師匠、いなくならないよね?<Ⅳ>
火事が起きてから1日が過ぎようとしていた。あの宿に泊まっていた人たちのための避難場所で一人座っていた。夕食を取る際に持ち出した、僅かな金銭と服、保存食のみが入った鞄を抱き込み、わたしはひたすら待ち続けた。
(だいじょうぶ……師匠は強い人だ……強くて偉い人なんだ……だから、だからだいじょうぶ……だよね……)
そうして待つこと2日間、耳を疑う話が飛び込んでくる。
『号外!宿の火災事件の犯人確保!犯人は【森人類】だった!?』
「なあ聞いたか、あの火事、人為的なものだったんだって」
「確かに魔法使い何人集まっても消すことができてなかったからなぁ」
「あれでしょ?【森人類】の長?っていうのかな。お偉いさんなんでしょ?なんでそんなこと……」
「もしかして、【真人類】に対しての宣戦布告か?でも、こうやって捕まってるようじゃ、大したやつじゃなかったんじゃないの?」
「わたし聞いたことあるよ。確かツノが生えてて【真人類】の二倍の身長なんだよね?」
「そんな獣じみた見た目してないっての……ま、人間なのは見た目だけだろ」
嘘だ。何を言っているんだこの人たちは。師匠はそんな人じゃない。そう叫びたかった。しかし叫んだところでどうなる。叫びたい気持ちをぐっと噛み締めて避難場所から離れる。しかし、街中はその話題でいっぱいだ。
「火事の中に飛び込んでいったって話聞いたけど……」
「自作自演じゃないの?自分で火を放って人助けにいってたとか……」
「うわ……それはひでぇな……」
違う。師匠はそんなことしてない。師匠のことを何も知らないで語るな。
「捕まったってことはこれからどうなるんだ?」
「そりゃ死刑よしけー。【真人類】ですら放火したら重罪だっての」
「そりゃそうだな」
「「ははっ」」
やめて。師匠は強い人なんだ。捕まってなんかいない。
「悪しき亜人を捕まえた騎士様には感謝!」
「消えない炎を放つって、やばいやつだったんだな……」
「一応お偉いさんなんでしょ?部下が攻めて来たりしないのかしら…」
「長がこんな簡単に捕まるんだったら大したことないんじゃない?」
「何で今【真人類】と他の亜人たちと戦ってないんだ?これならよゆーだろ」
やめて。やめて。やめて──
街中を彷徨っていると、甲冑を着た男たちを中心に街の人々が集まっていた。フードを改めて深くかぶり、その中に紛れることにした。喧騒が徐々に小さくなると、男の一人が話し出した。
「ルーペンスに住む皆様。この度はお集まりいただき、誠にありがとうございますくだんの件につきましては、こちらの方で話がつきましたのでご報告させていただきます」
魔法を使い、街中に響くように声を響かせている。「くだんの件」、間違いなく火事の件だ。そうだ、ここで間違いだったことを伝えてくれれば──
「先日起きた火事ですが、その主犯である【森人類】の男、エンリを処刑することを決定いたしました。つきましては、それに関する情報を送らせていただき──」
淡い期待は打ち砕かれ、わたしはそこに呆然と立ち尽くすのみだった。
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