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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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45.対応反応魔術発動

 ばっ、とヨーシャが両手を広げた。それぞれの手のひらに魔力が集まっているから、こちらに向けて攻撃を仕掛けてくるみたいだな。

 ……あ、氷か。


「降れ氷の槍! 敵を止めろ、穿て、突き刺せ!」


「炎魔術、タイプ壁!」


 相手が唱えるのとほぼ同時に、こちらは防御のための魔術を発動させる。目の前に薄い板のように広げた炎が、飛んでくる尖った氷を次々に蒸発させていく。じゅうじゅう、と水の沸騰する音とともに水蒸気の煙が上がっていって、視界がちょっと悪くなった。

 炎を消して、逆にこちらから攻撃をかける。せっかく水分が多いから、同じ手を使わせてもらおう。水分を集め、冷やして氷にして、ヨーシャに向けて撃つ。視界が悪いから、牽制にしかならないかな。


「氷魔術、タイプ槍、連発!」


「と、止めろ止めろ炎の壁! 広がって、攻撃を消せ!」


 薄れていく煙の向こうから声と、そして炎が上がった。まあ、そりゃ同じやり方で攻撃したんだから同じやり方で防御してもおかしくないよなあ。なんだか微妙に反応が遅かった気がするけれど、多分向こうからもこちらが見えなかったからだろう。

 なんてことを考えつつ魔力の集中を進めていると、なぜか非難された。


「何だその詠唱は! 短い、反則だぞ!」


「え?」


 いや、突っ込むところはそこか?

 というか、魔術を発動させるための詠唱って、そんなに長いものじゃないと思うけれど。それに、けっこう個人差があるしな。

 俺とかアシュディさん、シノーペの詠唱は割とわかりやすい形だと思う。魔術の種類と、その後はタイプ別とか付与する要素とかを並べるだけだし。


「いや、俺はいつもこんな感じで発動してるけど」


「馬鹿な! そのような、気合の入らない詠唱でなぜあんなに威力が出るのだ!」


「訳わからねえこと言うな!」


 マジで訳がわからないんだけど。

 大体、気合で魔術の威力がそうそう変化するものではない、らしい。いやまあ、気合とともに魔力の追加注入をすればその分だけ威力は高まるけどさ。

 なお、そういうことを教えてくれたのはシノーペやアシュディさん、そして。


「マスターの魔術の使い方は、我が教えたのだぞ。ふふん」


 偉そうに胸を張るテム、エークリールと猫パンチの応酬中である。獅子と虎だもんなあ、見た目だけで言うなら。


「うがおう!」


「おっと」


「ぎっ! ぐるるるるる……」


 テムの一瞬の隙を突いて、エークリールが首筋に噛みつこうと迫る。それをかすめるだけでかわしてテムは、ばっちんとビンタをくれてやった。あーうん、肉球パンチだけど爪付きだから痛いよなあ。エークリールは即座に距離をとって、威嚇に入る。

 そのまま再び突進していったふたりはともかく、俺もちゃんと自分の戦いをしないとな。


「た、たかが獣に魔術を教わるだと! うなれ切り裂け風の刃! 我が敵をバラバラにしてしまえ!」


「たかがって、長い間結界を張って王都を守ってくれてた神獣様だぞ? 風魔術、タイプ真空」


 おっと、風の魔術で作られた刃がたくさんこっちに向かってきた。同じ風の魔術、空気のない真空の壁にその風を取り込んで威力を軽減すれば、避けられなくはないけどさ。

 それにしても、違う意味で危なかったな。今テムがエークリールを相手にしてなければ、さっきの爪付き肉球パンチがヨーシャに炸裂していたところだったもの。

 まあ、そちらはともかく。


「というか、早めに帰ってほしいんだけどなあ……土魔術、タイプ出る杭」


「っ!」


 溜め込んだ魔力を、手のひらごと地面に叩きつけた。ヨーシャの足元から、土を盛り上げて造られた杭が時間差で大量に生えていく。

 杭なんで、どちらかと言えば殺傷能力よりも移動阻害とか戦意喪失とか、そちらの意味合いの強い魔術だ。尖らせたものを生やすなら、杭じゃなくて釘っていうかな、俺なら。


「う、うわあやめろやめろ! き、消えろ土! 邪魔者消えろ、我が道を閉ざすな!」


「反応、結構早いな」


 パニクりながら、移動阻害物を消す魔術を割と早く唱えるヨーシャにちょっと感心した。普通はああなると、とにかく逃げる方に意識が行くんだよね。さすがにこれは、宰相閣下が目をかけただけのことはある。そこは認める。

 もっとも、この状況にまで陥った理由を許すかどうかとか、相手の思惑に乗るかってのはまた別の問題でさ。


「炎魔術! タイプ、射出っ! 連発!」


 小さな小さな火の玉を無数作り出し、ヨーシャ目掛けて撃ちまくる。それと同時に前進して、ヨーシャとの距離を詰めていく。

 相手を燃やすため、ではなく撃ち抜いて無数の傷を作るための魔術だ。火の玉で削るから熱いし痛い……いや、王都に出てきて間もない頃にシノーペにやられたから知ってる。


「く……そこかっ! 風、風の壁! 邪悪な炎を吹きとばせ、お返ししろ!」


 おっと、ヨーシャも対応してきたな。水系の魔術で消すんじゃなくて、火の粉を払う要領でこちらに跳ね返してくるわけだ。

 だけど、おとなしく射出した場所にいる俺じゃない。それに、跳ね返されたものは小さな火の玉たちで、ある程度の防御魔術と結界の重ねがけならダメージにはなりえない。

 そして、既に俺とヨーシャの距離はお互いに手を伸ばしたらぶつかる程度まで近づいている。これでも、そこそこ足は早い方なんだぞ。王都に出るまで、田舎走り回ってたんだからな。


「雷魔術、タイプ個体麻痺!」


「ぎゃああああ!」


 なので、接近する勢いのままに全力で麻痺の魔術をぶちかましてやった……あ、拳にまとわせた魔力を叩き込んだといったほうが正しいか。

 ヨーシャの意識が足元、そして自分の周囲にばかり向けられていたのが、あちらの敗因だ。多分。

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