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第67話 ウキウキとスキスキ

「―それじゃ、元気でね、シルヴィア」


「グロリアお姉さまも」


「リオネル殿下やアニェス殿下にご迷惑かけないでよ」


「わかってるわ、ティアナお姉さま」


グロリアたちが帰国する日である。


彼女たちは、結局5日滞在した。アニェスが歓迎パーティーを開いてくれて、ギーたち隊長も参加しての大盛り上がりとなった。三姉妹で夜通しおしゃべりに花を咲かせた日もあった。町に繰り出して、ショピングを楽しんだ日もあった。あっという間の5日間だった。


「―シルヴィア」


アズールは、真っ直ぐシルヴィアの瞳を見つめた。脳しんとうの後遺症もなく、無事快復していた。


「結果が出た以上、きれいさっぱりお前のことは諦める」


「アズール…」


「だがな、これで縁がまるっきり切れるなんてことは、考えちゃいねえぞ」


「にゃっ!? それって、どういう意味?」


「俺は決めた。ルプスは、シルヴィアと組むことにする」


「……?」


「シルヴィアと同盟を結ぶと言っているんだ」


「はあっ!? なんでそうなるのよ?」


「今後は、何かあったら俺のことを頼ってくれ。全力で支えることを誓うよ」


「……」


「じゃあな、また会おうぜ」


アズールは、ヒラリと馬車に乗り込んだ。


「シルヴィア。お手紙、ちょうだいねー! ガゼルのご加護がありますように!」


「お姉さまぁーっ、元気でねぇーっ! ガゼルのご加護がありますよぉにぃーっ!」


グロリアが思い切り手を振って別れを惜しんだ。シルヴィアも、力の限り手を振って応えた。三人が乗った馬車が小さくなっていく。皇宮の城門を出て見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。


「……あ〜あ、行ってしまった」


シルヴィアは、名残惜しそうに城門を見つめた。


「また会えるさ」


リオネルが肩に手を回して微笑んだ。シルヴィアは笑みを返した。


「……はい。そのときを楽しみに待ちますわ」


「―アズールどのは、最後に変なことを言い残していったな」


「まったくです。何を考えているんだか、男の方は時々わからなくなります」


「すると、俺のこともわからなくなるのか?」


「……ええ。わからないことだらけですわ。アズールとの決闘だって、どうしてお受けになったのですか。どれだけ心配したことか」


「『リオネルさまと別れたくない!』…とか言って泣き喚いたそうだな」


「……それ、まさか私のモノマネですか? 全然似てないんですけど」


「そうかな。自分では結構いけてると思うが」


「似てませんっ! ふざけないで真剣に答えてください。もし負けたらどうするおつもりだったのです?」


「……負けないさ。俺は世界で一番、お前のことを愛しているから」


「―!」


「その俺が負けるわけないだろ」


(くぅ〜〜〜っ。あたしって、世界一の幸せ者だあぁ〜)


(こんなこと言われて、どうしたらいいのお〜)


(ふわふわの、ふにふにの、むにゅむにゅだわ〜)


「……あ、あたしも、リオネルさまのことが―」


「気持ちワルイよ、シルヴィア」


「にゃ…気持ちワルイですって、失礼…な…!?」


ふと抱きついている相手を見ると―


「げっ…!? フランベルジュ!」


フランベルジュの長い顔が目の前にあった。慌てて身体を離す。


「ボクにキスなんかしないでよ、気持ちワルイ」


「な、な、なんで、あなたがいるのよ!?」


「ここ、シルヴィアの部屋だよ。ボクはいつもお留守番じゃんか」


「……旦那さまは!? 旦那さまはどこへ行ったの?」


「リオネルさまなら、とっくにお戻りになりましたが」


コレットが困惑したように小首をかしげた。


「ウソ…。お姉さまたちのお見送りのあと、並んで歩いていたのに」


「そうですよぉ。仲良く肩を抱いて歩いていらっしゃいましたぁ」


マノンに言われて、改めて猫耳まで赤くなる。


「―それなのに、どうしてあたし、部屋にいてフランベルジュなんかに抱きついているのよ」


「なんか、とは失礼な()だね」


フランベルジュが不平を鳴らす。しかし、コレットには聞こえない。


「お部屋前で、普通にリオネルさまと挨拶をかわしてお別れしていらっしゃいましたが…?」


コレットの小首がますます傾く。


「……覚えてない」


「シルヴィアさまは、お部屋に入るなり、ふわふわと踊られて、フランベルジュさまに抱きつかれましたぁ」


シルヴィアのマネをしたのか、マノンは、奇っ怪な動きをすると、どさくさまぎれにフランベルジュに抱きつこうとした。フランベルジュは、さっと逃げ出した。マノンは、小さく舌打ちする。


「……相当、重症だわ」


シルヴィアは、額を押さえてしゃがみ込んでしまった。


(あたし、いったい何やってるんだろ…。ちょっと浮かれ過ぎだわ)


「……失礼いたします」


そのとき、ノックの音がした。


「主ガブリエルよりのご伝言をお持ちいたしました」


シルヴィアの了解を得てコレットがドアを開けると、ガブリエルの従者が立っていた。


(―確か、ガブリエルさまが見えられたときお付きでいらっしゃった、リュカとかいう方よね…)


改めて、青年を眺めた。鉄紺色の髪と瞳をした、なかなかのイケメンである。どこか暗い翳を帯びているところが、神秘的な雰囲気を醸し出している。


「妃殿下におかれましては、ご機嫌麗しくお慶び申し上げます」


「ありがとう、リュカさま」


「……」


リュカは、おや、という表情を浮かべた。おそらくは、自分のような者の名前を覚えているとは、という驚きであろう。


「―つきましては、妃殿下へご機嫌伺いに参りたく、よしなにお取り計らいいただきたいとの、我が主からの伝言にございます」


そういうと、リュカは一通の手紙を差し出した。コレットが恭しく受け取り、シルヴィアへと手渡した。それへはちらっと目をやっただけで、直ぐにリュカに向き直った。


「ご丁寧に痛み入ります。いつでも歓迎いたします、とお伝えください」


「は。有難き幸せ。必ず我が主へお伝えいたします。―では、失礼いたします」


「あ…リュカさま、少々お待ちになって」


身を翻しかけたリュカを呼び止めた。


「―マノン」


「はい、シルヴィアさま」


シルヴィアの目配せで、マノンは菓子箱を取り出した。


「―これは、マティスの名物なの。りんごのシロップ漬け。よろしかったら、お召し上がりください」


「……貴重なものを恐れ入ります。我が主への良いお土産になります」


「あなたに、差し上げたいのよ」


「これは…ますます恐悦至極。私のような者にまで細やかなお心遣い、身が縮まる思いにございます。そのお気持ちも含めて、主へお伝えいたします。―では、失礼いたします」


丁寧に頭を下げて、リュカは退出していった。


「……真面目ねえ」


「リュカさまって、素敵な方ですよねぇ」


マノンは、藍色の瞳を煌めかせる。


「―あらっ? マノンは、ああいうタイプが好みなんだ?」


「えっ!? ち、違いますよぉ。あくまで一般論ですぅ」


「照れなくてもいいじゃない。あたしも、リュカさまは素敵な方だと思うわ。若いのに落ち着いているし、いかにも仕事ができそうだし、第一、優しそうだしね」


「……シルヴィアさまも、気に入っていらっしゃるのですね」


「ちょっと、ちょっと! そんな目で見ないでよ。カレシを()ったりしないって」


「カレシじゃ、ありません!」


「あらっ、可愛い! 顔が赤いわよ。もしかしてマノン、本気のやつ?」


「からかわないでください!」


「あっ! わかった! ギーさまに似ているからでしょう?」


「……絶対に、違います」


「ええーっ!? マノンさま、ギーさまのことが好きなんですか!?」


コレットが食い付いた。


「……違うから」


「知らなかったー。そうだったんだー」


「……シルヴィアさま。どうしてくださるんですか。コレットが信じちゃったじゃないですかっ」


「ごめんちゃっ」


「ったくもう! ―コレットも、くだらないこと言ってないで、仕事をしなさい、仕事を!」


「ええー、もっと恋バナ聞かせてくださいよー」


「ダァメッ! シルヴィアさまのドレスの整理が残っているでしょ!」


「……はぁ〜い。―そうだ! ついでに、マノンさまのデート服も一緒に見立てましょうか?」


「何ですって!?」


「きゃあっ、怖い! シルヴィアさま、お助けください、マノンさまがいたいけな私を睨むんです〜」


「誰がいたいけじゃ〜っ」


……賑やかな歓声が部屋中に弾けた。フランベルジュは、呆れたように鼻を一度鳴らすと、ベッドの上で丸くなった。いつの間にかシャウラが隣に来て、同じように丸くなった。フランベルジュは、ちらっとシャウラを見ると、目を閉じてそのまま寝てしまった。

【裏ショートストーリー】

グロリア「アズール。何であんなことしたの」

アズール「あんなこと…? 何の話だ」

グロリア「とぼけないで。リオネルさまに決闘を申し込んだことよ」

アズール「俺は始めから言っていたはずだ。シルヴィアを取り戻すと」

グロリア「詭弁だわ。そういうつもりがあったなら、あなたを連れてきたりはしなかった」

アズール「まあ、いいじゃねえか。これで俺も、すっきりした気持ちでシルヴィアと会えるようになる」

グロリア「あなたは、いいでしょう。でも私は寿命が縮んだわ。お父さまから、重要な任務を仰せつかったのに、逆にブランシャールと敵対することになったかもしれないのよ」

アズール「俺の知ったこっちゃねえ」

グロリア「……呆れた。あなたはルプス王家の王子なのよ。国民に対して責任ある立場なのだから、私情にとらわれずもっと慎重に…」

アズール「わかった、わかった。俺が悪かったよ。……グロリアは、昔から小うるさくて敵わねえ」

ティアナ「アズール! お姉さまに何て失礼な言い草なの。あなたの心情を慮って、同道をお許しになったのに、仇で返すようなことをしておいて、まるっきり反省していないじゃない」

アズール「反省してるって。ルプス王国は今後、全面的にカトゥス王国とリオネル家に協力する。王子の名において誓約するよ」

グロリア「そういうことは、お父さまとお話ししてよ。私の一存じゃ、決められないわ」

アズール「もちろん、そのつもりだ。お前たちをカトゥスに送るついでに、陛下に謁見する」

ティアナ「送るついで、って、この馬車、うちのですけど。あなたのほうが便乗しているのですけど」

アズール「堅いこと言うなって。王族同士、広い心を持とうぜ。あっはっはっ」

ティアナ「……笑って誤魔化すな」

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