このやり取りはなんだい?<Ⅱ>
「……どういう意味かしら?」
「そのまんまの意味だよ。君に『拷問』ができるのかいって」
そう言われ、言葉が詰まる。もちろん、経験もなければ、教わることなんてあるはずもなかった。「拷問」なんてものは、それこそ本で読んだだけのものであった。
「……すぐに言葉が返せないってことは、そういうことなんだよ。なんだ、律儀に答えて損したよ」
そう言い、ケヘウスはわざとらしく大きなため息をつく。わたしは下を向いて考え、そして
「わたしは……わたしだって、それくらいできる、はずよ……」
「……へえ?」
言葉を詰まらせながら答えるわたしに、ニヤニヤと、笑みを向ける。
「『それくらい』ねえ……。やったことないんでしょ?想像してみなよ、君の自意識過剰なその脳で。君が考えているのは『水責め』かい?『火責め』かい?それとも『精神的』に追い詰めるつもりかい?ああ、君の得意な風属性の魔法を使った『打撃』や『斬撃』なんかも良いかもね。一体、ナニをする気だったのかい?」
「それは……」
「おいおい、ただ痛ぶることだけが拷問じゃないさ。肉体的に、精神的に追い詰めることで、相手が苦しくて、辛くて、嫌で、頭がおかしくなりそうで、逃げ出したくなって、そこに『答えれば楽にしてやろう』っていう甘言があることで初めて成り立つのだよ」
話しながらどんどん笑みを浮かべるケヘウスに対し、まさか自分がそんなことをしなければいけないのかと、そう考えてしまい、わたしの気持ちは沈んでいく。そんなわたしを見てか、ケヘウスは何度目かのため息をつきながら
「……まさか、『相手を倒して、拘束して抵抗できなくさせたら、なんでも話してくれる』なんて、そんなご都合的なことを思ってたなんてないよね?」
「……」
図星だった。いや、そもそもそこまですら思考が回っていなかった。敵と相対し、戦い、倒して……その後のことなど、まるで想定していなかったのだ。
「本当に甘いな……甘過ぎる。まさか自分が手を汚さなくてもなんとかなるって、そんなこと思ってないよね?」
「あ……わたしは……」
「『覚悟』が足りないんじゃないのか?敵を拷問……いや、『敵を殺してでも』情報を手に入れようという気持ちが」
「そんなことはない」。そう言いたかったが言葉が出ない。
「そもそもこうやって僕達と戦いを行なってる時点で君は手遅れなんだよ。手を汚す作業に片足を突っ込んでるのさ!いや、片足じゃなくて片手かな?なんてな!はっはっはっ!」
「……」
「お前や僕達は薄汚れた存在なんだよ!確か、他の女の子と一緒にいると聞いたな…どうだ?普通の子といる間、自分が純白になった気になっていたのか?諦めるんだな!お前の手は、これからどんどんと汚れて!汚して!一生消えない汚れとして染み付いていくんだからな!それとも、その子とも一緒に墜ちていくつもりかい?」
「っ!!違う!あの子は……!」
サラのことを言及され、慌てて否定しようとする。そんなわたしを見て、ケヘウスはニヤリと笑い、
「ようこそこちら側へ。お前と僕達は汚れ仲間だ、同士だよ。そして、サヨウナラ」
「うっ……!!」
瞬間、ケヘウスの両足の方から火花が弾け、わたしは身動きが取れなくなり、思わず地面に座り込む。これはなんだ……。痺れて……動け……な……。
「本当に甘過ぎるよ!相手より優位に立ったからと言って、そこからが甘過ぎる!だからこうやって簡単に反撃を食らうし……だから死ぬんだよ、お前は」
背後に気配を感じる。体が痺れて動けないが、なんとか顔だけ動かして確認しようとする。汚れたローブから、包帯が巻かれた左腕が見える。ダラグリウスだろうか。あの怪我でここまで動いてきたというのか。いや、まずい。このままでは……!
ダラグリウスが右手を振り上げる。その手にはしっかりとエストックが握られている。ダラグリウスはそのままエストックを前に突き出しわたしの──頭上を通り過ぎたかと思うと、そのままケヘウスの右目に先端を差し込んだ。
「っ!?」
「なっ……てめえ……!ダラ……グ……リウ…………」
そのままケヘウスは横に倒れ、ビクビクと痙攣し、止まった。何が起こった。裏切りか?いや、ダラグリウスの性格を考えるのであれば……。
「よくも……よくもよくもよくもよくもよくも!俺様を攻撃しやがったなあ!!」
そう叫び、ダラグリウスは動かなくなったケヘウスに対して何度もエストックを突き立てる。そして、十回は突き刺しただろうか。ダラグリウスは刺すのを止め、そのまま動かなくなり、もう二度と、動き出すことはなかった。
わたしはそれを、ただ見ていることしかできなかった。二人の敵がいなくなり、静かになったこの森の中で、ケヘウスに言われた言葉がずっと頭から離れなかった。
戦闘においても、その後のやり取りにおいても、全てにおいて、わたしは考えが、覚悟が、足りてなかったのだろうか……。
そんな感情だけがぐるぐると駆け巡り、気付いた頃にはわたしを朝日が照らしていた。
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