師匠、いなくならないよね?<Ⅴ>
3日後、ルーペンスの街中で一番広い空間に、人々が集まっていた。ここに住む人だけではなく、近くの街から珍しいもの見たさで来た人もいる。
人々の中心には、石造りの街並みに似つかわしくない重厚なものが置かれている。それは見ただけでこれから何をするかわかるような、そのためだけに使用されるような仰々しい見た目をしている。
それを眺めて待っている人々を尻目にしながら、わたしは最終確認を行った。人が近づき過ぎないようにそれの周りを十五人の騎士が立っている。現状はそれだけだが、これから師匠が連れてこられることを考えるとあと五人から十人ほど追加されるだろうか。
師匠が捕まってから逃げない理由を改めて考える。受け入れてる……ということはないだろう、と思いたい。わたしに対して「いなくならない」と言ってくれた。それだけの理由ではあるがわたしはそう信じていた。
恐らく逃げられないようなことでもされているのだろう。魔法か……いや、師匠が魔法で負けるものか。魔法を使えなくする道具があると、師匠が話していたことがあったが、それだろうか。
もしくは、師匠は優しいから他人に迷惑がかからないようにしているのかもしれない。受け入れたふりをして、タイミングを見計らって抜け出そうとしているのだろうか。
何にせよ、わたしは師匠を助け出すために行動するだけだ。もし師匠がこの場で脱出するのであればその補助をするだけであり、動けないのであれば突風を起こし、騎士を近付けさせないようにしながら助けに行く。今いる人たちだけならそれで良さそうだが、これから来る人によってはもう少し強い魔法を使うことも考えないといけない。
そんなことを考えてると、先日の甲冑男がやってきた。その男を筆頭に、七人ほど人がやってきた。その内の四人は甲冑をきた騎士ではあったが、ほかの三人は違った。身なりは軽装備だが、ただならぬ雰囲気を感じる。恐らく魔法使いか。実力は……わたしよりも上だろう。
それでも関係ない。やることをやるだけだ、と考えていると、甲冑男が話し出した。
「只今より、火事を起こした犯罪者であり、【森人類】の長でもあるエンリの処刑を開始する。なお、この度は銀等級魔法使いとして、ガルニ殿、スチュワルド殿、ヘレー殿にお越しいただいた。この方々は処刑の執行確認とともに、万が一のことを考えての護衛としてきていただきました」
三人がそれぞれ一礼する。それを見た後、甲冑男が話を続ける。
「それでは、罪人をこちらへ」
そう言うと、向かい側から騎士が一人の男を連れて来る。師匠だ。いつも来ている装備はしておらず、簡素な布切れだけの姿だ。もちろん仮面は外されて、師匠の顔があらわになっている。
弟子であるわたしも外している姿はそこまで見たことがない。顔は整っており、透き通るような銀色の髪、わたしよりも薄い黄色の両目は覚悟が決まっているかのように前を向いていた。
台の上に師匠打つぶせにされる。板で首を固定されているが、師匠が抵抗をする様子はない。……いくしかない、と思ったその時、
(止まりなさい)
と頭の中に声が響いた。師匠の方を見ると、わたしが隠れている方に視線を送り、少ししてまた前を向いた。
(師匠!どうしてですか……?この人数でも、わたしが魔法でらん入すれば師匠の拘束を取ることぐらい……)
(あそこにいる三人はリリアよりも強い……それはわかっているのだろう。君がきても逆に捕まるだけだ)
(でも……それでも、わたしは師匠を助けたくて……そのままじゃ師匠が……)
(ダメだ)
とキッパリと言われた。
(それにもし脱出できたところで、私たちが追われる身になるだけだ。私はリリアをそう言う目に合わせたくない)
(わたしはそれでも……)
(……ごめんよ、リリア。もう君に教えることが出来なくなってしまうな……君は素質がある。このまま復習を繰り返していけば君はどんどん強くなる。君は飲み込みが早いから、新しい地に行って色々学べば、わたしに教わらなくとも大丈夫だろう)
(嫌です!もっと師匠に教わりたい……師匠と一緒に旅をしたい……!)
涙が頬を伝う。甲冑男が何か話をしているが話は耳に入ってこない。
(はは、そう言ってくれて嬉しいな……私が死んだら、この街を離れて、二つか三つ先の街に逃げなさい。私に弟子がいることがバレている可能性があれば、リリアを探しているかもしれないからな。次に行く予定だったガラシア村は、用意していたものもなくなってしまったし、行くのは厳しいだろう)
(そんな……死ぬとか言わないでください……!今からでも)
(リリア)
俯いていた顔を上げて、師匠の方を見る。師匠は再びこちらに顔を向け、微笑みかけた。
(これまでの旅、リリアと一緒に旅ができて私も楽しかったよ。君は私のことを忘れて、君の生きたいように旅を続けなさい)
(リリア……ありがとう)
物陰から体を出し、無意識に歩いていた。甲冑男が師匠に向けて声をかけた。
「それでは罪人。最期に何か言いたいことがあるか?」
そう言われると、師匠はふっと笑みを浮かべながら、
「私の声を聞いている皆さん。自分の信念を曲げずに、自分の出した「答え」に沿って行動したのであれば、成功も、失敗も、胸を張れるものです。自分だけの正しい「答え」を見つけなさい」
それは、わたしに向けた最期の言葉にも聞こえた。
「ナンダソレ。やれ」
甲冑男が吐き捨てるように言い、合図を出す。刃が師匠の首にめがけて──
閲覧ありがとうございました!
評価・感想など頂けたら励みになります!
まだ至らぬ点が多いかと思いますが、
そう言った点もご指摘いただければと思います!