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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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89.書類に向かいし軍

「これで大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よん。お手数かけたわねえ」


 リコリス様との面会を終えて、俺たちは旧王城内の別の部屋に入った。今回の戦における報告書を作成するための部屋で……何でかアシュディさんとマイガスさんがそれぞれの部下を従えて、山積みの書類と戦っている。

 でまあ、こちらの報告書をもってきたわけだ。一応、王国の要請に従って派遣されてきた援軍だしな、俺たち。というかサファード様、最低でも報告書二通書いたのか? 副官さんとかにお手伝いしてもらったんだろうけれど、大変だな。

 ……あ、はい、俺も一応村長さんだからね。今後こういうの増えるだろうから、頑張らないと。

 それはそれとして。


「サファード様、此度の援軍派遣、大変感謝いたします。おかげで無事、ベンドル軍を撃退することができました」


「ほんとに助かりましたわ。ブラッド公爵軍が来てくださらなかったら、アタシたちすり潰されてた可能性がありますもの」


「お力になれて何よりです。シーヤ近衛騎士団長、ランダート魔術師団長」


 マイガスさんもアシュディさんもブラッド公爵領に来たことがあるから、久しぶりに会えたサファード様とのんきにお話している。ま、この後対書類戦闘が再開されるわけだけど。


「キャスバートも、お疲れ様だったな」


「いえ、間に合ってよかったです。テムもエークも同行してくれましたし」


 まあ、俺は大して疲れてないっつーか周囲の皆が頑張ってくれたしな。その分、村に帰ったらお仕事しないと。


「キャスバート、元気そうで良かったぜ!」


「故郷の村長さんになったんだって? 暇になったら、遊びに行くぜー」


 顔見知りの近衛騎士さんたちが、気安く声をかけてくれる。皆もそれなりに無事そうで良かった……まあ、怪我の治療中の人とかもいるはずだけどさ。


「そんなことを言ってたら近衛騎士団、ベンドル対策で派遣されるかもしれませんよ?」


「え、それなら私も行きたいわ。サンドラ亭、あちらに移転したんだし」


「任務にしろ何にしろ、ぜひ来てくださいよ。サンドラ亭も、味は変わってませんから」


 魔術師団の人たちも気軽と言うか、そう言えばみんなサンドラ亭の常連さんだったよな。なので味のことを伝えたら、全員『やったー!』と腕を振り上げた。あ、おごりませんよ?


「いやもう、いくら地元が神獣様の結界に守られているからといって、最前線の方々に無茶を言って申し訳なかった」


「いえいえ。いずれは砂に帰る都ですが、だからといって侵略者に占領されるのは嫌ですからね」


「水がかれちゃってたら、それもアタシたちのせいにされかねませんものねえ。……まあ、今地下でお守りしていらっしゃる、どこかの誰かさんのせいですけども」


「おかげでうちとしては、良い領主が一人できましたので助かってますが」


 ……てか何言ってるんだあんたら、特に固有名詞出してないけどバッサリやってるアシュディさん。気持ちは分かるけど。

 同じことを考えていたらしい猫テムが、俺の肩の上でうにゃんと肩掛けっぽくなりつつ口を開いた。


「知った顔相手だからといって、言いたい放題であるなあ」


「あらやだ、神獣様とキャスくんがいるんだから結界展開済みでしょ?」


「そりゃもう」


 俺の顔見たら割と口が軽くなるよね、アシュディさんもマイガスさんも。だから、入った瞬間に部屋全体をカバーするように音声タイプの認識阻害結界を展開してある。

 俺の結界を無効化できるような相手がいればテムが分かると思うんで、そのときはテムが展開してくれるはずだ。もしくは、ここにいる皆でそいつをとっ捕まえる。……結界無効化してまでこっそり話聞きたがるやつが、味方とは思いにくいしな。


「さて。アタシたちはこの報告書のまとめがあるからまだ残るけど、ブラッド公爵軍は撤収ですよね」


「ええ。一刻も早く、メルの顔を見て和みたいですね」


「あんら、ごちそうさまあ」


 とんとんと紙を整理しながらのアシュディさんに話を振られたサファード様が、全力で表情筋を緩めていた。もっとも目が真剣で、本気で早く帰りたいっていうのがよく分かる。


「では、引き止めるのも悪いですな。何しろブラッド公爵領は、対ベンドル最前線の一つですし」


「セオドラや我が軍の本隊が残っておりますから大丈夫、だと思うのですが」


「コーズとかいう魔獣使いもおるしの。まあ、急ぐに越したことはなかろう」


「テムとエークがこっち来ちゃってますからね……」


 マイガスさんの言葉にサファード様とテム、そして俺がちょっと考える格好になる。と、サファード様が俺に目を向けた。


「わかりました。キャスバート君、神獣様と共に一足先に戻っていただけませんか」


「え、俺ですか?」


「我は構わんぞ。マスターを乗せて全力で飛べば、二日もかからぬ」


 えーとつまり、先発隊みたいな感じで俺とテムに先戻れ、と。

 確かに、他の部隊と足を揃えることを考えなければそれが一番早いけど。


「セオドラもコーズもいますから大丈夫だと思いますが、万が一逃げ帰ったベンドルの残党が領地近くで潜んでいないとも限りません。その捜索と、お片付けをお願いしたいんですよ」


 ちょっと尻込みしてる俺に、サファード様はきちんとした理由をつけてくださった。思わず、肩の上のテムと顔を見合わせる。


「お願いされたけど、大丈夫?」


「何の問題もないぞ。マスターの村とブラッド家の領地に災いがあれば、我がそれを振り払ってみせよう」


「う、うん。ありがと、テム」


「うにゃん」


 なんだかすごく力強い言葉をくれたので、思わず撫でたら……まあ、テムはテムだった。あと周囲の皆さん、楽しそうにクスクス笑わないでくれますか。


「そういうことであれば、キャスバート君たちには先行で戻ってもらいますね。僕たちもすぐに、後を追いかけますから」


「何かあったら、ちゃんとこっちに言うのよ?」


「神獣様ほどじゃないが、俺たちだって足は早いほうだからな」


 サファード様の言葉に続いて、アシュディさんとマイガスさんがそんなことを言ってくれた。二人に仕える部下の人たちも、「今度はこっちが助ける番だからな!」「ま、理由がなくてもそのうち行くけどね!」なんて声をかけてくれる。

 だったら俺は、その言葉に答えるしかないよね。


「では、急ぎ出立します。ファンランやシノーペたちには、よろしく言っといてください」


「もちろん」


 任せろ、といわんばかりに大きく頷いてくださったサファード様と、他の皆に頭を下げて俺は部屋を飛び出した。

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