2 転校生
「そういや、今が三時間目なの忘れてない?」
一夜に言われて、数秒後に思い出す。三時間目は理科、担任の授業だから許されたけど、他の先生だったらどうなっていたんだろうか?と、蓮華は考えた。
「……忘れてない……ん?あれ…?」
カバンをロッカーに仕舞い、席に戻ろうとすると、これまで席がなかったところに新しく席ができて、人が座っていた。
卵色のボブに、左右対称のぱっつん前髪。桃色の瞳をしていて右の横髪にハートの髪飾りをつけている。名前はわからないが、可愛くてあざとい系女子だ。スカートのポケットに何かで挟んでいるのかかわいいハートのキーホルダーのようなものもあった。あと、ベージュのカーディガンを着て、萌え袖にしている。
周りの男子がチラチラとその子を見ているのが後ろの席からわかった。一夜をチラッと見ると微塵も興味がなさそうだった。
蓮華がチラチラとその女子を見ていると、一夜から声をかけられた。
「……あれは今日きた転校生。五十嵐心音。九州から来たらしい」
「……よく考えてたことわかったね」
「チラチラと見てるからだ……」
「へぇ……そっか」
一夜はすぐに視線を黒板に向けて、拓の話を聞きながら、自身のノートに内容を書き込んでいた。蓮華はそれを見て、一度心音の方を見てから授業に集中することにした。
「ーーじゃあ、ここの問題は……」
今は理科の生物基礎をやっている。DNAとか遺伝子とかそこら辺だ。蓮華は、生物分野は得意なので、一瞬で答えがわかった。隣を見ると、一夜も答えがわかっているようで、ペン回しをしていた。
「心音さん」
「えっ……わ、私!?」
当てられたのは転校生の心音。蓮華は拓に目線を送った。すると、拓もこちらに気づいたようでニコニコしながらこっちを見て来た。
(転校生が可哀想じゃないですか?転校初日ですけど)
(どのくらいの実力か知りたくてね)
(可哀想ですね……まあいいですけど)
蓮華も拓も視線を心音に向ける。心音は少し照れくさそうにしながら、口を開いた。
「えっと……げ、原核細胞……ですか?」
心音は右の横髪を右手の人差し指でくるくると巻いていく。すると、クラスのほぼ全員が少し顔を赤くした。
蓮華は、クラスメート心音のことを可愛いと思って、この仕草に照れていると考えた。一夜も照れてるのかもしれないと想像して隣を見ると、心音に興味がなさそうにしながら、ペン回しをしていた一夜がそこにいた。
(……ん?)
蓮華は拓を見る。拓はさっきと変わらないニコニコで心音を見ていた。それには照れなど一切なかったし、心音を見ている目はなんだか冷たいような気もした。
拓は発表から二、三秒経ったあとに発言した。
「……惜しいですね!じゃあ、一夜さん!」
「真核細胞」
一夜はペン回しを止めて、淡々と答えた。拓は正解、と言ってまた授業を進め始める。蓮華はクラスメートが少しザワザワしているのが気になって、耳を澄ます。
「心音ちゃん可愛くない?ちょっとバカっぽいとことか!」
「失礼だろ!?五十嵐さんは俺がもらう!」
「なぁにぃ!?お前らが取れるわけねぇだろ!」
「ちょっと男子!静かに!こっちゃんは私のだから!」
「「「はぁ!?!?」」」
幸いにも、心音とは遠い席なので、本人には聞こえていないだろう。蓮華は他の場所でも心音のワードが出てくるので、人気者なんだろうな、と思った。日澄と同等か、もしくは日澄以上にもなりかねない。
(……絶対に関わらないでおこ)
蓮華はそう、心に誓った。
◇◇◇
四時間目の授業が終わり、昼ご飯は購買組が一斉に購買に向かった。蓮華は鞄から弁当を取り出して、屋上へ向かおうとした。
「あ!九十九さん!」
「……ん?」
誰かに声をかけられ、蓮華は後ろを振り返ると、そこには、心音がいた。ニコニコして、弁当箱を両手で持ちながら、男子が見たら一瞬で死にそうな笑顔で言った。
「一緒にお弁当たべよ?」
「……う、うん……」
満面の笑みで心音が言って来たので、蓮華は断りづらかった。蓮華が頷くと、心音はパァーッと瞳を輝かせて、待ってましたと言わんばかりの顔をした。対して蓮華は、若干ゲッソリとなっている。本音を言うとものすごく断りたかった。彩葉が言っていたように、蓮華はクラスカーストで三軍である。そんな三軍が急に人気者に近づいたらどうなるだろう?嫉妬で色んな生徒に殺されてしまう。もしかしたら三軍から上がるかもしれないが、蓮華はそれを望んでいない。
「やったー!えっへへ……おすすめの場所教えてくれる?」
「……うん、いいよ」
蓮華は屋上への方向へ向かおうとしたが、心音をそこに連れていくのは嫌だったので、中庭に向かうことにした。屋上も中庭も、階段で移動するので不自然には見えないだろう。蓮華はそう思い、階段まで心音を連れて向かった。
「ちなみに〜、どこで食べるのっ?」
「中庭……人は多いけど、景色がいいんだよね」
「へぇ〜!色んな人と仲良くしたいなぁっ!」
蓮華は心音を連れて一階へ向かう。途中ですれ違った生徒が心音を見て、顔を赤くした後に、蓮華を見て、スッと顔を元に戻す。まあ、これがビジュの良き悪きだよな〜、と、蓮華は思いながら、一階に着いた。
「ねえねえっ!お昼休みって、何時まで?」
「一時の二十分だよ……あと、一時間くらいかな」
「ありがと!九十九さん!」
「……お礼を言われるほどじゃないんだけどね……」
そして、蓮華は足を止めた。蓮華の目の前にある扉は、中庭へ続く扉。扉から外を見ると、たくさん人がいた。
「ここが中庭……に行ける扉。毎日人が多いから、五十嵐さんなら誰かと食べれるよ」
「ほんとだっ!三日月さんもいるっ!九十九さんも早く行こっ!」
「え……ちょ、ちょっと…!?」
蓮華の後ろを歩いていた心音は、急に蓮華の前に飛び出して、蓮華の手を握って、何も知らないのに、ドアを開けて中庭へ行く。心音は蓮華を引っ張って、自身の友達の元へ行こうとするのに対し、蓮華は行きたくないと言わんばかりに角っこに逃げようとしていた。
「うっ……つ、九十九さん!み、三日月さんはいい人だ・か・らっ!早く行こうよっ!!」
「ぜっ……っ絶対にい・や・だ…!五十嵐さんが一人で行けばいいでしょう……」
「九十九さんとも食べたいのっ!」
「えぇ……ぜ、絶対に嫌だっ……!」
「たーべーる!」
「いーやーでーすっ…!」
「たーべーまーすっ!」
「いーやーだ!」
心音は頬をプクーッと膨らませながら、蓮華の手を引っ張っる。手というよりかは、腕が正しいような気もするが。蓮華はそれに対抗して、足に力を入れて、動こうとしない。もちろん、両者の片手には弁当箱が握られている。
「はーやーくっ!」
「はーなーしーてっ!」
「いーやーや!」
「はーなーせぇっ!」
その状態が一分経った頃だろうか。二人は全力を出して、弁当を片手に倒れて、疲れ切っていた。蓮華はムクリと体を起こして、心音を見た。心音は蓮華の視線に気づき、体を起こした。当然、息が上がっている。
「……二人で食べない?」
「もう三日月さん達行っちゃったしね……そうしよっか」
蓮華と心音は近くのベンチに二人で座って弁当を広げた。そして、手を合わせて、いただきます、と言った。




