夏雲
夏の雲っていいよな。分厚くって白くて。あんまりじっと見つめて歩いてると電柱なんかにぶつかってまうから時々視線を下ろして周りの確認をする。そんで青々とした木々と照らされたアスファルト、ぶつかるもんなんてないことを確認したらまた上を見る。綺麗な白色はさっきより大分違う位置に感じる。歩いたからか、それとも風が強いからか。
家からバイト先まで歩いて20分。自転車で行けば5分程度しかかからない道のりだけど、こうやって晴れた夏は、たっぷり時間をかけて歩く。自転車の方がずいぶん楽だけど、乗ったまんま上見るってのは危ないんで、こうして歩く。20分も日に照らされると体が黒くなっちまうから日焼け止めをたっぷり塗って家を出る。日傘はあんまり良くねえ。なんてったって空が見えない。夏はこの雲のために存在しているって最近感じる。プールや海がいいって言うやつもいるけど、それは何も夏じゃなくていい。沖縄にでも行けば夏以外にも海には入れるし、プールは室内にもある。うん。やっぱり夏は雲だな。
あの分厚くてフワフワっとした雲をじっと見てるとふと考える。ああ、あの雲に乗ってゆっくり昼寝でもしたいなあ。だけど、実際には雲には乗れない。いくら地上から見る雲が柔らかくて弾力のあるように見えても、ほんとはただの水分なのだ。まあでも、仮に乗れたとしてもあんなに空に近くちゃ暑くって昼寝どころではないことだろう。それに肌も真っ黒に焼けてしまうし。
何も黒く焼けた肌が嫌いな訳じゃない。でも鏡なんか見てみると分かるんだけど、自分には黒く焼けた肌は似合わない。むしろどっちかっていうと白が似合う。そんな顔と体をしてる。情けないことに、体はひょろひょろで顔に威厳は感じられない。だから、もし自分と真逆の人がいたならその人はきっと夏に似合っている人だろう。
あんなに分厚いのなら釣竿持ってきて釣り針を雲に引っ掛けたくなる。そんでその釣り竿持ったままどこまでも歩いていきたい。ギラギラ光を浴びてるアスファルトの上を一歩ずつ。周りに田んぼしかないような田舎道も。きっと楽しいだろうな。そんで、疲れたなって思ったらそこらへんのベンチにでも座って、ペットみたいに連れてきたあの雲を眺める。きっと気分がいいだろう。
同じ景色に飽きたら今度はあっちのモフッって感じの雲に針を付け替えて、今度は港町なんかにでも行こうかな。それとも、島にでも行ってその島を1週する冒険でもしようか。新鮮なお魚でも買ってお腹満たして、島なら、地元の人とお話なんかもいいね。
国内に飽きたら次は海外。もっともっと大きい雲に引っ越して引っ掛けた釣り竿の糸にぶら下がって、そのまま雲に身を預けて。どこへたどり着くだろう。アメリカならでっかいハンバーガーにかぶりつこう。イタリアならピザをおなかいっぱい食べて。フランスならフレンチの料理を堪能したい。一度万里の長城を見たいと思っていたからな、中国もいい。とても綺麗だって聞くからインドのタージマハルなんか行ってみたい。エジプトのピラミッドなんか定番の観光スポットだよな。そんで、世界を体験し終わったら雲に登って寝っ転がって、死ぬまで寝ていたいな。
まあ全部出来なことってのは分かってんだけどさ。でも俺はこうやって昨年も一昨年もその前も、親と手繋ぎで歩く子供んときもそうやって想像していた。だからこの先夏がきて、この雲を見たときにはまたこういう想像をするんだろう。
俺には一個夢がある。いつも下から見てるこの雲を上から、また、横から見てみたい。もちろん中からも。写真や動画で見たことあってもやっぱり直接見ないとその良さは分からない。宇宙飛行士なら見れるだろうな。でも頭が良くて運動神経も良くないと行けないっていうからきっと無理だな。なら飛行機の操縦士はどうだろう。これなら必死に努力すれば俺でも行ける気もする。だけどやっぱりダメだな。俺には大勢の命の責任を持てるほどの勇気がない。なら何があるだろう。そうだ。スカイダイビングでもやろうか。それならきっと雲を上から見れる。うん。そうしよう。そうと決まったらこの夏どっかに行ってスカイダイビングの予約をしよう。いいね。最高だ。
バイトが終わったら、その頃にはきっと雲は見えないな。夏は日が落ちるまで時間がかかるからもしかしたら残って見えるかもしれないけど。絶対今よりは綺麗に見えない。だからバイトは辛い。けれども、さっきスカイダイビングをするって決めたからには、金が必要だ。そんな風に考えたらまたバイトが辛いだけでは無い気がした。
あ、着いた。
俺は涼しくて空のない店内へ希望を持って入った。
こんなものを書いといてなんですけど、冬派です。
夏もちゃんと好きだけど!




