支障は出ませんか?<Ⅲ>
「待て待てー!!」
サラが叫びながら小さい獣を追う。四足歩行でぴょんぴょんと飛び回る獣──プレッドは小さい体を生かして木の根や雑草を跳び越えくぐり抜けていく。
「ほらほら、早く追いかけないと日が沈んじゃうよ」
「ううー!もうちょっと手伝ってもいいじゃん!」
今日受けたのはプレッドの討伐依頼。街の外で畑を運営している農家の方がいるらしく、野菜を食べられる被害が多いためできる限り討伐をしてほしいとのこと。プレッドは野菜や薬草を食べ荒らす以外は人を襲うどころか怖くて逃げ出すくらいには害のない獣だが、それが問題となる人もいるのだ。
依頼は基本的にサラに任せることにした。サラには「時と場合によって様々な魔法を使い分ける練習」と称し、本音は「わたしが目立つような魔法を使わない」ようにするためだ。
わたしは低空飛行をしながらプレッドを追いかけるサラを追いかける。
「ちなみに今草むらの陰に二匹いたけど」
「そういうのは早くいってよ……!はあ……はあ……」
サラの走る速度が徐々に落ちていく。膝に手をついて肩で息をしている。わたしは飛行を止めてサラの隣におり、背中をさする。
「うーん……魔法の練習もだけど、そもそもの体力もどうにかしないといけないわね」
「はあ……はあ…………。まさかこんな風に走らされるとは思わないじゃん……」
「魔法使いって、中・遠距離から魔法を使っている感じがするけど、戦闘をする以上しっかり動き回って対応する必要があるから体力が必要ないことなんてないわ」
「……まさか1時間走らされてそんなダメ出しされるとは思わないよ……」
不満そうな顔をするサラ。サラの得意魔法が炎属性である以上、瞬間的な火力強化や攻撃ができる反面、速く移動したり索敵したりという小手先の技がないらしい。魔法を放っても、プレッドに当たる前に避けられてうまく命中しない。
「潜伏と速度強化の魔法は教えたでしょ?落ち着いて使ってみなよ」
「……魔法枠二つ割かれてるのに、覚えたての魔法を使えと?」
サラは現在七つまで魔法陣を使える。サラには前に教えた光魔法と闇魔法を使う特訓を続けさせている。それと合わせて走っているときに火属性の魔法で無理やり両足を強化して地面を力強く蹴って走っていたため、残り使えるのが三つ。
残りの使える範囲でプラッドを攻撃する魔法を撃っていたが、現状なんの成果もあげられ得ていない。
「うーん……でも、使わないと強くならないよね……」
「強くなる前に目の前の依頼すら完遂できないけどね」
サラはこちらを恨めしそうな目で見る。その後、目を瞑り深呼吸する。暖かい空気がサラから放出され、それが広がっていく。探知魔法を使ったのだろう。
探知魔法は全属性にあるが、使い方や場面が異なる。例えば火属性であれば今回のように熱を介して生物の位置を探知する。だが、
「うう……どれがプレッドだろう……」
森の中には大小様々な獣がいる。その中からプレッドだけを識別することまではできないらしい。わたしは魔法で時刻を確認し、
「……そろそろ手伝う?」
と聞く。だがサラは
「ううん。もう少し頑張ってみる」
といい、再び走り出した。
「お疲れ様です。こちら報酬になります」
「はい……アリガトウゴザイマス」
使い慣れていない風属性の強化魔法を使い、なんとか二匹まで討伐したサラ。前回の薬草採取といい、こういった有限だけどきりがない依頼は常に貼られているので、しばらくは同じ依頼を受け続けても良いだろう。
わたし達は報酬を受け取り、集会所を後にする。
「うーん……まだまだだなぁ」
「そうね」
「もうちょっと励ましてくれても良くない!?」
そこまで甘くするつもりはない。サラが強くなりたいと言っている以上、少しは厳し目に見ようと考えている。
「どうすればリリアちゃんみたいにたくさん魔法を使えるようになるんだろう……」
「……4ヶ月ごとに一つずつ使える魔法陣が増える特訓があるけどやってみる?」
「いえ、いいです。多分最初に勧めないということはキツイやつだと思うんだ」
察しが良い。実際この特訓は厳しくて、師匠に教えてもらったけど、
「一応教えたけど……できればやらない方が良いかな……」
と言われていた方法だ。なので師匠と一緒にいた期間でこれをやったのは一回だけだった。
「でも、今日使ってみて風魔法を使う感覚もわかってきたし、明日はもうちょっとうまくいけるかも!」
「風魔法は移動に最適だからそんはないはずよ」
そんなことを話しながら夕食の店を探し歩く。
……さて、今日は七発撃たれた訳だが、まだしばらくは片手間に対処できるし大丈夫だろうか。だが、街の外に出ると攻撃されるとなると少し考えた方が良いだろうか。そんなことを考えながらサラの後を歩いていた。
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