表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

料理編

 今回作るのは回鍋肉(ホイコーロー)だ。それ以外の料理は、昨日の残り物でも出しておけばいい。

 2年前に調べた回鍋肉の作り方を鮮明に思い出す。まずは、野菜達を切るところからだ。


 今日買った野菜は、キャベツと長ネギとピーマン。子供に嫌われがちなピーマンだが、蓮人は美味しい野菜と思っている。


 とりあえず、まな板の上に、洗ったキャベツをどんと置いた。そして、丁寧に3枚4枚と分けていく。

 芯に沿って、《《人差し指の爪》》で切っていった。


「よし、あとはざく切りするだけだな」

「がんばーれー」


 遠くで読書をする美香が言う。

 芯を切ったそのキャベツを、上に軽く投げて宙に浮かせた。


 シャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキンッ!!!!


 10本の指の爪をしっかり使い、キャベツをざく切りで切っていく…つもりだったのだが……。

 まな板に置かれたそのキャベツは、まさに千切りだった。とんかつのお隣さんでご有名な、千切りキャベツの出来上がりである。


「あぁー、予定が狂った……!!」


 ごまドレをかけて、10秒で千切りキャベツを完食してもらった。夕飯を待つ美香に。


 キャベツがこうなってしまった理由は、間違いなく切り方だ。目で追えないほどのはやさで腕や指を動かしたら、そりゃあ、千切りになってしまうだろう。

 だから、ゆっくりと《《指》》を動かして、切っていく。そもそも包丁でいいだろうという指摘には、一切答えるつもりはない。


 今度はしっかりとざく切りになった。


 次は長ネギとピーマンを切ろう。

 長ネギは簡単だ。まな板の左上と右上を繋ぐように、斜めに置いて切ればいい。そうすれば、

10本の指で斜め薄切りができる。

 そしてピーマンは、一口大の大きさくらいで切ればいい。ピーマンの形にこだわりはない。食べられればいいのだ。


「よし、野菜は終わりっと」


 蓮人はそう呟き、次の段階に移行し始めた。

 フライパンに油を引き、豚肉をさっ…と丁寧に入れた。点火する。

 色が変わるまで、キッチン用の長い箸で炒め続ける。途中で、肉はたたいたら美味しくなるという迷信まがいなものを思い出し、試しにパチパチたたいていた。

 それもだんだんの調子に乗ってしまい……。


 本当は色が変わったら野菜を入れるつもりだったのだが、肉を箸でたたくことにハマってしまい、色が変わってもなお、叩き続けていた。

 おかげで黒焦げ部分ができてしまった。


 とにかく、野菜を入れる。

 長ネギ、キャベツ、ピーマンの順で、フライパンに野菜を入れていく。そしてまた炒めた。

 ここは、多分タイミングが大事である。気配を感じ取れる蓮人にとっては、得意技の1つであった。


「よし、手を動かして、炒めながら感じるんだ!ソースを入れるタイミングを…!!この野菜が、すこしだけ柔らかくなる炒め時間を…!!」


 スーパーでやったのと同じように目を閉じる。

 そこで…。


 ピピーッ!!!ピピーッ!!!ピピーッ!!!


 炊飯器がけたたましく、炊けたことを知らせてきた。

 気配を感じ取るのを邪魔され、蓮人は少しイラついたが、綺麗な白米を見て、それも収まった。

 よく炊けている。米を炊くのは美香がやっておいてくれたようだ。そのおかげで、コメが早く炊き終わることができた。


「さっ、もう一度」


 そう呟いて、もう一度目をつぶる。

 ざーざーと炒めているときの音が聞こえる。箸を動かすたびに、その音が大きくなる気がした。その小さな変化に気付き、それに意識しながら感じ取っていると、効率はすごくよくなった。

 蓮人は集中できているのだ。


 今だぁッ!!!


 刀を鞘から抜くような感覚で、後ろの調味料を手に持った。

 まんべんなくかけて、また炒める。火を弱くするのを忘れてしまったが、まぁ今やってもいいだろう。

 キャベツを切るよりも前に作っておいた調味料が、今使われた。図々しいようだが、伏線回収をするような気分だ。


 あとは、1分2分程度炒めて終わり。これは、気配を感じ取るまでもない。


「できたぁー!!」

「おー!」


 皿に盛りつけ、昨日残ったかきたま汁と適当なサラダを冷蔵庫から取り出した。レンジでチンして、ぱっぱと終わらせる。

 スープもサラダも作っていいのだが、残ったものは早く胃で処分しないといけない。


 ◆


「ほい、食べるぞ」

「今日は回鍋肉ですか。やったね」

「昨日食べたいとか言ってなかったか?」


 うなづいて、いただきますと呟いた。回鍋肉を最初に口に入れたのは、もちろん待っていた美香である。美香は美味しそうに回鍋肉を食べながら、和みのある笑顔を浮かばせていた。

 さてと、俺も一口…と、蓮人も口の中に回鍋肉を入れる。


「いつもよりよくできたな。クックパッパ見てないにしては、よくできた出来栄えだ」

「そうだねぇ。おかわりある?」

「むしろもっと食え、まだ少ししか盛り付けてねえから。回鍋肉は残飯処理したくないんよ」


 本音を混ぜて、美香に食べるよう促した。


「うん、そうする。私は満足だ」


 でも、なかなか話が進まないもんだから、蓮人は冷蔵庫から缶チューハイを2本取り出す。

 蓮人と美香は大学生であり、もうすでに20歳を超えているんだから、お酒を飲める年齢。これ1本あれば、数時間は話せるだろう。


「………ぷはぁぁーっ!!うめぇー、久しぶりの酒だぁい」

「ほんっと、久しぶり」


 それから、話は面白いように長く続き、ご飯が終わってもその場のノリでゲームやらをした。

 その時の蓮人は酒で酔っていて、動物の能力など使えなかった。


 次の日。


「あぁぁー!!!」


 蓮人が朝っぱらからキッチンで叫ぶ。

 美香が急いで行ってみると…。


「残った豚肉50グラム、冷蔵庫に入れるの忘れてたぁーッ!!!」

「あぁあぁ…やっちゃったやっちゃった…」


 まぁ、特売並みに安かった豚肉だから、金銭的に問題はないのだろうが、蓮人はどうしても自分の忘れてしまったという過ちが許せないのである。

 なんだかんだ、動物以上に動物している蓮人でも、忘れてしまうことはあったのであった。




【終】

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 今回、動物の能力を取り入れようとした理由は、単なる実験も重ね、いろいろな理由があります。もっといいのあったじゃんか!と思うかもしれませんが、自分自身、そう思うこともありますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 ではまたお会いできるときに~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ