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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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68.うってみよう

 魔術師である俺は、正直接近戦は苦手だ。ぶっちゃけ、結界で攻撃を防げるだけだしな。

 だから、遠距離から敵を撃つ。足元の土をひとつかみ掴んで、目の前まで持ってきて狙いをつけた。乱戦の中でも、例えば上級軍人らしい飾りのついた一人を狙うくらいなら簡単だ。


「土魔術、タイプ射出、行け!」


 魔力を流し込むと、その土の一部がにゅうと伸びて矢尻のような形を作る。そのまま勢いよく飛び出た土の矢尻が、派手な一人の脇腹を貫いた。そのままどうっと倒れたそいつに、王国軍が群がる。

 あー、できれば一撃で仕留めてやりたかったな。そうでないと、絶対痛いし。ま、それはそれとして次だ次。


「ほう。土魔術には、その手があるんですか」


 司令官なので高みの見物しつつ兵士に指示をしていたサファード様が、俺のやってることを見て何やら感心しているみたいだ。偉い人に感心されるのは、ちょっと嬉しい。ハイ次、ガタイのでかいおっさんの肩を撃って剣を落とさせる。


「ええ。特にブラッド公爵領(このあたり)だと砂や土、石には事欠きませんから」


「緑が多いと、逆に土は取りにくいですからね」


 会話しているうちに、何となく敵を撃ちやすくなった気がする。今、二人ほど楽にしてやれたし。さっきのおっさんには……あ、ファンランが飛びかかってる。哀れ。

 もしかしてサファード様、俺も含めた遠距離組にやりやすいように手配してくれたかな。申し訳ない、ありがとうございますってお礼を言いたい。そのおかげで、誤射をあまり気にしなくてよさそうだ。


「とはいえ、例えば小石なら魔術でなくとも撃てますよね? うちだと、兵士にスリングを持たせていますから」


「俺、スリング使えないんですよね。魔術師ってことで、練習もしてないですし」


 そのサファード様のご意見に、ひとまずは頷く。この混戦でスリングは使えないけれど、奇襲とかなら役に立つだろうな。

 俺は使えないスリングだけど、アシュディさんあたりはほいほいと使ってのけるんじゃないかなあ。そのくらいには器用だし、あの人。


「ふむ。魔術師隊、左側に集中お願いします」


『はっ!』


 本当にさらっと指示するひとだな、このひと。いや、いいんだけど。

 たまにいるんだよね、やたら力を入れての指示とかわざわざ雄叫びとか、個人差なんだけど疲れないかなって思う。……すみませんマイガスさん、あなたのことですけどここにいないからいいよね?


「キャスバート君。ちなみに、どのくらいの大きさまで撃てますか」


 いま撃てとは言いませんが、と付け加えて尋ねてきたサファード様には、素直に答えることにしよう。多分、最大限のサイズを聞いているんだろうな。


「単発でよければ、馬車くらいですね。一発撃つのに、一分ほど間をもらいますが」


「馬車、ですか?」


「えーと、乗合馬車くらいのサイズです」


 馬車と言ってもいろいろなサイズがあるもんな、と考えて一番分かりやすいものを出してみたら、サファード様がぽかんと口を開けられた。

 いや、アシュディさんだともうちょっと大きく作れると思うんだけど、俺は一分かけてあのくらいが精一杯だ。


「違う意味で便利ですね。作るだけなら、どのくらいまでいけますか」


「撃つ弾じゃなくて構築、ということであれば魔力の限界まで……時間かければ家作れるかもしれませんが」


 作るだけなら。うん、撃つっていうのは作ったものを相手めがけて撃ち出すまでがお仕事だから、その分の魔力も要るんだよね。

 それを使わなくていいなら、時間と魔力さえあればいくらでも大きいものは作れる、と思う。やったことないし、多分大工さんに頼んだほうが早いからやらないけど。


「さすがは『ランディスブランド』、もと特務魔術師ということですかね」


 サファード様がひどく感心しておられるけれど、いやさすがにこれ以上の人知ってるからなあ。というか、アシュディさんならこちらに来たことあるからサファード様、ご存知だよね?

 なんてことを考えつつ敵を撃っていたらば、ファンランの高笑いが戦場に響き渡っていた。


「ははははは! お前のような骨のあるやつほど、自分は縛りたくなるでござるなああああ!」


「丈夫そうな方を捕まえてくれそうですねえ。ああ、彼女の邪魔はしないように」


 さっきのおっさんを、変態的に縛り上げた上でこちらにぽいと放り投げてよこした。あーうん、一般兵士はだいたい倒れ伏してるか降参してるかだね。つまり、偉そうな相手を次から次へと首狩るなり縛るなり……っておい、サファード様。止めないのかよ。


「情報収集には、ある程度立場のある者の方がいいんですよ」


「あ、そうですか……」


 ああうん、そうですよねえ。特にベンドル王帝国内部のことなんて、俺たちにはほとんど流れてきてないからな。

 ファンランが縛ってる連中に、がっつり教えていただくのが一番だ。


「マスター。三か所で引っ掛けた」


 不意に、テムが声を上げた。……ブラッド公爵領圏内で少なくとも三部隊が、同時に移動してるってことか。


「捕まえておける?」


「任せよ」


 短い言葉で、簡単に終わらせる。後でテムをしっかり撫でて、ご機嫌取らないとなあ。魔力もあげなくちゃ。


「後で場所を確認させてくださいね、神獣様。まずは、目の前を」


「はい!」


 サファード様も状況を把握してくださったので、後でその三か所を片付けることにしよう。さあ、土はいくらでもあるんだからな。

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