『開戦前夜』
お前、どこまで歩いたよ。
どんな気分だよ今。
辛いことあったか。もう嫌な気持ちは食べ尽くしたか。
目を閉じれば、暗闇を背景に、枯れ萎む花の姿が浮かぶ。
ベランダの向こうからは、遠く鯨の鳴き声が聴こえる。
道端では、黒い蝶が、蟻に喰われながら、飛ぼうと羽を動かして、もがいていた。
泣きながら帰る坂道では、茶トラが優しげに俺を見ていた。
目を逸らし、俯いて歩き出したら、その茶トラが、静かに目の前を横切っていった。
涙が止まらなかった。
愛の嗜好に正直に生きたら、周りから気持ち悪いと、からかって笑われた。
でも、馬鹿らしいけど、正直に生きてるって感じた。
でも、辛い時は、真剣に辛くなってしまった。
でも、涙脆くもなれた。
まだ戦えるか。もう無理か。
いつまで酔っていられるか。シラフを避けられるか。
自分で自分を呑み込み続けられるか。
いつまで続くか。来月まで、来週まで、明日まで。
あるいは、この瞬間まで。
でも、進むしかないのか。
いや、それとも、進みたいのか。
枯れ萎んだ花は、土に還り、また咲き誇るのか。
鯨はまだ俺を愛してくれてるのか。
看取った蝶は、再び舞い降りるのか。
それでも、猫はまだ見守っていてくれるのか。
キミは、それでもそばに居てくれるっていうのか。