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136.道程

 休み休み、俺たちはベンドルの国内を進む。ビクトールや、ファンランが縛ってきた兵士たちから情報を得ながら。

 というかベンドルの国土って、その大半は人間が住むのに適してなさすぎだ。よく生きてこられたな、彼ら。


「暖かいと思ったら、硫黄が吹き出してたからなあ……」


「雪が少ないと思ったら、そもそも乾燥しすぎて水がなく暮らしにくいところでござったな……」


「先日の砦は、ノースグリズリーと縄張り争いをした結果どうにかできたもの、ってお話でしたよね……」


 馬車の中で情報を整理しつつ俺とファンラン、そしてシノーペはほぼ同じタイミングではー、とため息をついた。特に最後、人間が住みやすそうな環境を先にグリズリーが縄張りにしてたということなんだよね。お疲れ様、としか言いようがねえ。

 と、シノーペの膝の上で丸まってるビクトールがみゅう、と声を上げた。まあ、お前さんもベンドル出身だしな。


「みゅーあ、みうみう、ふみー」


「……ビクトール曰く、森の中であれば泉もあるし毒の湧かぬ温泉もあるそうだが」


 悪いなあ、テム。お前の横でかしこまってるエークだけでなく、ビクトールの通訳まで任せてしまって。あとエーク、そろそろ人語話せるんじゃないのか? 知らん顔してるけど。

 ま、今は話せなくても問題ないからいいか。それはともかく、ビクトールの意見に対してこちらの推測を述べてみよう。


「多分、そこまで行くのに人の足じゃ一苦労どころじゃないんだろ。飛んだほうが早いとか、じゃないか?」


「み」


 こっくん、と頷いた。やっぱりなー……ビクトールは一緒に育ったきょうだいの中では小柄だったけど、そのビクトールの意見としてそういうことなら人間はもっと行きにくいんだろう。

 森の中を歩くのに、人間のひ弱な足より魔獣の足のほうが歩きやすいのは分かるものな。


「森を切り開くのも一苦労であるし、そもそもその後長らく暮らせるかどうか、だからな。人の身体は、こういった環境には弱すぎる」


「ごもっとも、でござる」


 テムの呆れ声に、ファンランが深く頷いた。まあ、自前の毛皮ないし牙も鋭い爪もないし、テムやエークたちみたいに背中に翼もないからな。

 ……というか、テムはゴルドーリアの旧王都に降り立った神獣なんだから、ベンドルの魔獣たちみたいに過酷な環境で住んだことないんじゃないか? もっとも、そこを突っ込むつもりはないけれど。

 それに、意外と人間は図太いと言うかちゃんと暮らしてたし。


「まあ、硫黄が吹き出してるところは少し距離をおいて集落があったし、乾燥地帯も近くの雪渓から雪を取ってきていたし、ベンドルの人たちもそれなりにちゃんと生活できてるんだよな」


 俺たちが通り過ぎた道中、いろいろな場所で色々な集落や砦を見た。民間人の集落を襲撃する気は毛頭ないし、砦は……俺たちが陽動してるあいだにファンランが隊長縛って終わらせたし。

 ブラッド公爵軍が先頭に立ってるわけだけど、後続の部隊にも民間人を襲うなという命令は司令官名でがっつり伝わっている。軍全体に俺とテムがかけている防御魔術にそこら辺の感知能力をテムが潜り込ませてるんだよな……さすが神獣様。

 この前の慰問団の折に、やらかしかけた部隊のトップをテムが脅してきたとのことである。どこだよその部隊、後で知らねえぞ。

 国軍の司令官であるラッツェン閣下は、ドヴェン辺境伯家のご令嬢を奥方に迎えてるだけあって腕力洒落にならないし、司令官やってるだけあって命令違反とかには特に厳しいからな。マイガスさん談。


「民がいなくては、あの軍も編成できないでござるよ」


「でも、ほとんどの国民は帝都にいるんだっけ」


 ファンランの言う通り、軍を編成するには人間がいる。ベンドル軍は魔獣使いが主だけれど、国民全部が魔獣を操れるわけじゃないからな。

 で、これまで通ってきた集落や砦、これから通るそれらを除く大半のベンドル国民は帝都にひとかたまりになって住んでいる、というのは王帝陛下他からの情報ではっきりしてるんだよね。まあ、人の住める場所が少ないと自然とそうなるか。

 ……というか、人が多く住める場所が帝都になって、今に至るってことか。


「これだけ領土が広いのに、人が住める場所は少ないんだよな。本当に良く、今まで生き延びてきたと思うよ」


「食料がなければ、国としての寿命は短いでござるよ。輸入は……できたでござったかな?」


「ムッチェ伯爵家はともかく、他の国に確か親ベンドルな国がありましたよね」


「それだ。まあ、それなりに民を生かそうとした歴代の王帝とその配下には、よくやったと言うべきだな」


 うん、テムの言葉もわかる。分かるし、今の王帝陛下もそのつもりでゴルドーリアに来たんだろう。自分の国民を、良い環境に住まわせたくて。


「だからといって、大宰相シオンがやろうとしてることを受け入れるのは違うよな。なんか、本来の目的とは違うところに着地したがってる気がする」


 俺は、自分の意見をそう述べた。

 いや、理由なんてないしちゃんとした証拠もないよ。だけど、自分の国の長を犠牲にしてまで神魔獣だか何だかを復活させようってのは、やっぱり違うと思う。

 だから……ん? 馬車の外から、兵士さんが覗き込んできてる。


「失礼します。後続の部隊がベンドル軍との戦闘に入り、ブラッド公爵軍は後続との連絡を絶たれた模様です」


 その兵士さんは馬を止めないまま、窓越しに俺たちにそう言ってきた。マジかー。

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