第二話
神崎は士郎のことが心配だった。
神崎と士郎とは中学生二年の時に出会った。出会った当初から士郎はずっと暗いオーラを纏っていた。あまりにずっと暗いオーラを発しているため、士郎と関わろうとする人間は全くいなかった。しかし神崎は違った。オカルト好きである彼女は、じめっとして、くらーい雰囲気の士郎に大いに興味を抱いてしまったのだ。
しかも士郎はちょうどその時分、図書室でオカルト系の本をがむしゃらに読み漁っていた。図書委員でもあった神崎は士郎に図書室にはない自らの書籍を貸す(半ば強引に押し付ける)中で、士郎との交流を深めていった。
神崎は士郎のことを知っていく中で、士郎の抱えている重大な問題に気が付いた。それは士郎がいまだに幼馴染との死別を乗り越えられず、いつまでも過去に囚われ続けているということだった。
この事実を知ったとき神崎は驚愕した。ここまで一途な男が現実に存在するなんて夢にも思っていなかったからだ。そこまで彼に思われている二条ゆあさんはどんなに魅力的な人だったのだろうか。神崎は少しだけ羨ましかった。ただこのままでは彼は過去に取り残されたまま、人生のほとんどを無駄にしてしまう。そんなことは亡くなった二条ゆあさんも望んではいないだろう。
だからといって私に何ができるのだ。ただのオカルトオタクの私に。
神崎はオカルトマニアとして自分の好きなことばかりに目を向けてきた。正直、同世代の人間と比べてコミュニケーション能力が乏しく、人との関わり方もよくわかっていないことは自覚している。けれども今は私の事情なんてどうだっていい。手遅れになる前に彼を救わなければならない。
だって彼は人生で初めてできたオカルト友達なのだから。
そんなわけで決死の覚悟を決め、士郎の前に立ちはだかり、士郎が墓参りに行くのを妨害してみたものの、結果は惨敗というわけだ。神崎が士郎と真正面から対峙してみて感じたのは、士郎の思いは尋常ではないということだった。理性では神崎の言葉を理解していても、士郎の思いがまるで操り人形の糸のように彼の四肢の自由を奪ってしまっているように見えた。
彼と目があった時、思わず涙がこぼれてしまったのはなぜだろうか。初めて人と正面からぶつかり合ったからだろうか。
違う。
彼が本当に苦しそうだったからだ。
きっと彼自身どこかで自分の思いが異常であることを自覚しているのだろう。それでも感情の雪崩は止まらないのだ、止められないのだ。
今日は家に帰って休もう。また何かいい方法をきっと見つけよう。
神崎は士郎に振り払われた手を数秒見つめてから顔を上げ、そうして自分の家へと歩みを進め始めた。