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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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84.一方その頃、戦は終わり

「おや」


 がん、という衝撃音が、僅かな衝撃波を伴って戦場全体に伝わる。それに気づき、ファンラン・シキノはふっと顔を上げた。足元には、これで十五人目となる捕虜が厳重に縄で拘束されている。少々、独特な縛り方で。


「終わったでござるかな?」


 戦場の中央を貫くように立ち上がっていた土の壁が、あっけなく崩れ去っていく。

 その中に立ち尽くしているキャスバートとシノーペ、そして神獣システム。さらに敵の大将と思しき大男の胸を見事刺し貫いたサファードの姿を見つけたファンランは、ちょうど縛っていた十六人目の捕虜を小脇に抱えるとそちらに駆け寄っていった。


「テム殿、皆様方」


「あ、ファンラン」


「あら」


 声をかければ、サファードも含めた皆の視線がファンランに集中する。が、すぐにその視線の方向がほんの少しずれた。

 そうして、問いを投げかけてきたのは神獣。


「それは何人目だ? ファンラン」


「十六人目でござる!」


「大漁だな」


「大漁でござった!」


 満面の笑みを浮かべたファンランの答えに、テムは呆れたようにしっぽを一つ振る。そうして、倒した敵の骸をゆっくりと横たえるサファードに視線を戻した。それにつられ、ファンランも視線を移す。


「そちらも、終わったようでござるね」


「どうやら、彼が司令官のようですからね。後は掃討戦になります」


 腰を抜かしている護衛の兵士たちに剣の切っ先を向けて牽制しつつ、サファードはファンランと言葉をかわす。既にファンラン自身も剣を構えており、ついでに縛った捕虜をぽいと地面に転がした。


「ではひとまず、抵抗する者から片付けるでござる」


「ファンランはその前に、縛ったやつを片付けたほうがいいんじゃないか? 十六人で済んでるなら、何とか運べるだろ」


 にいと好戦的な笑みを浮かべた近衛騎士の動きを止めたのは、一介の村長の言葉だった。口の端を引きつらせながら、キャスバートはファンランが今足元に転がした捕虜をちょいちょいと指差す。


「こちらとしては、ベンドルの国内についての情報に乏しいしね。何とかお話してもらえれば、今後を考えられる」


「それもそうですね。ああ、せっかく旧王都までおいでになったのですから、おとなしくしていただければおもてなしはいたしますよ?」


「………………っ!」


 ひゅ、とサファードの剣がひらめく。ベンドル兵士の一人が剣を突き出そうとした腕を切り落とされて、声にならない悲鳴を張り上げた。

 うるさい、と目を細めた神獣が兵士たちを一瞥する。白い神獣と、そして兵士の背後にいつの間にか位置している黒い魔獣の威圧感が彼らから、言葉と動きを奪った。


「ファンランさん、お手伝いお願いしますー」


「拘束でござるな。手伝うでござるよー」


 にっこり笑ったシノーペと、ああ数が増えたとにんまりするファンランの笑顔の意味を理解できない彼らではないだろう。ほどなくベンドルの兵士たちは、芸術的な拘束の餌食となった。これで、二十人は越えたこととなるか。


「サファードよ。こやつらの目的を考えるに、おとなしくもてなされるとは思えんが」


「僕ではうまく行かないと思いますが、ファンランがいますし。それに、旧王都にはドヴェン家のリコリス嬢がおられるとのことですから」


「辺境伯の末娘、であったか。得意なのか?」


「ご両親と、養育係や専属メイドの薫陶の賜物とか」


 あくまでも会話の内容は噂話であり、しかもはっきりとした内容ではない。それなのに、その言葉に含まれた意味を捕虜となった兵士たちは理解したのか、顔色が青どころか白くなっている。北の寒い地で生きてきたせいか、もともとかれらの肌は白いのだが。


「ではまず、お客人の数を調整すべきでござるな」


「まあ、やるしかないよね……」


 会話の内容を横から聞いて納得したファンランとキャスバートは、小さくため息をつく。

 旧王都を護るため、ということでここまでやってきた彼らではあるが、正直に言えば早く家に帰りたいのだろう。本来ならば、旧王都を守護する軍隊や魔術師たちにすべてを任せればよいのだから。


「おそらく、前方の部隊については旧王都組が片付けていると思います。こちらはある程度、俺たちがやっておいたほうが良いんじゃないかと」


「そうなりますね。街の近くにこれだけ死体が散らばっていては、臭いや獣の害がひどくなりそうですし」


「獣については、先程範囲を広げて獣避けの結界を展開しておいた。早めに片付けたほうが良かろう」


 村に帰りたいキャスバート、妻のもとに帰りたいサファードの意見が一致したところでテムが助力の発言をする。その一言で分かりやすくホッとした二人の顔を見比べて、シノーペが「では、お掃除に入りましょうね」と彼らの背中を押した。


「エークリール。抵抗するベンドルの者は容赦しなくて良い」


「があう!」


 テムの指示に、エークは元気よく吠えるととんと地面を蹴った。背中の黒い翼を広げ、遠くに見えるベンドル兵士たちのところへ飛んでいく。


「では、適度に縛るでござる」


「程々にお願いしますね、ファンラン」


 何やらやる気を出した彼女に対し、サファードが強く止めることはなかった。キャスバートは……「縄、まだあったかなあ」と首をひねっている。


「あと十本くらいだと思いますから、選りすぐってくださいねー」


 答えは、シノーペがさらっと提出してくれた。あまりにも緊張感のない、戦の終わりだった。

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