第三話
士郎は落ち込んでいた。
唯一の友達を最近、失ってしまったからだ。
確かに神崎は自分の好きなこと以外には一切興味がなくて、士郎くらいしか話し相手もいないような奴ではある。だがしかし、周囲に真っ黒なオーラの漂う士郎に話しかけてくれるのは神崎しかいなかったのだ。しかし士郎は自らを思って行動してくれた神崎の手を払いのけてしまった。あれ以来、同じクラスであるのにも関わらず士郎は神崎と一言も交わせていない。
教室ではおおかたグループも出来上がりつつある。体育会系のうるさい奴らやそれに乗っかるギャル軍団、教室の隅のほうでアニメ談義に花を咲かせる集団。その他にも多種多様なグループがクラス内で静かにそれでも着実に形成されつつある。当然、異様なオーラを放つ士郎に話しかけてくれるものなど皆無で士郎は休み時間には寝たふりをするのが習慣になってしまった。ちなみに神崎はというと、最初は神崎のさわやかな雰囲気に、蜜を求める蝶のように誘われたクラスメイトに色々と話しかけられていたが、お得意の興味のないものに対しては一切言葉が出てこない病を発症し、結局誰とも会話が続かず、入学数日後にはボッチになっていた。最低なことに士郎は神崎が独りぼっちでいることに安心していた。
いつの間にか六限も終わり、高校から解放される時間になっていた。
「今日から部活動体験が出来るようになるから、参加したい奴は忘れずに行けよー」
士郎は号令前の教師の一言でそんなイベントがあったことを初めて知る。
部活動。
士郎は小学校、中学校と部活には所属しなかった。墓参りには往復で二時間ほどかかるので、部活などをしていたらそれができなくなるからだ。また新しい思い出が増えすぎてしまって、二条ゆあの記憶が消えるのが怖かった。
士郎は再び、神崎の席のほうを見た。士郎の席は教室の真ん中あたりで、神崎の席は教室の窓側の後ろの方だ。なので、士郎は本人にばれないように視線を静かに左後ろに移動させる。
神崎はいなかった。
なぜか士郎の胸が痛くなった。神崎がどこで何をしようと彼女の自由である。ただ彼女がどこかの部活に所属して自分は置いてきぼりになっていしまうのではないかと謎の被害妄想のようなものが士郎の頭の中によぎった。
士郎は急いで教室を出た。
自分はなんて気持ちの悪い人間なのだろうと吐き気がしたが、士郎は一人になるのがひどく怖かった。
下駄箱に神崎は居た。彼女はうち履きをしまっているところだった。急に現れた士郎に、神崎は少し目を見開いていた。
士郎は何か会話の糸口はないかと探す。
謝罪?いま?変だよな?
下駄箱近くの白い壁にポスターが貼ってあるのに気が付く。そこには「オカルト研究会 研究に協力してくれる同志を求む!」と書いてあった。
「あ、あのさ一緒にオカルト研究会の体験行ってみないか」