的な、そんな雰囲気は感じられない。
それを肌で感じ取っていたのか、スラムの住人達は少年に近づこうとはしなかった。
少年がスラムに現れたのはついこの間だが、仲間意識の強いミファアジのスラムでは珍しい事だった。
と。
「・・ふぁ・・、んー・・?・・あぁ、寝ちまってたのか。やべーやべー、俺の荷物ちゃんとあるよな?」
少年は顔を上げ、自分の腰のポーチに手を当て、次に剣を確認し、「ん。」と満足そうな顔をする。
すると、少年の前を一枚の紙がカサカサと音をたてて舞っていこうとした。
少年は目敏くそれを掴む。少年が掴んだ紙は新聞紙だったのだ。
掴んだ新聞紙についていた汚れをはらい、シワを伸ばして一通り目を通すと、少年は眉間に小さなシワを作った。
「・・・あぁ、やっちまった。」
そして勢いよく立ち上がり伸びをすると、長い緑黒の髪を風に遊ばせて、少年は人知れずスラムを後にした。
ちなみに、新聞紙には大きくこう記されていた。
『圧倒的勝利。亡国のエスチュアリはクラテールに統合される。』