マヤの過去
ー第二章ー
「ネズミが入り込んだようですね。」ガリム国皇帝直属軍肆番隊副隊長三人衆の一人ガゼルが言った。
「そうだな。」肆番隊隊長マヤが口角を上げ、ニヤリと笑った。
「参番隊隊長のキジムさんにも報告して、協力を依頼しましょうか。」肆番隊副隊長三人衆二人目モナが言った。
「そのようにせよ。ミカサは証拠を集めろ。」
「ははっ。」肆番隊副隊長三人衆最後の一人ミカサは返事し、ジェリムの様子を窺った。
「ゼル国の連中は全員血祭りにあげてやる。クックック。」マヤは不気味な笑い声をあげた。
そうとも知らないジェリムは、分かったことを離れたところにある小屋のようなこじんまりした家に控えている老兵に情報を伝えようと手紙をせっせと書いていた。実はガリム国の皇帝直属軍には九番隊・什番隊が存在すること、それぞれの隊の役割、宮殿の様子など…。だが、それが老兵の手に渡ることは無かった。参番隊隊員によって、キジムの手に渡っていたのだ。そして、その内容はマヤにも共有された。
「やはりな。これは確実にクロだろ。」とマヤが言う。
「そうだな。この手紙だけでも十分な証拠になるが、他にも証拠はあるのか?」キジムが言う。
「あぁ、うちの隊員がよくやってくれたよ。」
「そうか。では、皇帝陛下に捕縛命令を下してもらおう。」
「そうしてくれ。そうすれば、我々はすぐにでも動こう。」
「マヤ、やりすぎんなよ。マジで恨まれるぞ。」
「それはそれで面白い。(小声で)私のそれとどちらが強烈かな。」
キジムはマヤの後の言葉を所々聞き取った。
(どういうことだ。)頭の中に疑問符が浮かび上がった。キジムは皇帝にジェリムや老兵の捕縛命令を下すよう頼んだ。
「皇帝、お願いいたします。」
「わかった。命を下そう。」
「マヤに伝えてきます。」
「その必要はない。外で今か今かと聞き耳を立てていたはずだ。もう動き出しているだろう。」
皇帝の言うとおり、マヤはもう動き出していた。キジムはマヤがいないことを確認した後、皇帝に質問した。
「マヤはなぜ、ゼル国の連中に対してあそこまで苛烈なことをするのでしょうか。」
皇帝は重い溜息をついた後、静かに語り始めた。
「25年前のメトホル村の悲劇を知っているな。」
キジムが答える。
「はい。何の罪もないメトホル村の村人がゼル国のツァルケ将軍に急襲され、全滅したという…。」
「実は、メトホル村の悲劇でたった一人生き残った人間がいた。メトホル村の村長の娘だ。」
「まさか!」
「そうだ、その娘がマヤだ。」
キジムは驚き、言葉が出なかった。
「メトホル村の悲劇の翌日、わしは父上とともにメトホル村に向かった。見るも無残だった。メトホル村の善き民が死体となって、地面に転がっていた。その中で、泣き声が聞こえた。小さな女の子の泣き声が。父上がその女の子のもとに駆け寄り名を尋ねたら『マヤ』と答えた。父上はマヤを抱っこして宮殿に連れ帰った。父上はマヤの事を我が孫のようにかわいがった。そして、マヤは父上の事を本当の祖父のように慕っていた。ただ、十二年前父上は亡くなった。死の間際、父上はマヤに『わしの生きている間にそなたにゼル国が滅びる様子を見せてやりたかった』と言い、息を引き取った。そこからマヤは復讐の鬼となったのだ。」
キジムはこの皇帝の話を聞いて納得した。
「だから、マヤはあそこまでやるのですね。」
「あぁ。」
ジェリムは捕らえられた。地獄の時間が始まった。