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65.お話を聞こう

 バート村を取り巻く壁から外に出て、テムが走って五分もしないうちに多くの人々が見えてきた。見慣れない革系の武装だから、あれがベンドル軍で良さそうだな。


「な、なんだこれは!」


「解除の魔術が効かない、だと!」


「くそ、それなら力ずくで……ぎゃっ!」


 テムが展開した移動阻害結界を、必死に破壊しようとしてる。あーうん、例えば俺が展開した結界なら解除魔術とか力ずくとかで消せるかもしれないけれど、神獣が作った結界だからなあ。


「無駄な努力をしているでござるねえ」


 俺の後ろに乗っているファンランが、楽しそうに感想を述べる。少しは緊張したほうがいいと思うんだが、この状況であれば仕方がないか。


「あの上を越えるぞ。しっかりつかまれ」


「分かった」


「承知でござる」


 テムの指示を受けて、俺はその身体にしがみつく。ファンランが俺につかまったのはまあ、その方が楽だからだろうな。

 で、テムは地面を蹴ってベンドル軍と結界を軽々と飛び越えた。結界に阻まれて身動きが取れないベンドル軍の向こうに、ゴルドーリア王国正規軍とブラッド公爵軍の部隊が展開されているのが見える。

 ベンドル軍は五十、王国側は百ほどかな。もしかしてベンドル軍、部隊を小分けにしてスピード勝負に出ていたかな。ドヴェン辺境伯軍と派手にやり合っている部隊が頑張っているうちに、少しでもこちらに入り込もうとして。

 少なくとも、バート村の近くを通った部隊はここで止めておきたいな。


「そこらの人の子が、我が展開した結界を破れるとでも思ったか。愚かな」


 そんなことを考えている俺を他所に、テムは翼を大きく広げて勢いを殺しながら両軍の間に舞い降りた。きらきらと溢れる光の粒とそれをまとう有翼の獅子、そりゃあどちらの軍も見惚れるよな。


「神獣様!」


「すみません、遅くなりました」


「いえ。キャスバート、かなりお早いおつきでしたよ」


「……なんでサファード様がおられるんですか」


 公爵軍部隊の司令官に挨拶しようとして、とってもよく見た顔だったのでちょっと呆れた。本気で何やってるんですか、領主の配偶者。


「神獣様の結界に捕まった、愚かな方々の顔を見に来たんですよ。ちょうど君の村の近くでしたから、皆にお会いできるかと思いまして」


「サファード様、部下に任せたほうがよろしいでござるよ? 公爵軍の司令官各位、皆優秀なのでござろう?」


「今後は任せるつもりですよ。一度くらい、敵の顔を見ておきたいじゃないですか」


 にこにこ笑いながら答えてくるサファード様に、テムの背中から降りながらファンランがたしなめるように声をかける。ま、そうだよなあ。つか、家に帰ったらコーズさんに怒られるといい。かなり本気で。

 あと、サファード様。敵の顔を見ておきたいだけじゃなくて、殴って蹴って斬り倒したいんでしょうが。口に出して言わないけどな、そんなこと。


「し、神獣……」


「ん?」


 何か感心したような声が上がったので、そちらに視線を向ける。……王国側じゃなくて、ベンドル軍の方からしたよな、今の声。

 いや、王国側でも「あれが神獣様か」「何とお美しい」なんて声が上がっててテムがドヤ顔してるけどさ。


「あれが、王帝陛下をお出迎えに上がったという?」


「つ、つまり俺たちのことも迎えに来てくれたんだよな!?」


「よ、よし! 俺たちの勝ちだ!」


 ……何やら、変なことを言っている気がするぞ。というか、王帝出迎えに出てきたとか何だ。ベンドルでは、テムがここにいる理由がそういうことになってんのか。すごいなベンドル、馬鹿っぽい。

 とまあ微妙に当事者じゃない俺とかファンランはともかくとして、がっつり当事者であるテムはというと。



「あ゛?」



 全力でお怒りのご様子だった。遠慮なく威圧の視線をベンドル軍に向け、全身の毛を逆立てながら、低い低い声で問う。


「今、わけの分からぬことを口にしたのはそなたか?」


『ひっ』


 あ、最前列の兵士が数名腰抜かした。後ろの方から「何やってる!」「しっかりしろ!」なんて声がかけられてるけど、多分無理だよな。今、テムの喉から低い唸り声が出てきてるんだぞ。

 ……というか、今魔術放ったな。淡い、弱いものだからほとんど気づかれてないけれど。それに、わかりやすい効果が出るものでもないし。


「王で帝か、人が人を呼ぶ名としてはくだらぬものだな」


 のしのしとベンドル軍に歩み寄っていくテムを、追いかけることはしなかった。テムの結界展開の速さはよく知ってるし、サファード様やファンランもいるし。念のため、いつでも魔術なり結界なりを発動できるよう、魔力を貯めておくけれど。


「まあ言葉はどうでも良いのだが。そなたらはこれより南に進み、王都であった地を己らの手にしようとしているのだったか?」


「そ、それがどうした!」


「『神なる水』の恩恵に預かりし地を王帝陛下の座す地とするのは、当然のことではないか!」


「ほう、当然のことなのか。なれば、その王帝とやらも出てくるのか?」


「ま、まだだ! 我らが凱旋の道を切り開き、お出ましを願うのだ!」


「……えらく口が軽いですね?」


 テムとベンドル軍のやり取りを見て、サファード様が肩をすくめた。俺に視線を向けたから、誰がやらかしたかは推測がついてるんだろう。一応、答えてみるか。


「結界を通して、口を軽くする類の魔術を含ませたんだと思います。テムが」


「そのような魔術があるんですね」


「単純に、あちらのテンションを上げさせて理性を弱める術ですよ。どちらにしろ、本音を聞きたかったのでしょう」


「なるほど。こちらとしても、情報が入手できれば言うことはありませんが」


「ですね」


 ほんの少し理性を弱めることで、本音を聞き出しやすくなるってことはあると思う。お酒を飲んだときとか、怒ったりしたときとか。

 テムが放った魔術は、その状態になりやすくする魔術ってことだと思う。弱すぎて感知できないけれど、そこからうまく煽ってやればこんな感じになるわけだ。


「……早く縛りたいでござるね」


 ファンラン、さすがにお前はかかってないよな?

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