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04.カバンが帰ってきました

 サンドラ定食をほとんど食べ終わった頃、入り口から聞き慣れた声が聞こえてきた。そろそろ、昼食を食べに来る王都の人たちが増えてくる時間だな。


「ランディスさん、やっぱりここだった!」


「シノーペ?」


 まず入ってきたのは、休日出勤だと言っていたシノーペ。その後ろから、大柄なグレーのローブが姿を見せる。


「おこんにちはあ。キャスくん、お話聞いたわよお」


 少々低めのよく通る声を響かせる、マイガスさんよりも大柄の魔術師。王都守護魔術師団団長、アシュディ・ランダートさんだ。

 体格は引き締まった細マッチョで、フードを外すと黒に近い赤の短髪に同じ色の瞳。口調はこんな感じ……何で魔術師やってんだろうこの人、ってくらい肉体言語も得意なんだよねえ。


「ランディス殿! ティアレット殿から話を伺ったでござるよ!」


「ぶっ」


 そのアシュディさんに隠れてて見えなかったけれど、もうひとりいたよ。俺よりちょっと低い背丈で、近衛騎士の正装をした女性。

 マイガスさんとこの団員、つまり近衛騎士の一人で俺と同じ年のファンラン・シキノ。何でか変な口調の彼女は若葉のような緑の髪をポニーテールにしてて、近衛騎士団の中でも目立つ存在だ。先祖がたしか、東の国の出身みたいなこと言ってたっけ。


「何、お前まで来てるんだ」


「はっ。魔術師団本部の近くを通ったところ、ランダート団長と衛兵の者共が揉めていたのでござる。そこで自分が間に入り、お話を伺ったのでござるよ」


「なるほど」


 マイガスさんに聞かれてファンランが答えた話に、あーそういうことかと納得した。

 王太子・宰相の俺嫌いコンビ、王城の部屋に置きっぱなしだった俺の荷物も捨てようとしたんだ。あの部屋は王都守護魔術師団の管轄でアシュディさんが面倒見てくれてたから、そこで揉めたんだろうなー……衛兵さん、無事かな。主に顔面。


「そうなのよお。キャスくんがお仕事辞めたから荷物捨てる、なんて言うからアタシ、つい止めようとしちゃってねえ」


「ちょうどそこに私が到着したので、お話したら団長、こうぎゅううっと」


 にこにこ笑いながらアシュディさんがヒョイ、と手に持ったものを見せてくれる。あ、あれ今朝俺が出勤時に持ってったカバンだ。無事だったんだ、よかったあ。

 で、俺の荷物を捨てようとした衛兵たちはシノーペのジェスチャーが正しければ、鼻なり下唇なり腕の内側なりを思いっきりつねられたものと推測できる。アシュディさん、爪伸ばしてマニキュアとかで固めてるんだよね。痛かっただろうなあ。

 ところで、衛兵たちとアシュディさんたちが揉めてるところにシノーペが到着したって……つまり。


「シノーペ、休日出勤ってもしかして」


「もちろん、団長への報告。ランディスさんは王国特務魔術師、名目上は団長の配下ですもん」


 思わず確認したら肯定された。シノーペもアシュディさんも、俺には好意的でいてくれてこういう時はありがたい……かわり、宰相に睨まれてんだけどな。

 アシュディさんは魔術師団の団長さんだけど、これ以上の出世は見込めないとか何とか。王国内の魔術師を統括する、魔術総帥の座も狙えるはずだったんだけど。

 シノーペは、在籍してる五年間ずっと平団員のままだ。年齢はともかく能力を考えると、既に分団長になっていてもおかしくないのにだ。人事管理は宰相が一枚噛んでるらしく、いくら申請を出しても通らないんだと。


「ふふふ、できの良い団員を持ってアタシ、とっても幸せよお。はい、お返しするわあ」


 で、アシュディさんは団長として俺たちを守りながら任務をこなしている。そうして今も、そんなふうに俺たちのことを評してくれながら、カバンを返してくれた。


「あ、ありがとうございます。シノーペとファンランもありがとう」


「当然よお?」


「えへ。まっすぐ向かったかいがありました!」


「自分は、ただ通りかかっただけでござるよ?」


 お礼への返答は、分かりやすく三者三様だよな。アシュディさんは平然と、シノーペは自信満々に、ファンランは……多分照れてるな、あれは。

 で、その様子をマイガスさんは横でにやにや見てるわけだ。エールのお代わり、何杯目だろうな、この人。


「お前ら、来たんならちょうどいい。ちょい付き合え」


「マイちゃんのおごりでしょうね?」


「誘ったの俺だしな。あとマイちゃんはやめろ、アシュ」


 愛称で呼び合うくらい、この二人は仲がいい。つまるところ、マイガスさんも俺のことは気にかけてくれているので出世街道も以下省略。今、近衛軍のトップに立ってるのはマイガスさんの部下だった人で宰相のご贔屓、だっていうのは公然の秘密だ。


「はいはい。キャスくん、認識分散結界タイプ雑談」


「あ、はい」


 さらっと指示してきたアシュディさんの言葉のとおりに、俺は慌てて自分たちが座っているテーブルの周囲に結界を張った。

 認識分散結界、周囲から見られたり聞かれたりする頻度を減らすというか、あんまり意識させなくする結界のことだ。

 タイプ雑談ってのはつまり、もしこちらを見たり聞いたりする人がいてもその人には俺たちが当たり障りのない雑談をしてるようにしか思えない、というやつ。

 この手の小型結界を展開するのは得意中の得意で、だからアシュディさんは俺に指示した。何でも他の人がやろうとすると、基点の設置とか呪文詠唱とかで時間がかかるんだって。

 まあ、結界張るのが仕事だったからな、俺。

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[一言] 普通に有能やん
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