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39.砕いて殴って蹴り飛ばす

「こちらとて、魔術師くらい連れておるわ! やれ!」


 不意に宰相閣下が叫んだ。それと同時に、彼が連れている人の中から魔力が溢れてくるのがわかる。そりゃまあ、俺だって魔術師だし。ええと、五名か。


『……………………移動妨害結界! はああっ!』


 その五名の詠唱が終わると同時に、俺たちの周りを結界が取り巻いた。空気の壁のようなものでほとんど見えないんだけど、でも何となく『何かがある』というのはわかる。

 手を伸ばそうとしたところで、壁のような硬いものに指先が触れた。敵……もう敵だよな、彼らが構築した結界だな、これ。


「何じゃ、弱いな」


「テム、基準が自分じゃ高すぎる」


 うなりつつ不満を漏らしたテムに、ついツッコミを入れた。いやだって、テムが展開する結界なんてそれこそ巨大魔獣が体当たりしても壊れなさそうなレベルなんだもん。

 ただ、人の魔術師が構築した結界としてはかなり強力、だと思う。複数人数で連携して張ったせいもあるんだろうけれど、魔力のつながりとかはそれなりに強固だ。


「そうよお。普通はこれでも、結構しっかりした結界なんだからあ」


「まあ、人の身で紡ぐものであるしな」


「貴様ら、何をのんきに話しておるか! さあ、このまま結界を縮小して苦しめてくれるわ!」


 アシュディさんの言葉に、さすがにテムも納得してくれたらしい。

 ところで結界の向こう、宰相閣下が何かのたもうておられるけど……ああうん、宰相自慢の魔術師部隊なんだろうな。遠縁だっけ、俺の後任につけようとした身内と同じくらいのレベルの。

 ただ、何で自分たちがこれからやろうとすることを声高に教えてくれるんだか。こちらに対処しようがない、とでも思ってるんだったら、甘く見られてるぞ。主にテムと、アシュディさんと、一応俺が。


「マスター、これを小さくするらしいぞ」


「うん、分かってる。サファード様、他皆さん。詠唱したらすぐ始めて構いませんよ」


 ちらりと皆に視線を向けると、全員が楽しそうに頷いて答えてくれた。ほら、サファード様とセオドラ様がまずやる気だし。


「ああ、ありがとう。遠慮なく行くつもりですよ」


「私も蹴りたいです、義兄上」


 ドレスで蹴ろうとするなよ、セオドラ様。まあ、足元結構しっかりしたブーツだけど。

 一方近衛騎士ずと魔術師ずは……あ、既に配置完了している。ファンランとマイガスさんが前で武器を構え、その後ろにアシュディさんとシノーペ。


「アシュ、魔術でやれよ?」


「あらやだ、わかってるわよお。前はマイちゃんやファンランちゃんにお任せするわよ、シノーペちゃん」


「はい!」


「前方は任されるでござるよ」


 はいはい、だいたい準備できたみたいだね。こちらもできたので、さっさと出ようか。テムは俺の隣でおすわりして、のんびりしっぽを振っている。お前さんが出る幕、なければいいなあ。

 複数人数で構築された結界は、各人の魔力が交じるところが実は微妙に弱い。うまくつながってないというか、小さな穴っぽいものが感じられるんだよな。

 なので、そこにこちらから魔力を流し込んで、穴をこじ開けてやればいい。構成が歪んで、結界は崩れる。こんなふうに。


「魔力注入、構築解除」


 ぱきん、と微かな音がする。ぱらぱらと砕けていく魔力はテムの翼から溢れる粒のようにキラキラと輝いて、見ている者たちに結界の破壊を視認させた。


「なっ!?」


「ど、どういうことだ宰相!」


 このくらいで驚く宰相閣下も、その宰相に結界の向こうから喚き散らす王太子殿下も、案外現実見てないんだなあと思う。いや、実戦なんてほとんど経験ないけどさ、魔術師としての訓練で結界の解除だの破壊だのはちゃんとやるんだよ。


「私もできますよ? このくらいの結界なら」


 逆にガンドル軍めがけて結界を展開したシノーペが、ここぞとばかりにドヤ顔をしつつ言ってのける。うん、シノーペならさっきの結界は余裕で砕けるはずだ。どうやら俺に花を持たせてくれたのか、ありがたいなあ。


「魔術感謝でござる。行くでござるよ!」


「俺もさんきゅ。キャスバートやシノーペが造った結界だと、ちと厳しいんだよな。アシュ」


「そうなのよお。アタシのもそこそこ強いって思うんだけどねえ」


 砕けた結界の魔力を突き抜けるように飛び出したファンランとマイガスさんに、即座に防御の魔術をかけてアシュディさんは涼しい顔である。そのまま二人は飛び出して、ガンドル軍をどつき倒し始めた。あの、二人とも近衛騎士だよね? 拳士じゃないよね?

 ……ま、いいか。もっとすごいのがいるし。もちろん、ほぼ一瞬にして宰相閣下に詰め寄ったサファード様とセオドラ様だけど。


「どうも、宰相閣下。いえ、国王陛下の親書を偽書だと断じた第一王子に従っている時点で、閣下なんていりませんね」


「なっ……!」


 あーあ、サファード様ってば既に『王太子殿下』でも『第一王子殿下』でもなく『第一王子』って呼んでるよ、王太子殿下のこと。まあそのうち正式にそうなるんだろうけどさ……というか、明るい笑顔がものすごく怖い。


「ご安心ください。身柄はがっつり確保して、丁寧に王都まで送り届けてさしあげますので」


「何いふごああっ!」


 笑顔のまま、サファード様が突き上げた拳は見事に宰相閣下の顎にヒット。そのままふわりと浮き上がる宰相めがけて……いや飛ぶんかい、セオドラ様。


「姉上と義兄上と私、それにブラッド公爵家を馬鹿にした報い、受けていただきますわあっ!」


 長いドレスを翻し、がっしりしたブーツでの蹴りが宰相の頬に入った。振り抜かれる足の勢いでふっとばされる宰相を受け止めたのは……王太子殿下たちを押し留めている結界だった。うわあ、痛そう。

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