凶運の男のポーカーフェイス
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。タイトルは「ポーカーフェイス」ですが、実はキーワードを全て(↓)使っています。
天才/缶コーヒー/えんぴつ/ランドセル/量子力学/星座/夏祭り/チェックメイト/ひまわり/おふだ/体育祭/ポーカーフェイス/屋根裏
友人の悟が缶コーヒーのタブに指をかけると、ぽきりとえんぴつの芯が折れる様な音がした。
「あっ、くそ」
「おお、流石お前」
ステイオンタブと言うらしいそれは、見事に外れステイオンしていない。そして缶も開いてない。俺が流石と言ったのには理由がある。
悟は、物凄く運が悪い。
「そんな不良品引くなんて、最早天才だな」
「いつもの事だよ」
悟は平気な顔だ。本当にいつもの事で気にも留めないのだろう。
「こないだなんて逆に勢いよく開いて服を汚したし、それよりマシだ」
彼はひまわりを散らしたアロハシャツを摘まんでみせる。
悟の服のセンスはどうにかならんかな。ボトムスは目がチカチカする波と粒々模様のパンツ。「量子力学柄だ」とか訳のわからん事を言う。
「じゃ俺が奢るわ。それなら不良品はないだろ」
俺は道端の自販機に小銭を入れた。
「えっ、いやいいよ」
「気にすんな。夏祭りの時にたこ焼きくれたじゃん」
ガコン。
代わりのコーヒーを悟に渡し、俺達はその場で飲んだ。
「お前さ……お祓いに行った方がいいんじゃね?」
「ん?」
「おふだやお守りを持ち歩くとかさ……運が悪すぎだろ」
悟は物を買えば高確率で不良品や間違いが発生する。小さい頃、黒を注文したのにピンクのランドセルが届いた事もあるとか。
急ぎの時ほど電車は遅延するし、TVの星座占いは悟が見る時に限って最下位。
そうそう、鳥の糞なんかもよく落とされるんだが、屋根裏から彼の頭に猫が落ちてきたのは流石にビビったな。
あまりにも運が悪いから、体育祭の組分けで悟と同じ組になった奴はガッカリしていた。そしてやっぱり負けていた。
「いや、俺は運が悪いんじゃなくてここぞという時に強運を使ってるんだよ。だから普段の小さな不運はその反動なんだ」
「ん? どういう……」
ガシャン!
激しい音の後、足元を見た俺は戦慄した。
重そうなチェス盤が悟の身体スレスレに落ちてきたのだ。頭上のマンションから「すいませーん」と声がする。すいませんじゃねぇよ。直撃したらマジで人生チェックメイトだろ。
しかし悟は涼しい顔で言う。
「ほらね。俺、ここぞという時に強運なんだよ。今まで車に三回はねられたけど擦り傷だけだし、誘拐されかけた時も近くに警官がいて無事だったし」
俺は悟の肩を掴んだ。
「お前、やっぱりお祓いに行け!」
「えっ」
「普通の奴はそもそも車にはねられないし誘拐もされない! その時点で運が悪い!」
「えっ」
悟のポーカーフェイスが初めて崩れた。
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