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第八話 ナデポ

 掃除完了。

 多分これ下級治癒薬の原液だよね。

 ブラックマーケットの値段とは違うだろうが、もったいないな。


「お疲れ様。次の検査をしようか」


 俺のギフトで研究に協力すると約束したけど、検査を終わらせてからの話だ。


「次は人を強化出来るかやってみよう」


 人体実験……。


「僕の……思考速度を強化してみてくれ」


 他人を強化するのは少し怖い。

 よくあるだろう? 強化のし過ぎで体が壊れるとかそういうの。


 俺自身をめちゃくちゃに強化しても体が壊れる前に勝手に止まる。自身の脳で制御しているから、痛みとかでギフトを維持出来なくなるのだ。


 他人の場合はそうもいかない。痛かろうが俺が止めるまで強化するだろう。


「うん。だから思考速度を強化してくれって言ったんだ。僕のギフトは【思考速度強化】系だからね。強化されても余裕がある」


 普段から己のギフトで強化しているため、俺がする強化で体が壊れることは無いと。


「じゃあ、僕の頭に手を乗せて」


 頭に? 手を?


 いや、理屈は分かる。俺のギフトは手で触れた物に発動する──というか大体のレアギフトはそうだ──し、人は頭にある脳で思考する。


 だから俺の手を川越主任の頭に乗せるのは、何もおかしなことじゃない。


 分かる。分かるが、心理的抵抗が大きい。


 小さい頃から様々な媒体でナデポ──異性の頭を撫でると好感度が上がる現象。あるいは能力──なんて存在しない、逆に好感度が下がるぞと学んだ。


『突如頭を撫でだす勘違い男!』なんて記事は山ほどある。


 さすがにこの状況で頭に手を乗せても『勘違い男』とは言われないだろうが、身に染み付いた恐怖はそう簡単には無くならない。


 とはいえやらない訳にはいかない。これは必要な検査だ。


 ──ここは研究所だ。《《アレ》》があるはず……!


「何を探しているんだい?」

「消毒液を……」


 一旦綺麗にしてから頭に乗せたい。


「えっ? そんなの気にせずに乗せてくれていいよ」


 さも俺が気にしすぎているかのような言い方だ。

 お忘れでしょうか。さっきまで雑巾で床を拭っていたんですよ。この両手は。

 まあ、雑巾と言っても使われた形跡の無い綺麗なやつだったけど。


 しかし『気にするな』と言われれば気にしていられない。下っ端故に。


 川越主任の頭に手を乗せる。


「ん」


 ……なんだろう。罪悪感がすごい。

 やっちゃいけないことをしている。


 早いとこ終わらせよう。思考速度を強化。


 がんばれー思考速度。


 なんだ『がんばれ思考速度』って。


「うん? 発動してるかい?」

「いえ、していないです」


 発動しなかった。他人は強化できないんじゃなかろうか。


「うーん。もう少し続けてみよう。ちゃんと『がんばれー』って言ってるかい?」

「言ってます」


 それやめて。はずいっす。


 がんばれー思考速度。君ならできるよ。もっと加速しろ!


 発動した感覚は無い。


「他者の強化もできると思うんだよね。もうしばらくやってみよう。気長にね」


 気長にいきます。




 ■■■




 しかし、しばらく踏ん張っても発動せず、これやっぱ無理じゃねって思っていると……


「……『がんばれー』って声に出してみようか」

「……はい?」

「『がんばれー』って」


 勘弁してくれませんか……?


「が、がんばれー……」

「そう。『がんばれー』」

「がんばれー……!」

「いいよ」


 が……駄目っ……!



 …………


「次は頭を撫でながら」

「……撫でるんですか?」

「そう!」


 ……俺も小さい子供の頭を撫でたことくらいある。

 しかし! それとは全く違う感触だ。申し訳なさがすごい。

 俺は正しいことをしているんだろうか……。


「『がんばれー』は?」

「がんばれー……!」


 頑張ってくれ……! 思考速度!


「……人に頭を撫でられたのはいつ以来だろうか。小学生以来かな」


 回顧してらっしゃる。


「それもまさかこんな年下の男の子に……」

「はあ……」

「人生って分からないよね」

「そっすね」

「……」

「……?」

「……ところでこれセクハラとかパワハラにならないかな。頭撫でるの強要したって」

「……ならないんじゃないですか」

「そう? 嫌じゃない?」

「……大丈夫です」

「なら良かった」


 俺の余裕の無さを口調から察して欲しい。



 …………



「よぉーしよしよしよし! がんばれーがんばれー。いい子だねぇ! よーしよしよし」

「ふふっ……なんだか体が暖かい気がする。なんか発動してる?」


 してないです。


 字面ほど勢いよく撫でてはいない。髪がボサボサになっちゃうからね。

 でも口でそれくらいの勢いをつけないと、もう俺の腕は動かない。


 頼むぜ。これもう何時間やってんだよ……。


 我がギフト。君は出来る子だと知っているよ。

 だからちょっとね。頑張ってみようか。


 がんばれー思考速度ー。


 お?


「発動したね」

「しました」


 やったぞ! やっと終わる! ありがとう我がギフト!


「お疲れ様」

「はい!」

「じゃあ次は直接、僕のギフトを強化しようか」

「はい?」


 は、話が違うぞ……。


「必要な検査だろう? さあ、始めてくれ!」


 一体いつになったら終わるんだ……。




 ■■■




 一通り終わった。一度成功してコツを掴めたのか、発動までの時間が短くなっていた。


 結果を軽く言うと、ギフトの強化は成功。何も考えずに強化すると、消費が大体五分の一に、威力を強化すると、最大出力が五倍になったらしい。効果時間はどちらも五分。

 重ねがけは不可。

 強化倍率を下げる代わりに効果時間を延ばしたり、その逆を行った。


 結論としては、他人に俺のギフトを使う場合はその人のギフトを強化することになるだろう、だ。

 他人の身体能力を強化するのは怖いが、ギフト自体を強化すれば、使用するのはその人自身だ。問題があれば自分で止められる。


 ただ、正直実戦的とは言えない。

 頭に手を乗せなきゃ発動しないからだ。俺は今小隊長目指して頑張っているわけで、いつかは部下を持つ。

 部下の頭に手を乗せ『こ、これは君のギフトを強化しているんだ。だからじっとしててね。ふひ』とか言ったら免職だ。頭に手を乗せずに発動させたい。


 そもそも、発動するまで時間が掛かりすぎる、という問題もある。

 なんども繰り返し発動させることで、最終的にはおよそ十分で発動させられるようになった。


 最初の数時間掛かるのよりかはマシだが、戦場で十分は長すぎる。

 訓練で縮めてからやっと使い物になるだろう。


 人ではなく、物に対する強化は一瞬で発動する。基本はこれを使って戦うことになると思う。


「もう二時だ。ご飯にしよう」


 川越主任が時計を見て言った。

 まじで何時間頭を撫でていたんだろうか。


 もう右腕の感覚がない。これくらいの運動で俺の肉体が疲労することは無いが、精神的なダメージが大きい。

 力を入れているのか、抜いているのかもわからない。


 これならカマキリと戦った後の左腕の方が存在を感じられた。幻肢痛だったが。





 ■■■




『ナデポ』


 異性の頭を撫でると好感度が上がる現象。あるいは能力。

 好感度が上がるどころか、それだけで惚れることも。


 主に、不自然なほど強い好意を抱いた時に使われる。


 頭を『《《撫で》》る』と、頬が染まる擬音の『《《ぽ》》っ』から来ている。

 亜種に【ニコポ】というのも存在している。


『ニコポ』


 異性に笑顔を向けると好感度が上がる現象。あるいは能力。

 好感度が上がるどころか、それだけで惚れることも。


 主に、不自然なほど強い好意を抱いた時に使われる。


 笑顔の擬音の『《《ニコ》》ッ』と、頬が染まる擬音の『《《ぽ》》っ』から来ている。


 主人公はナデポの存在を信じていないが、ニコポの存在は疑っていない。

 これは内心『俺の笑顔を向けられた者は須く好感を抱くべし』という考えがあるため。

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