眠るトナカイ・番外編:アルノ少年
未完ですが、投稿します。
よろしくお願いします。
少年はアルノと言った。彼はいつでもトナカイの世話に忙しく、勉強などはしたことがなかった。アルノは特別に生きる為、学校へ行くことは免除されていた。サンタクロース(サンタさん)の為に、トナカイを育てるのが仕事だった。彼は五歳の時からずっと今まで一人暮らしだった。ひとりでサンタクロースに仕事をもらいながら。彼はまだ九歳だ。両親は消息不明だが逞しく彼、アルノは生きてきた。父がくれたトナカイの毛を梳くブラシを今も大切にしていた。祖父のものらしかったが、長持ちしているようだった。両親はとても優しい人達だった。
ある時、少年アルノが五歳の時、彼はどこもかしこも、まっ白な世界に来てしまった。そこには彼、少年アルノの両親も人影すらなく、ただただ、まっ白な空間が広がっているのだった。だが、アルノは泣かなかった。当時、五歳の割には大人びていたアルノは落ち着いていた。
『誰か居ませんか』
アルノは囁いた。声は何故か出なかった。心の中で静かに囁きは留まった。
しかし、その心の中の囁きの声は誰か、に届いたようだった。
『ここに居るよ』
おじいさんの声がどこから遠くから聞こえた。優しそうな、どこかで逢ったことのあるような懐かしい声だ。
アルノは再び(心の中だったけど)囁いた。
『行ってもいいですか、そちらへ、?』
すると、また、遠くの方からそのおじいさんの声が言った。
『いいよ、おいで。私は待ってるよ。』
そして、アルノは、その場所へ向かった。その場所は、何故だか彼にも分からないが、彼はもうとっくの昔に知っている場所だった。何度も通ったことのある道のように彼はどんどんその場所へと歩いた。
と。
“チリン”
鈴の音が鳴った。その音でアルノは着いた!と思った。
“チリン”
トナカイが鈴を付けて彼を待っていた。
トナカイはアルノを見てからトコトコと歩き出した。アルノを確認したかのようだった。
チリンチリンと鈴を鳴らしながらトナカイは歩いた。アルノは嬉しそうにそのトナカイに付いて行った。アルノは、そのトナカイのことを昔から知っているトナカイだと感じたからだ。と言うより、知っている感じだった。
───しばらく経って。
「アルノ、ごきげんよう。来てくれたんだね」
白い髭を生やしたおじいさんが言った。優しそうなおじいさんだ。あの声のおじいさんだった。
「うん!」
アルノは答えた。アルノは、そのおじいさんをよく知っている感じがした。
「ムアン、おいで」
ムアンはトナカイの名前らしかった。トナカイ(ムアン)はおじいさんに駆け寄った。
「ムアンに頼んだんだ。」
ムアン(トナカイ)を撫でながらおじいさんは言った。
「ムアンはお前とは昔っからの仲だ、なあ?」
おじいさんの優しさをずっと知っているような感じはしていたが、久しぶりな気がしていたし、いつも人に優しくされる時よりも尚更、アルノの心は温かくなった。
「おじいさん、僕に仕事を下さい。」
アルノは落ち着いてはいたが、これからの事に不安もあった。知らない世界に居ることよりも、両親が近くに居ないことよりも、仕事を欲しがった。
「いいよ」
「そこに居る、ムアンの世話を頼むとするかの。ムアンは優しいのは知っておろうな。だが、もう年だ。ムアンは昔のようには空を飛んで駆けて行けない。ムアン、喋ってしまったのは悪かったがの、アルノもムアンと同じだ。優しい。ちゃんとお世話してくれるからのう」
おじいさんはそう言ってムアンに微笑みかけた。ムアンはアルノを見て頷くように(いや、本当に頷いたのだ、これは絶対だ)した。アルノもムアンを見、頷いた。
「ムアン、行っておいで」
「ワシは寂しくないから。ムアン行っておいで」
おじいさんはそう言ってから、アルノを手招きした。アルノはおじいさんとムアンのところへ向かった。ムアンにアルノをおじいさんは乗せ、もう一度言った。ムアンの背に向かって言った。
「行っておいで、行っておいで、ムアン!」
「きみはムアンっていうんだね。ぼくはアルノ。よろしくね」
ムアンはグゥゥと返事をしたかのように鳴いた。
「はははっ」
アルノは嬉しくなってムアンと一緒になってはしゃいだ。ムアンもムアンでアルノを歓迎するかのようにして楽しそうにして、はしゃいでいるようだった。
それからというもの、アルノとムアンはずっと一緒に過ごし、朝起きる時も、夜眠る時も一緒、ご飯を食べるのも、ずっとずっと一緒。ふたり、は、もうツーとカーと呼べるまでになっていった。
「アルノ、いるかい」
ある朝、早くにおじいさんがアルノとムアンの小屋を訪ねてきた。
「おじいさん、おはよう」
アルノがいうと、ムアンは、おじいさんを出迎えて鼻を寄せて甘えた。
「おはよう、アルノ、ムアンも」
アルノもおじいさんを出迎えた。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ありがとう。元気だったよ。アルノとムアンはどうだったかね?」