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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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69.かたづけよう

「風魔術、タイプ射撃、シュート!」


「ごはっ!」


 こちらに向かってこようとした最後の一人を撃ち抜いて、戦闘は終了した。あーもちろん圧勝。主に、防御魔術かけたら調子に乗ったこちら側の兵士の士気が高かったのと、あとファンラン。


「つい、乗りに乗ってしまって最小限しか縛れなかったでござるよ」


「あの状況で、六名縛る余裕あったんですか」


 てへ、と照れてるファンランの横には、ベンドルの隊長とかそこら辺のレベルの兵士が六人、三段に積まれていた。もちろん全員、こう変態チックな縛られ方である。猿ぐつわもしてあるので、自決も無理だな。うん、頑張れ。

 呆れ顔をしておられるサファード様だけど、その口元が軽く緩んでいるのを見逃さないぞ。ベンドルの情報を得るためには、こういった捕虜の尋問は必要だからな。

 ベンドルと国交のある国もあるっちゃあるんだけど、そちらは王帝陛下万歳自分たちは陛下の下僕です、な国だからなあ。話が通じないらしいよ……前に国王陛下と前の宰相がこぼしておられたの、聞いたことあるし。


「……収容する場所はまあまあありますから、まずはランドまで運んでくださいね」


「了解でござる」


 サファード様の指示に従って、捕虜を荷車に積んだり荷馬車に乗せたりする。あ、積んだのはファンランが縛った連中な。

 と、生きてるのはそれでいいとして、八割がた死んでるのはどうするんだろう。内戦だったりはたまにあったんだけど、俺は仕事が仕事だったんで実戦にはほとんど出たことなかったな。


「死体は武装を外して、そちらにまとめてください。後で片付けます」


「外したやつはどうするんですか?」


「ばらして再利用ですね。このまま使っても使えるんですが、同士討ちになっては面白くないので」


 再利用……といっても、基本的にベンドルの武装は獣の革なんだよな。剣とかは金属製なので、そちらを再利用することになるんだろうか。他にも何か、あるのかもしれないけれど。


「いくつか、状態の良いものを残しておきたいのですが。今後、潜入任務がないとは言えませんので」


「それはそうですね。傷の少ないもので、サイズをいくつか揃えて残しておいてください」


「はっ」


 部下の提案を、サファード様がさらっと受け入れた。ベンドルへの潜入任務、か。


「これまで、やったことはあったんですか?」


「先代以前に数度試したという話は聞いています。帰ってこなかったようですが」


「あー」


 尋ねてみて出てきた答えに、本気であーって声しか出なかった。

 向こうからこちらに入ってくるのも大変だろうけれど、それはこっちから向こうに行くのも同じってことか。……その人たち、どうなったんだろうな。多分もう、確認しようがないけどさ。


「先程あなたが縛り上げた方々も武装解除して、保管しておいてくださいね」


「お任せでござる!」


 ま、それはそれとしてファンラン、とっても元気そうである。そろそろ皆にかけた魔術は解けてるはずだけど、動きが全然変わらないぞこいつ。


「……ファンラン、すごくノリノリだな……」


「戦闘を見ている限り、きちんとした近衛騎士だったのだな……なかなかの腕であった」


 思わず独り言を呟いたら、テムに聞かれていたみたいだ。そう言えばテムも、あんまり実戦とは縁がないよね。山賊まがいとかとはやったけど、あれを実戦と言っていいのやら。


「本人の発言があれだから、あまり気づかれないけどね」


「そのせいで相手が油断したのであれば、良いことだ」


 まあ、ござる口調の女の子が近衛騎士としてしっかり訓練を受けていて問題なく任務をこなせてる、なんてあんまり敵は考えないだろうなあ。そこに情報がない限り。

 油断したならそいつが悪い、ということにしておこう。


「神獣様。よろしいでしょうか」


 で、そんなことを考えつつお片付けの手伝いをしていたら、サファード様が声をかけてきた。テムに。


「何用だ……ああ、我が結界が引っ掛けた輩か」


「はい。ここ以外の敵部隊に関して、位置をお伺いしたく」


「うむ。地図を持て」


 ああ、三つ引っ掛けたっていう連中か。確かに、さっさと場所を聞いて対処すべきだよな。

 そうして地面の上に広げられたブラッド公爵領地図の、三つの地点をテムは前足で示した。ぷすぷすぷす、と爪の先で穴を開けたのは印のつもりかな。


「こことここ、それにこの辺りであるな」


「ほんとに、テムの結界で人里に近寄れなかったんだな……」


「水の少ない場所ばかりですねえ。まあ、ひとが住むのは水のそばが多いですし、当然ですか」


 その、穴の空いた場所は全てが荒れ地だった。ベンドルとの国境にある山脈を源流とする川がいくつか流れているんだけど、そことはだいぶ離れている。川沿いに村や集落があるから、ほとんどがテムの結界範囲に入ってるんだな。


「では、南にいるほうから順次対処していきます。その間、神獣様にはお手数ですが」


「足止めなら、任せおけ。何なら数日ほど、日干しにしてやっても良いが」


「干からびる前にひどいことになりそうですし、うっかり魔獣の餌にしてしまうと面倒なんですよ」


「ああ、人の肉の味を覚えさせるわけにはいかぬか。承知した」


 ……えーと、今何かすごいことを聞いた気がする。

 まあ、そうか。人間でも、美味しい獣や魚を発見したらそれを狙いに行くものな。

 鋭い牙も爪も持たず、服装はともかく皮膚はさほど厚くない、それでいてかなり数の多い人間という種族。

 それを餌だと認識してしまった獣は、魔獣は。


「ブラッド公爵領圏内は我が護るが、それ以外のところでも気をつけておるはずだな」


「ノースグリズリーで、過去に人ばかり食う個体が出て大騒ぎになったという話は存じております故」


 ……うん、昔話で聞いたことがある。だからこそ、戦場もこうやって片付けるわけだ。そっか。

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