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139.進軍

「少々手間取ったでござる!」


 そんなことを叫びつつ帰ってきたファンランは珍しく、左腕に傷を負っていた。さすがに縛ったやつは置いてきたな、その怪我じゃ大変だろうし。

 顔にも細かな傷があるんだけれど、それにもまして笑顔が輝いているので存分に縛れたんだろうなあ、うん。


「ふにーう」


 ちょうどそこへ、虎エークも帰ってくる。こっちは……ほぼ怪我はなし、舌なめずりしてるな。食ったのは魔獣、だといいな。


「ふたりともお帰り。ファンラン、とりあえず水はそれなりにあるからざっと汚れを流してくれよ。怪我が治っても、汚れの毒で病になっちゃ大変だし」


「うむ、承知でござる。汚れの毒については、団長からさんざん言われたでござるからな」


 見事な上機嫌さのまま、ファンランは俺に頷いてそばに置いてある桶を取った。白い雪を詰めては炎魔術で溶かして、それを使って汚れを流してもらう。治療魔術を使うのは、その後だ。

 原因とかはよくわからないんだけど、怪我の部分とかが汚れたままで治療魔術を使うと怪我は治る。だけどその後、毒で病になることがある。長年に渡る観察で、どうやら汚れを綺麗にすればその可能性が下がるんだそうだ。


「雪を溶かせば水の調達はできますから、遠慮なく使ってください。僕からもお願いしますね」


『はいいっ!』


 水の準備をしているサファード様のお言葉に、この場にいる兵士たち皆が一斉に頷いた。こちらから顔は見えないんだけど……ま、恐ろしく爽やかな笑顔なんだろうな。ただちょっと怖いだけで。


「……こちらに来ているのがサファード様で、良かったですよね」


「メルやセオドラでしたら、もっと厳しいですからね。傷口を清めなくば食事はやらぬとか」


「極端なんですよねえ……汚れから病になると、けっこう大変ですし」


 シノーペや、部隊所属の魔術師たちが治療に右往左往している。魔術が使われなかった時代には薬草などで物理的な治療をしていて、今でも併用してるので俺たちはそっちの手はずを整えた。……ほら、魔術師がいなかったり魔力がすっからかんになったら大変だから。

 さて、情報は……あ、エークが猫に戻ってる。まあいいか、会話の要領は全く変わらないし。


「エーク、後続の部隊とは連携できそうか?」


「うにゃおうん、ふにゃにゃ、あーうー」


「後続部隊は押し戻されて、かなり距離を離された上に道を切られたらしい。こちらはこちらで動くしかあるまいの」


「そっか。エーク、テム、ありがとう」


「うむ。我が下僕として、ようやったぞエークリールよ」


「にゃあ!」


 俺からのお礼はともかく、テムの褒美は毛づくろいらしい。まあ、エーク自身が喜んでるからいいか。

 って、押し戻されたのか、後ろの部隊。どれだけの戦力で攻めたんだろ、ベンドル軍。


「やはり、こちらは単独で進みますか」


「それが良いでござろう。孤立したとて、ランディス殿やテム殿の守りがある故かなり無茶はできる部隊でござるし」


 エークの情報を聞いて、サファード様はさらっと無茶を提案してくる。いや、確かにファンランの言う通り無茶できるけどさ。

 ……でもまあ、サファード様の推測が正しければこちらにはあまり無理な攻撃を仕掛けてこないだろうけど。

 そんなことを考えていたら、テムが「致し方あるまい」と声を上げた。エークは綺麗に毛づくろいしてもらって、満足そうである。


「ここより先、部隊全体には我が護りを与える。マスター、魔力補給を頼むぞ」


「あ、分かった。そうだな、相手の作戦に乗る気ならそれが一番か」


 どうせ、向こうはテムの来訪を待っている。それならそれで、さっさと行ってやるって手もあるんだよね。

 いやまあ推測だけど、どちらにしろ帝都に突入して大宰相シオンをしばき倒すのが俺たちの任務だし。あと、ファンランに縛らせる。


「構いませんか? 神獣様。ここから、少し急ごうかと思うのですが」


「無茶はいかんが、考えてみれば帝都に近づいているのだ。少しずつ道が良くなってきているからな、できるだけ急ごう」


 サファード様もテムも、地味に血の気は多いんだよね。なので、とっとと突入してぶっ飛ばす方向で意見が一致した模様。

 後、言われてみれば道は良くなってきている、みたいだな。思い返してみれば。


「……良くなってきてます?」


「さっきの偽兵士、馬車の横に馬をつけてきた。そのくらい道幅が広がっていて、しかも路肩まで安定してるんだよ。でないと、馬車が横に落っこちてる」


「ああ、そういうことですか……言われてみれば、雪が多い地方ですもんね。道路をしっかり作っておかないと、路肩なんて簡単にぐちゃぐちゃになっちゃいますし」


 首をひねっていたシノーペに説明しつつ、自分もそれで納得する。で、ふと気づいた。

 北に行けば行くほど車輪が効かなくなるだろうということで、ソリに組み替える資材も積み込んであったりする。


「もうそろそろ、馬車をソリ仕様にしてしまいませんか?」


「そうですね。伺ったお話ではもう少し先に砦があるそうですから、そこにお邪魔させていただきましょう」


 一応サファード様にお伺いを立てると、満面の笑みでそうおっしゃった。……あーうん、お邪魔させていただく、ね。

 ファンランとエーク、また暴れることになりそうだなあ。

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