ルノア王国の特別な力
ジルベールはルノア王国の王太子としてこの世に生を受けた。
ルノア王国は花の女神と光の神の子どもが国を作ったと言われ、神の恩恵をたくさん受け大陸内でも大きな国として繁栄をしてきた。
神の子孫とされる王家には不思議な力があり魔力を持った子が生まれやすく、また魔法が使えるという特性を持っている。
ジルベールも魔力量が多くまた生粋の王族ゆえに質も大変よく風の魔法を得意としていた。
しかし言い換えれば他の魔法はからっきしダメで上手く使えないのだから、魔力とは万能なものではないということだろう。
一夫一妻が多いルノア王家には珍しく、父王は一夫多妻でジルベールには弟妹が多くいる。
次期国王には正妃の長子の彼が選ばれ、今は王太子として勉強をしている。
父と母の仲は悪くなく、また他のお妃様方も大切にしていると思うが、父王は一番に正妃であるジルベールの母を大切にしていると感じていた。
しかしたびたび父の口から出る母は父の『ただ一人の絶対』ではないと寂しそうに言う意味がよくわからなかった。
聞いても曖昧に笑って誤魔化されるので、ある時母なら教えてくれるかもしれないと聞いてみることにした。
「母上『ただ一人の絶対』とはどういうことですか?!」
「まぁ、ジルベール。どこでその言葉を聞いたのですか?」
「父上様が仰っていたのですが、どういう意味なのかを教えてくださらないので。母上ならご存知かと?!」
「そうですね。あなたにはちゃんと話しておかないといけない事ですね」
と言って、ちょっと寂しそうな表情で教えてくれた。
ルノア王家には不思議な力がある。
魔力や魔法もそうだが、伴侶となる王妃に異常なまでの執着と独占欲を感じるのだという。
その感じ方は人それぞれだそうだが、それを運命のつがいと呼ぶ者もいるが、出会えば必ず相手が自分の特別だとわかるのだといい、そのただ一人だけを愛す人として認識することを『ただ一人の絶対』といい、生涯その人だけを愛し抜くのだという。
「では、父上が母上は違うというのは・・・」
「そうです。私はあの方のただ一人にはなれませんでした」
とてもとても悲しそうに小さく笑っていた。
幼いジルベールは聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと後悔し、それと同時に父に言いようのない怒りを覚え、父王のところに行くのだった。
「父上!母上がただ一人の人ではないとはどういうことですか?!」
バン!と執務室のドアを力任せに開けて入ってきた王太子に王も側近もみんなが驚いていたが、そんなことには構っていられないほどジルベールは怒っていた。
「王太子殿下、陛下は今大切な執務をされていますので・・・」
「よい。お前たち、ちょっと席を外してもらえないか。息子と大事な話をしたい」
「しかし陛下」
「大切な話と言ったんだ。下がれ!」
鋭い眼光で側近たちを有無を言わさずに下がらせ、ジルベールと共にソファの方に移動し、隣に腰を下ろした。
「話は誰に聞いたのだ」
「母上です。その時とてもとても悲しそうに笑っていました」
「そうか」
王はは俯きながらぽつりぽつりと王妃が話した内容と同じことを話し出したが、ジルベールはあの時の母の悲しそうな微笑みが頭から離れず聞き返してしまう。
「では、父上は母上を愛していないということですか?!」
「今は誰よりも愛している。でも、この先、私の『ただ一人の絶対』に出会ってしまったら、母のことは全く見向きもしなくなるだろうし、後宮も無くなるだろう」
淡々とまるで人ごとのように話す父をジルベールは信じられないものを見るような目で見つめていた。
この人はいったい何を言っているのだろうか?!
今まで信じていた父への信頼がガラガラ音を立てて崩れていくのを感じ、ジルベールは苦しくなる。
この人は結局母も自分も妹も、そして他のお妃様方も義弟妹も誰も愛していないんだ。
今だに見つからない自分のただ一人を探していて、その間の寂しさを埋めるためだけに自分達を利用しているのだと気づいてしまった。
バン!!
「待て、ジルベール!」
父の静止が聞こえたがそれを振り払うようにジルベールは来た時と同じように執務室の扉を大きな音をたてて開くと廊下に駆け出していった。
ただ、ただ心が苦しくて、大好きだった父が信じられず、ジルベールはそこから逃げ出すしか思いつかなかった。
しばらくはジルベールの話が続きます。
今は愛されているけど、『ただ一人の絶対』が見つかったら捨てると言われたら、そりゃあ信じられなくなりますよね。
ただ一人の人に会えなかったジルベールの父上も可哀想なのですが、そう言われた息子はもっと不幸。
それに正妃も側妃も子どもたちも、みんなが可哀想。
そんな運命にしてごめんね。
でも、残念ながら父王は一生ただ一人の人には出会えないので、それで許してください。