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153.なんともふざけた状況

「くぁう!」


「ぐおう、があ!」


「ぎぃやああああああ!」


 シオンの魔獣たちが、威嚇の唸り声を上げる。あーまー、元宰相閣下もヨーシャもさっくり殺るんなら一撃でやれそうだもんな、今のへろへろっぷりだと。

 で、本人たちもそのことは理解しているらしく……泣き顔でこちらに叫んできた。


「きゃ、キャスバート・ランディス! 我々を助けろ、褒美はいくらでもやるっ!」


「ガンドル家から、褒美を出そうぞ! だ、だから!」


「ゼロはいくら積み上げてもゼロでござるよ?」


 不思議そうな顔をして、ファンランがぶっちゃけた。あのなあ、ガンドル家はあんたがたを排除したぞ。家自体は何とか存続してるけどさ、遠縁の後継者を招いてどうにかこうにかやってるわけよ。そのガンドル家が、あんたらのために金は出さない。だから、ゼロ。


「ですが、ここで死なれても困りますよね……」


「ゴルドーリアに連れ帰って、反逆罪の裁判を受けさせるべきだな。ファンランよ」


 シノーペがぼそっとこぼした一言を、テムがうまく解釈した。そうだな、裁判受けさせるなら生きてないとな。

 で、その途端「承知でござる」の一言を残してファンランの姿が消えた。メティーオ、王帝陛下、あんまりじっくり見るんじゃありません。ほら、魔獣たちがビビって固まってるような気配だけは分かるんだからさ。

 で。


「もごがああっ!?」


「ふぐむぐうっ」


「うるさいので黙るでござる」


 大型カバンタイプ、持ち運び便利な縛り上げ二つ上がり。肩口と足首を結んだ縄が持ち手になってて、体力のあるやつなら肩にかけて運べる感じがする。


「そなたら、邪魔するのであればこうなるでござるよ?」


『きゅあいっ!?』


 満面の笑みでそう言ってのけたファンランから、シオンの魔獣がざざっと距離を取りまくった。あー……考えてみれば、ちゃんと人間の言葉は分かるんだよな、こいつらも。メティーオが分かるんだし、きょうだいだもんな。


「犬どもはこちらへ来るが良い。案ずるな、そなたらには手を出させぬ」


『わうん!』


 犬魔獣たちは、慌てて俺たちの方に駆け寄ってきた。うち二頭、それぞれ元宰相とヨーシャの持ち手をくわえて持ってきたのは偉いぞ、うん。

 ……と、ふと気がついた。シオンが元宰相をそそのかしたのなら、当然共謀者のことも知っているはず。となると、だ。


「……まさかとは思うけど。ゼロドラス殿下、もしかしてお前さんの手駒に?」


「後続部隊の足止めに行ってもらったよ。ああ、何でも彼のお父上が参戦なさってるそうだね?」


 思わず尋ねてみたところ、ある意味最悪の状況を提示されることで肯定されてしまった。ああ、確かに後続部隊には国王陛下ご自身がおられるときいていたよ。

 だけど、そこに元王太子殿下をわざわざ差し向けたわけか、てめえ。


「それは、そなたの命か? アレの意思か?」


「後者だね。自分を認めぬ父なら、いても仕方がない。自分こそが国王にふさわしい……と申し上げたのはこのシオンだが」


 テムの疑問と、そこに返ってきたシオンの答え。つまりシオンは、元王太子殿下にそういう話を吹き込んで、父親を殺させようとしている、ってわけだ。アシュディさんやマイガスさんたちがいてくれるはずだから、大丈夫だとは思うけど。

 でも。


「あんた、それでいいのか……ああ、いいんだよな。仕えてた王帝陛下だって、死んでもいいんだものな!」


「甘いな。死んでもいいではなく、死すべきだと考えている。世界の長として神魔獣を従える、私のために」


 は?

 冗談じゃねえわ、こいつ。国潰して神魔獣造り上げて、それで世界の長になる?

 そのために、どれだけの被害が出るのか。全てが終わったあと、支配した世界は世界として機能するのか。

 神様の使いであるテムが、神魔獣と戦って押し留めたのが分かる、気がする。こんなやつがついていても、いなくても、世界はひどいことになる、から。

 だったら。


「シオン・タキードおおおおお!」


「マスター!?」


「むっ」


 シオンを包み込んでいる結界を、更に紡ぎ直す。シオンの介入を防ぐことができなければ、数で勝負してやればいい。


「ちょ、ランディスさん! ああえっと、雷魔術、タイプ射出、連射!」


 シオンにかかりっきりになった俺を守る感じで、シノーペが魔術を乱射した。狙いはやつの魔獣たちで、ファンランの訳のわからない迫力にはたじろいでも俺には向かって来られるらしいな。慌てて飛び退いたのが分かる。

 さて、少しでも向こうの思う通りにならないようにしないと。少なくとも、王帝陛下を犠牲にはさせない。


「ファンラン! 犬たち! 王帝陛下とメティーオ連れて脱出! 俺はあとから行く!」


「え、何を……」


「エークリール!」


「ぐわあう!」


 俺の考えをすぐに理解したのか、テムが吠えた。エークがファンランの襟首をくわえ、自分の背にぽいっと乗せてそのまま駆け出した。先程俺たちが入ってきた、扉の方へ。続いて犬魔獣たち、彼らに守られるように王帝陛下とメティーオも。


「行かせるか!」


「行かせるのだ!」


 シオンが即座に魔獣たちへ指示を与えようとしたところで、テムが更に結界を展開する。魔獣二頭が、強固な魔力の壁にガツンとぶつかってへたり込んだ。


「シノーペ! 行くぞ!」


「わっかりましたあ! ビーちゃん、危険があったら教えてね!」


「みーあ!」


 懐に抱えたビクトールに一声かけて、俺とシノーペはテムの背中に飛び乗った。急いでこの場から離れ……少なくとも、クジョーリカ王帝陛下とその魔獣であるメティーオを、シオンの思う通りにはさせないからな。

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