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買い物編

「そろそろ夜だー。お腹空いたよ蓮人!!」

「空いたか!?早くないか!?」


 2階でゲームをする蓮人(れんと)。1階でだらける妹の美香(みか)。家庭の事情により、実の兄妹ではないのだが、それなりに長い年月を暮らした2人だ。

 2人とも大学生で、同じく大学2年生である。


「俺も空いたな。あぁめんどい…」


 それでも、蓮人はゲームを中断して外出着に着替える。

 冷蔵庫には、この前買った朝ご飯用のサラダチキンしかない。サラダチキンは夜に食べるものではないと考えているから、実質空っぽだ。

 つまり、買い物に行かなくてはならない。今日の夕飯は、”回鍋肉(ホイコーロー)”だ。


「掃除は頼むぞ美香。買い物いってくっから」

「はいよー」


 行ってきますと言わずに、無言で外に出た。

 今日は雲はあるけど晴天と言える清々しい天気で、夕日がすごく美しい。こんな時は、吞気にお散歩でもしたいところだが、《《動物の能力》》が使える蓮人はそうしない。


 家の屋根に登り、すぐそこのマンションまでジャンプする。壁を器用に登って、屋上に来た。


 なんたる光景だろう。勉強に集中すべき大学生が、マンションの壁でロッククライミング以上に難しいマンションを壁をのぼるとは。芸術家が一生をかけても見れない気がする。

 運よく、真下に人はいなかった。


「最寄りのスーパーは確かゆーばすけっとだな。って、新しいのができてる。いつの間に…?」


 独り言をつぶやいていると、このマンションの人に見られそうなので、さっさと飛び降りることにした。

 ここへ来たのは、スーパーへひとっ飛びで向かうため。だが、もっと近い場所に行くのならすこし難しいものがある。あのスーパーを、通り過ぎてしまいそうだ。


 バッ!!と床を蹴って、ムササビのような体制をとる。

 猫はマンションの7階から落ちても大丈夫なのは知っているだろうか。マンション1階の高さにもよるが、猫にとって中途半端な高さじゃないかぎり、7階から落ちてもムササビのようなポーズで落下速度を調節し、着地できるらしい。


 蓮人はそれと同じように、ムササビのポーズで落下速度を調節している。


「よっと!!うっしゃい」


 スタッ…と何事もなかったかのように着地する。

 またもや運よく、近くに誰もいなかった。


「見たことないスーパーだな。キャベツと肉完売してなきゃいいんだが…?」


 目をつぶり、気配を感じ取る。

 どうやら、スーパーには最寄りだったゆーばすけっとよりもずっと多い商品が売られているようだ。しかも、ゆーばすけっとにはない新作アイスが売られている。

 おかげで、キャベツを探し出すのは一苦労であった。


 流石に店内でチーターの走り方を真似するのは駄目だと思い、ここはごく普通の歩き方でスーパーの中を歩く。

 かごの気配は一番最初に感じ取れたから、場所がわかっている。


「あ、ここのお肉やすーい!お金すごい奮発しちゃった!!」

「ねー、このお金どうしようかしら」


 《《10メートル》》ほど離れた主婦達の会話が聞こえた。

 安い…だと?いつもの2倍買っておこうか。きっと、普段より数十円くらい高くなるだけだろう。

 先にキャベツを買うつもりだったが、会話を聞いた以上仕方ない。肉の気配を感じ取り、そっちへ向かった。


「おー、種類多いなぁー!!焼肉できんじゃねえかこれぇ!?」


 でも、今日の買いたい肉は豚肉。

 ただの豚肉でいいのだ。でも、蓮人的に、豚肉はきっちり使い切る感じがいい。2年前に調べた回鍋肉の作り方を鮮明に思い出す。

 たしか、豚肉は150グラム必要だったはず。でも、豚肉は100グラムの豚肉しか売られていない。


 50グラム余るのか…。


 夕飯を待っている美香は、回鍋肉のキャベツが好きだったはず。だからキャベツは多くなってもいい。

 でも、肉は違う。肉は、蓮人的に余ってはいけないのだ。


「できる限り、重さが軽いやつを選ぼうか…」


 量が少なそうな豚肉100グラムを2つ、片手に1つずつ持った。

 計れ…計るのだ!!とでもいうような気合で、蓮人は目をつぶり、パッと開ける。


 左手で持っている豚肉は、99.1004715828946108840037429グラム。

 右手で持っている豚肉は、112.799018684028902089387821グラム。


 圧倒的(?)に左の豚肉が軽い。

 右の豚肉を元の場所に戻して、もう1つ、少なそうな豚肉を右手で持った。


 左手で持っている豚肉は、99.1004715828946108840037429グラム。

 右手で持っている豚肉は、99.0993809503828092884020831グラム。


 この2つを買うのがいい。まだキャベツがあるが、すこし疲れてきた。かごの中にこの豚肉たちを入れ、キャベツ売り場に真っすぐ向かう。


「新商品、超あらびきウインナーの試食はいかがでしょうかー」

「なんだと!?」


 試食!?無料で軽食が食えるチャンスだ!なんとしてでも1つはもらう!!

 まさに卑しい考えだ。


「はい、どうぞ」


 ウインナー1本を爪楊枝で食べる。一口だけで、すごく美味しかった。熱々だけど、パリッとしていて、味付けなしでも10本や20本はいけるうま味。ジューシーでジューシーで、食べ応えのあるウインナー。

 そういえば、豚肉100グラムの肉は税込みで75円。2つで150円とすごく安かった。しかも、このウインナーは新商品セールで50円とのこと。


 買う以外ないだろ…!!


 2袋ほど、ウインナーをかごに入れた。


 そして今、キャベツ売り場にやってきた。主婦達が、うーんと唸ってキャベツを持ち上げている。

 皆、どちらが重いか見極めてるようだ。きっと感覚的なものでだろう。

 蓮人は”本能”と”気配”と”オーラの違い”と”状況”と”気分”で判断している。


「さぁ、もう一度だ…!!」


 いっちゃん重そうなキャベツ2玉を手に取った。

 さぁ、やれ…!どっちが重い…!?ほとんど同じでも、蓮人には機械でもできないほど精密な上皿はかりがある。

 キャベツの平均の重さは約1キログラム。つまり1000グラムだ。


 左手のキャベツは、1021.068042590703905090025グラム。

 右手のキャベツは、1101.275849035707487849361グラム。


 左が重い。右のキャベツを変える。


 左手のキャベツは、1021.068042590703905090025グラム。

 右手のキャベツは、1002.058060775849578492468グラム。


 またか。右のキャベツを変えた。


 左手のキャベツは、1021.000000111110001111101グラム。

 右手のキャベツは、1000.000000000000000000001グラム。


 さっきからはかってばっかで、蓮人の上皿はかりが狂う。

 すこし疲れてきた。時間もないし、もうこれでいいか。今日のところは、このくらいにしといていいだろう…。


 ◆


 そして帰ってきた。

 玄関で調味料に甜麵醬がなかったのを思いだし、急いで戻ったのも、今になってはいい思い出である。


「さぁてと、作るか!!」


 蓮人の指から、赤い爪のエフェクトが出てきた。

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