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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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157.迎えに来ました

「参るぞ、皆の衆!」


「防御結界、タイプ全般!」


 テムの吠えるような声に重ねるように、俺は結界を展開した。少しでもみんなが安全に動けるように、サファード様のところにたどり着けるように。

 次の瞬間、結界の中に魔術が満ちた。ああ、これは何というか、体力を回復させるというよりは気力を充実させる……要は元気になる魔術だ。


「ん?」


「シノーペであろうな。幼い子らでも、元気というものは先に進む力になろう」


「なるほど。じゃあ、進もうか」


 確かにシノーペなら、最後尾から最前列のここまで余裕で魔術を届かせることができるな。よし、と一つ頷いて俺たちは、普通に歩くよりゆっくりと足を進めることにした。いや、多分それでも子供たちには早足かもしれないけど。

 と、ふいっと俺の隣にファンランが立った。そのまま、小声でこちらに話しかけてくる。


「先ほど、数名から話を伺ったのでござるが」


「うん」


「他の建物にも民はいるのか、と確認をとったのでござるが、兵士や魔術師でない民はあのエリアにいたのがほぼ全員、ということらしいでござるよ」


「え、そうなのか」


 うわあ。そういえば、帝都は中心に王宮据えてその周囲の建物が都の住居その他、ってことになってるみたいだったから、他のエリアに住人がいてもおかしくなかったんだ。いや、ぐるっと確認してもらったとは思うんだけど。


「我らの出てきた門が表門、という認識で良いらしいでござる。で、その場に戦に出ない民を集中的に住まわせて都の盾にするとか何とか、でござった」


『は?』


 ファンランの持ってきた情報に対して、俺とテムが思わず同時にそんな一言を吐いても無理もないよな?

 さすがに、非戦闘員を盾にするなんて……あ、シオンならやりかねないとかつい考えたけどさ。というか、今までここまで攻め込んできた軍がないっぽいから国まるごと助かってる、みたいなもんじゃないのか? ベンドル。


「ああ、その情報をくれたのは愚かにも刃を向けてきた兵でござった故、きっちり縛って転がしておいたでござる」


「終わるまで生きてたらいいのう、其奴」


 その後のファンランと、そしてテムの言葉に俺は正直言って恐怖を覚えた。

 身動き取れない状態で戦場の真ん中に置いてかないでやってくれ、いくら敵兵でも。せめて足動かせる状態で……いやまあ、今から探しに行く余裕なんてどこにもないけどさ。

 ともかく、進む、進む。たまに後ろを振り返って、赤ちゃんを抱えた女性とか子供連れの人とかに合わせながら速度を変える。

 俺たちは数が少なくて、全員の重さの肩代わりはできないから。子供を抱えたままでもし接敵したら、その子供が危ないから抱っこしてやることもできない。

 でも、一緒に歩く人たちの中で子供をおんぶしたり、赤ちゃんをあやしたりしてるから多分、大丈夫。

 そうして、もう少しでブラッド公爵軍のエリアに到着するというところで、聞き慣れた声と赤い髪が飛び込んできた。


「神獣様、キャスバートくん!」


「サファード様!?」


 部下の兵士数名を連れて、サファード様が迎えに来られたってちょっとおい。今戦闘中ですけど!

 いやまあ、何というかベンドル軍いまいちやる気ないですけども。まあ、一般人よりも兵士は食事取ってると思うけど、何かそれでもお腹空かせてそうだしなあ。あと魔獣たちも。

 とは言え、司令官が最前線にずかずか出てきてどうするんだ、と思ってたらテムも同じ考えだったようで。


「司令官が自ら迎えに来てなんとする! 『ランディスブランド』は無茶ばかりしおって!」


 めっちゃ吠えた。というか『ランディスブランド』でくくらないでほしい、俺はここまで無茶やってないと思う、多分。


「他国の民を保護するんですから、司令官として当然のことでしょう?」


「戦の真っ最中に、もう少し警戒せよと言うておるの、だっ!」


 そうして平然とお答えになるサファード様に怒りつつ、テムは最後のだ、と同時に両脇に向けて風魔術を放った。やる気のあるベンドル兵を、その風に乗せてひょいとふっとばす。

 ああまあ、さすがにベンドルの一般人の前で同じ国の兵士ばっさり、とかないよな。テム、そういうところはちゃんと気遣ってくれるんだ。さすが、俺たちの神獣。

 と、せっかくたどり着いたんなら、後は頼むとしようか。


「サファード様、ファンラン! 王帝陛下と帝都の人たちをお願いします!」


「わかりました! この者たちは一般市民です、安全なところへ!」


 俺の頼みに即座にサファード様は頷いてくれて、部下の人たちにさっと指示を出す。と、その中の数名に自ら声をかけられた。


「あ。あなたとあなたはこちらにお願いできますか? 少し、お手伝いしてほしいことがありまして」


「そなたもお願いできるでござるかな?」


 ファンランも同じように声をかけて、やっぱり数人を連れて行ってしまった。はて、何を手伝ってもらうんだろう?


「……間諜であろ」


 ひそり、と俺の耳にだけ届くように囁いたのはテム、だった。あー、一般人の中にスパイ混ぜ込んでやがったか、シオンのやつ。


「つまり縛るのか。まあいいけど」


「まあよかろう。さて皆の衆、奥で休むが良い」


 具体的に何を手伝ってもらうのか、は考えないことにする。どうせ、ひとまずファンランに縛られるのは確定事項だろうしさ。

 だからそこらへんは全力でおまかせして、俺たちは避難民をどんどん奥に誘導していった。ちなみにたまにサファード様やファンランが戻ってきては、『お手伝い』という名目で数人連れて行く。老若男女、わりといろんな人がいるなあ。

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