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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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15.四方八方情報拡散

 街に到着してから二日後。衛兵隊の事務所にお邪魔してみたところ、一応取り調べは一段落ついたとのことだった。

 で、曰く。


「結局、ただの山賊みたいだねえ。馬車を襲え、とは言われてたみたいだけど」


「はあ……命令した者は分からないままですか」


「ああ。言ってきたやつの顔は分かるけど、多分黒幕の使いの者だったんじゃねえかって、山賊共が口を揃えて言ってるしな」


 ま、そうだよなあ。王太子殿下がチンピラだの山賊だの直接雇うような性格じゃない……確実に自分の侍従なり何なり使うに決まってるし、宰相閣下なら当然自分の正体バレを避けるためにそうする。

 衛兵隊のお手間をかけさせてしまって済まなかったな、と思いつつ俺は頭を下げた。肩の上で、テムは「にゃあ」と一言鳴いただけ。もっとも、神獣がほいほい頭を下げるわけにもいかないか。


「なるほど。ありがとうございます、お手数おかけしました」


「いやいや。山賊とっ捕まえてくれて、こっちは助かったよ。こちらこそありがとうな」


 互いにお礼を言い合って、俺は事務所を後にした。さて、これでこの街にいる理由はなくなったな。さっさとブラッド公爵領まで帰るか……馬車を使っても三日くらいかかるけど、ちゃんと買ったやつだからまだマシかな。

 ほんの少し歩いたところで、見た顔に出会った。


「おや、兄ちゃん」


「あれ、こないだの」


「にゃお」


「おー、猫も元気かー」


 この街に来た夜、酒場で王都の話を聞いて見返りに夕食おごったおじさんだ。あの翌日、つまり昨日王都に帰ったはずだけど……え、また来たのか。仕事大変だなあ。

 とりあえず、テムは普通に猫のふりをしている。プライド高めだけど、今は猫の姿をしているので猫と呼ばれることは受け入れている。ま、変に暴力振るってきたり罵倒してきたりしたらまず俺が怒るけど。


「あん時はおごってくれてありがとうなー」


「いえいえ。またお仕事で来られたんですか?」


「そうなんだよなー。あのさ、飯食ったときに一緒にいた変なしゃべり方の姉ちゃん、もしかしてファンラン・シキノなんて名前じゃねえか? あと、兄ちゃんがキャスバートで」


 なんてことを考えていたら、おじさんはファンランの名前を聞いてきた。確かにござる口調だしなあ……近衛騎士団の人とでも会ったのかな?


「はい、そうです。俺はキャスバート・ランディスで、あの彼女がファンラン・シキノですね」


「おー、マジか。そりゃ良かった、そのファンランさん宛のお仕事なんだよ」


 あ、そうなのか。ファンラン宛なら、ほぼ確実に近衛騎士団からだな……マイガスさんあたりかな?

 まあ、俺が気にすることじゃないんだけど。


「はいこれ、王都の近衛騎士団からファンランさんにお手紙。こっちで会ったことポロッと言ったら、その姉ちゃんだから間違いなく頼むしキャスバートの兄ちゃんなら渡しても問題ねえ、って言われてる」


「あ、ありがとうございます」


 渡された封筒は、間違いなく近衛騎士団発のもの。団の紋章が入ってるし、宛名の筆跡はよく見るマイガスさんの側近のものだから。……マイガスさんに文字書かせると、解読班が必要になるんだよなあ……ははは。

 しかし、本当にお仕事だったのか。つまり、


「って、三日で王都とここを一往復半ですか? 大変ですねえ」


「まあなー。俺はのんびりしたもんだけどさ、昨日今日辺りから王都発であちこちに手紙が行ってるみたいだぜ」


「そうなんですか……」


 おじさんが教えてくれた言葉の意味を、理解できない俺じゃない。

 俺が特務魔術師を外され、それでテムが王都を出てきてしまったことで王都を護る結界は多分、ゆらぎ始めている。

 国王陛下はそれをご存知だから、結界が消える前に王都の住民たちをどうにかしようとしてるんだと思う。貴族の当主で王都に住んでる人も多いから、王都を出た手紙は例えば王族領の代官や貴族の領地に送られるものだろう。

 ……今更帰ったところで何もできないし、テムはもう戻るつもりはないだろう。だったら、『ランディスブランド』の人たちが多く住むブラッド公爵領まで帰ってそれからのことを考えるべき、なんだろうなあ。


「おっと、そうだ」


 ふと気づいて、懐の財布を取り出す。ほどほどのコインを取り出して、おじさんに渡した。


「大変でしょうし、これで飲むなり食べるなりしてください」


「おー、ありがとよ! またなあ!」


「はい、また」


 一食食べられるくらいのお金を渡すと、おじさんは上機嫌になって手を振りながら去っていった。多分この後王都に戻ったら、また別の手紙を運ぶお仕事があるんだろうな。頑張って欲しいもんだ。


「あの二人は、食料品の買い入れであったか?」


 肩の上からテムに尋ねられて、意識を現実に戻した。そうそう、衛兵隊から呼び出しがあったってことで多分街を出発できるだろう、って踏んだ俺が買い出しに行ってもらったんだよね。


「ああ。後は預けてある馬車に積み込んで……出るのは明日の朝かな」


「そうだな。夜はまた何が来るか分からん……山賊ならともかく魔獣や、うっかり他の国の愚か者が手を出してくるやもしれんしな」


 猫の外見にはいまいちふさわしくない、ちょっと怖いことを言ってくれてからテムは、「うにゃーん」と猫になりきって俺に頬ずりしてきた。ああよしよし、テムは猫でも獅子でも可愛いですよ、うん。

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