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国王陛下

王の来訪、周囲は思わぬ大物の登場にざわめいていた。

「(陛下ってことは、この国の王様か。まさかそんな大物まで招待していたとはね。凄いなハミット家)」

開け放たれた扉から陛下のご尊顔が露になる。

王族であることを示す白銀の髪、獅子の鬣を思わせるような立派な白い髭、貫禄のある顔立ちに、ガッシリとした体つき。中年男性の類に入れるにはあまりにも猛々しい姿である。

その後ろには第一王子を始めとする7人の子供たちが着いて歩き、錚々たるメンツで入場してきた。

「実物を見ると凄い迫力だね。やっぱ一般人とはオーラが違うよ」

「ふんっ、お父様の方がスゴイわよ!」

「はいはいそうだね」

この国一の大物の登場。それに周囲は沸き立つものと思っていたが、貴族たちは想定外の事態にでも直面したかのようにオドオドしていた。緊張感と気まずさが入り交じる張り詰めた空気の中、渦中の陛下は息を目一杯吸い込み……。

「オズフォードぉおおおお!! 来てやったぞぉおおおお!! ガァアハッハッハッハ!!」

貫禄ある顔が満面の笑みに変わり、大声でイオナの父を呼んだ。すると

「招待状を送った覚えはありませんが。陛下」

パーティーでも貴族と仕事の話をしていたオズフォードが、陛下の前に現れる。その後ろには公爵夫人であるフィアーナが着いていた。

オズフォードは一国の王に対面した時とは到底思えない、砕けた言葉で接していた。

「悪いな! 勝手に来た!」

「困ります。勝手に来ないでください」

「ガァッハッハ!! 相変わらず冷たいなお前は! 大体うちの息子の婚約者のデビュタントだぞ? 何故我を呼ばんのだ!」

「一国の王をそんな些事で呼び出すなどできません。代わりに第三皇子には娘から招待状を送ってます」

「ああ知っておるぞ! それを盗み見たからここへ来たのだ! ついでに子供たちも全員連れてきたぞ!」

陛下の後ろに控える白銀の髪をした子供たちは困ったように嘆息をついていた。王子たちも王様の自由さには振り回されているようであった。

「王が手紙を盗み見ないでください。一国民として恥ずかしいです」

「ガァッハッハ!! 不敬過ぎて笑いが止まらんわ!! ガァッハッハッハッハ!!」

会場の隅にて、メインホールに響き渡る声の主を遠目から眺める。

「君のお父さん、王様に対して気軽すぎじゃない? 大丈夫なの?」

「お父様と陛下は旧知の仲なのよ。だからなんの問題もないわ! ふふん!」

少し不安げにレイがイオナに尋ねると、彼女は鼻高々に言った。

まるで友人の家に遊びに来たような陛下に、周囲は戸惑いを隠せない。

「(陛下は宰相たちも手を焼くほどの自由人だと家庭教師から習ったが、想像以上だな)」

「お? お主が新しくオズフォードの嫁に入ったものか。会うのは初めてであるな」

陛下はオズフォードの一歩後ろに立つフィアーナに目をやる。

「ご挨拶申し上げます、国王陛下。フィアーナ・ハミットと申します」

優雅なカーテシーでフィアーナは礼儀正しく頭を下げる。

「ガァッハッハ!! オズフォードには勿体ない程美しい娘だな! もしオスフォードに捨てられれば我の元に来ると良い! 側室として迎えようぞ! ガァッハッハ!!」

「お戯れを、陛下」

「冗談が通じんとこはオズフォードに似てしまったのか? まぁ良い! それよりオズフォード、お前んとこの娘は何処におる? 主役に挨拶せん訳にはいかんだろう!」

「畏まりました。……イリエナ、来なさい」

溜息混じりにオズフォードが呼ぶと、華やかなドレスに身を包んだイリエナが陛下の御膳へと足を運ぶ。

「お初にお目にかかります、国王陛下。イリエナ・ハミットと申します」

イリエナは微笑み一つ浮かべず、スカートの両端をつまみ上げお辞儀をした。

「おぉ~! お主がイリエナか! ガァハハハ!! オズフォードそっくりで無愛想な娘だな!」

「お褒めに預かり光栄です。陛下」

「ガァッハッハ!! 皮肉が上手いところも似ておるのか!!」

一国の王に対して、堂々たる態度のイリエナであった。イリエナと同い歳でこれほど豪胆な者は他に居ないと思えるほどだ。

「とにかくデビュタントおめでとう! これからの活躍に期待しておるぞ、イリエナよ」

「身に余るお言葉、感謝致します」

「うむ! それよりオズフォード、お前んとこの娘はもう一人居なかったか?」

ここでまさかのイオナに白羽の矢が立つ。思わぬタイミングに一瞬レイもドキリと心臓が跳ねる。

「イオナのことでしょうか」

「ああそうだそうだ! イオナは来ておらんのか? せっかくだし顔を見ようぞ!」

周囲の貴族は問題児の呼び出しに不安の色を見せていた。オズフォードですら少し眉を顰めるほどだ。

「陛下に呼ばれてるわけ……!? だ、大丈夫なんでしょうね、レイ……!」

「大丈夫だよイオナ。上手くやるから」

「(歓迎ムードじゃないが、行かない訳にはいかなそうだ)」

陛下のご要望を断れるはずもなく、不安そうな周囲の目を押し退け陛下の前へと姿を見せる。

「お呼びでしょうか、陛下」

「んぅ? お主がイオナか?」

「はい。ハミット家の次女、イオナ・ハミットと申します。陛下のお目にかかり光栄です」

フィアーナのカーテシーを見様見真似で行い、レイは柔らかな微笑みを浮かべる。

「おぉ! オズフォードの娘とは思えんほど愛想がいいな! ガァッハッハ! 気に入ったぞ! どうだイオナよ、我の側室に入るか?」

「私のデビュタントでもお心が変わりなければ、是非ともお願いいたしますわ」

「んぅ!? ガァッハッハッハッハッハッ!! オズフォードの娘のくせに冗談が通じるのか! ますます気に入ったぞ!!」

愉快そうに高笑う陛下に、周囲は安堵する。イオナが陛下の期限を損ねないかと内心ヒヤヒヤしていたのだろう。

「イオナよ、年はいくつだ?」

「今年で12になります」

「ふむ、うちの4番目の息子と歳が近いな。おいクレイグ! こっちに来い!!」

「すぐ後ろにいるのに大声で呼ばないでください。父上」

後ろに控えていた子供のうち、一番イオナと歳の近い少年が一歩前へと出た。

白銀の髪が照明で眩く煌めき、黄色い瞳は宝石のようで、端正な顔立ちは彫刻のようであった。

年はイオナより少し年上だろうか。発育がよくスラリと伸びた身長で、レイを上から見下ろしていた。威圧的、よく言えば王の風格がある人物だ。

そして陛下こと自由人は、思わぬ旋風を巻き起こす。

「せっかくだ、イオナをクレイグの話し相手にしよう!」

子供に異性の話し相手をつけること。それは即ち、実質的な婚約者を決めているのだ。


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