何故気付けなかった!?<Ⅱ>
飛行を始めて1分も経っていないだろう。サラの後ろ姿が目に入る。
「サラ!!」
わたしの声にサラは──
「ん?どうしたの、リリアちゃん?」
焦ったわたしとは裏腹に普通に反応をするサラ。よかった、特に怪我などはしていないようだ。矢が反応しなかった事で慌て、冷や汗をかいていたわたしにサラは
「本当にどうしたの!?何があったの!?」
と心配そうに声をかける。逆に心配させてしまい、理由を説明しようとし、止まる。まだ撃たれてないだけで、むしろわたしと合流した事によって危険度が上がってしまった可能性がある。わたしはサラの手を握り、
「理由は後で説明するわ。とりあえず今日はここまでにしましょ」
と伝える。サラは何が何だかわかっていないため最初は慌てるが、ここまで焦った姿を見てか
「う、うん。わかったよ……」
と何も聞かずにわたしについてくる。わたしは一度周りを見渡し、追撃がない事を確認して風を起こしてわたし達を持ち上げる。そしてもう一度周りを見渡してから、体に負担をかけずに出せる最大の速度で飛行を始めた。
ーー
「……流石に早えな。逃げられちまいますけど、いいんですか?」
「別に構わないよ」
単眼鏡から右目を外し、俺は木の幹の上に座っている無愛想な顔の奴に話しかける。
奴は俺とは違い、遠距離武器を愛用してるためか、空気量を操作して屈折率とやらを操作して遠くをみている。その魔法を解いて、今は弓を大事そうに布巾で拭いて手入れをしている。
「これ以上は警戒されているからね。いくら感知をくぐり抜けても効果はないだろう。矢を無駄に消費するからね」
「……昨日まであんなに撃っていたじゃねえ……じゃないすか」
「必要経費さ。彼女……リーヤと言ったかな?彼女の感知を抜けるためのね」
「はあ……」
腑に落ちない俺を見かねてか、あるいは自慢のためか、奴は話し始める。
「彼女の感知魔法は風属性だった。風属性の感知は魔力のこもった空気を出し、その空気の流れの中で流れにそぐわない動きを感知する。それなら、流れに沿ってやれば良い。それだけだ」
「流れに……ですか」
「そうさ、今までの矢は空気の流れ……動き方を確認するためさ。流れを掴んでしまえば後はそれに合わせるだけ。もちろん、隠蔽はして存在感は薄くするけどね。空気の流れと同じ矢は、彼女にとっては羽虫にすら感じなかったはずだよ」
簡単に言ってやがるが、流れを感じる事も、ましてやそれに合わせて矢を撃って操作する事も容易ではない。だが、奴は──ケヘウスは容易く行なっている。嫌でもこいつとの実力の差を感じさせられる。
「さて、それじゃあ次の準備を進めるか」
「何をするん……やるんですか?」
ケヘウスは木から降り、俺の隣に着地する。俺の問いかけに、やれやれと言った感じで首を振る。
「決まっているじゃないか。彼女を捕らえる準備だよ」
「捕らえるっつったって、街中じゃ手を出せねえし、おびき出して戦おうにも俺がこの様だし……」
俺は包帯が巻かれた左腕をケへウスに見せる。
「彼女は見た限りすごく動揺していたね。恐らく自分の感知魔法にある程度自身があったのだろう。もし理知的な相手が、自分の力が通じない相手に狙われてるとわかった時、どうすると思う?」
「あ?決まってんだ……決まってますよ。卑怯な手で相手の力を封じて、相手の隙をついて攻撃するに決まってますよ。」
戦いを思い出してだんだんと腹が立って来た。あの野郎、鋼魔法を使って俺の手足を固めやがって。許せねえ!次こそは奴を……!次に戦った時のことを考えている俺を横目に、ケへウスは奴らが逃げて行った方向とは逆方向へ歩いていく。
「それは君にそう行った魔法を使う隙があっただけ……いや、なんでもないよ」
「……?」
「まあ、安全な場所で策を練るか、一旦引くだろうね。少なくとも考えなしに突っ込んでくるような相手じゃないだろう……ところで」
ケへウスは俺の左腕を指して言う。
「その怪我……その状態で再び彼女と相見えた時、彼女とまともに戦えそうかい?」
「愚問ですね……充分ですよ!奴の戦い方はわかったんで」
俺は自慢げに胸を張るが、そんな俺を無視するかのようにスタスタと歩いていく。俺はその態度に腹がたったが、グッと押し殺した。
「戦うってことは、奇襲でもかけるんですか?あの宿にでも」
「いや……僕の見立てだと彼女は後者だろう。ちなみに、一週間前に戦ったわけだが、まだ戦いたいかい?」
「もちろんですよ!ここに来て2年、戦うこともなくひたすら観察させられていたんですよ。まだ戦いたりねえですよ!」
「それに関しては同意だね。……確か、今日は残り二便だけだったかな?」
「……まさか、あんた!?」
俺の問いかけにケヘウスは振り返り、その無表情を崩して不敵に笑う。
「なに、「乗り物が獣に襲われて乗客全員死亡」なんてこと、たまにあるじゃないか。何も問題ないよ」
ーー
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