第1話 タトゥー
私のバイトは某スーパーのレジです。
―夜。それは、酔っ払ったお客様が増える時間帯。
私のレジにも他のレジにも、もう既にベロベロに酔っているのにさらにお酒を買う、そんなお客様がたくさん来ていました。
そんな中、私のレジに1人の男性が来ました。
20代後半くらいに見えるその男性も、酔っているようでした。
そんな男性に対しても、私はいつも通り接客します。
「いらっしゃいませ、商品お預かりします。レジ袋はおつけしますか?」
「ん、いらなーい。それより見てこのタトゥー、かっこいいっしょ!!」
そう答えた男性の腕を見ると、確かに、ドクロと十字架のタトゥーがあります。
「わ、すごくかっこいいですね!」
かなり個性的なデザインでしたが、まぁ実際かっこいいですし、そもそも相手はお客様なのでそう言う以外の選択肢はありません。
別にそれはいいのです、接客とはそういうものですし、一言でお客様にいい気分になって頂けるならそれに越したことはないのですから。
私の言葉を聞いた男性は得意そうに、
「でしょ?これ実は俺がマジックペンで描いたんだ!!」
と言いました。
絶対に嘘だ、と思いました。
男性のタトゥーは、どう見てもペンで描いたものではありません。
滲んだ跡も一切ありませんし、ペンで描くには十字架の模様が細かすぎます。
もし本当にマジックペンで描いているのならすごいなぁ、などと思いつつも、
「え、本当ですか!?すごい、本物のタトゥーにしか見えないです!」
と驚いてみせました。
するとその男性は笑いながら言いました。
「うっそぴょ〜ん。そんなわけないじゃん!お姉さん、めっちゃ純粋だねー!!」
そうだろうとは思いましたし、酔っている人などこんなものだろうとも思っていましたが、反応に困りましたし、ちょっとムカつきました。
お会計が終わったあと、
「じゃーね、姉ちゃんばいばい!」
と笑顔で手を振ってくれたので、多分、いい人ではあると思います。
その後、すぐ後ろのお客様に、
「さっきは本当にすいませんでした!!」
と結構大きめの声で謝られ、お話を聞いたところ、先程の男性のご友人のようでした。
既にベロベロに酔っているのにお酒を買いに行くと言って聞かない友人が心配でついてきたそうです。
その方は酔っている様子では無かったので、友人が心配で自分はあまり飲まなかったのかなぁ、とか、自分がやったことでは無いのに人に謝れるって素敵な方だなぁと思っていると、
「あんなアホみたいな事に付き合わせてしまってほんとうに申し訳ない!あいつが絡んでいる時、俺が止めれば良かったんだ!!謝っても許されないのはわかっているが......」
と急に涙を流し始めたので、そんな重い話ではないだろこれ!とは思いつつ、しっかり酔ってるようで面白かったです。
先程のお客様よりこちらの方が対応に困りました。
まぁでも多分、この方もいい人ではあるんだろうなと思います。