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12.夜中に奇妙なお騒がせ

 夕食のために、宿のすぐ側にある酒場に入った。ここも魔術師御用達らしく、シノーペのお勧めは半日かかって作るバッファロー肉の煮込みシチューだとか。うん、この漂ってくる匂いがそれだな。


「いらっしゃいませ、こちらどうぞー……すぐ片付けますんで!」


「ああ、はい。大丈夫ですよー」


「すみません! すぐ、注文取りに伺いますんで!」


 空いてるテーブルに案内してくれたウェイターさんが、そこに残ってた食べ終わった後の食器を慌てて片付けてくれた。つまり、ひっきりなしに客が来るレベルで繁盛してるんだよなあ。

 魔術師だけじゃなく、普通に住人とか旅行者とかも来てる。別のテーブルにちらりと衛兵隊の制服が見えたので、彼らもご贔屓にしてるみたいだな。

 とりあえず俺は、シノーペお勧めシチューにパンとサラダのセット、あと焼き肉多めに追加といった感じかな。シノーペもファンランも、シチューと追加数点というふうに頼んだ。一緒に来てるテム用に、肉多めで頼んである。


「いや、だから本当だって! ゆうべな!」


「王都で花火がどーん、って? 魔獣でも追っ払ってたんじゃねえの?」


「それなら俺も分かるっつーの!」


 すぐ隣のテーブルで、えらくにぎやかに話ししてるおじさんたちがいる。ていうか、王都?


「花火、でござるか?」


「私たちが出てったあと、何かあったんですかね?」


「にゃお?」


 俺たち、テムも込みで顔を見合わせた。魔獣、大型の獣を人里から追い払うために花火や魔術で脅かす、というのは田舎ならよくやるんだけど……王都近辺って、あんまりないよな?

 まあ、王都はテムと特務魔術師が結界張ってるから大丈夫なんだけど……まだ結界は残っているはずだけれど、今後はどうなることやら。王都守護魔術師団が総掛かりでやれば、なんとかなる気がしなくもないけど。

 まあ、それより。話を聞かされていた方のおじさんがうんざりしたのか出て行っちゃったんで、ここがチャンスだな。話、聞いてみよう。


「あの、どうしたんですか?」


「ん? おお、兄ちゃん、何だ?」


「王都がどうの、ってお話がちらっと聞こえまして。友人がいるんで、何かあったらって心配になっちゃって」


「あー、そうか……」


 ま、いきなり話しかけたらびっくりするし警戒もするよな。こういうときの必殺技、と思って声を上げようとしたら。


「お姉さん、こちらのお兄さんにエールとおつまみ持ってきてくださあい!」


「はーい、ちょっと待ってねえ!」


 俺より先にシノーペが注文してくれた。さすが、分かってるなあ。


「はい、エールとおつまみどうぞ!」


「私たち、彼の連れなんです。よかったら、どうぞ」


「おお、こりゃ悪いなあ」


 軽いものなので、すぐにやってくる。それを差し出すと、おじさんはあっさり上機嫌になった。よし、これで話聞けそうだな。


「王都で花火、とかきこえたんですけど」


「おうよ。夜中の話だったんだけどな」


 早速話を向けると、おじさんはエールを飲みながら話し出した。


「急に地震が起きてなあ。で、慌てて外に出たらお城から何か光がどーん、って空向かって真上に飛んでったんだよ。だから、花火だと思ったんだが……でも、花火だと上空で広がるだろ? それがなくってなあ」


「はあ……」


 確かに、王都で花火を打ち上げることはある。その時は上空で色とりどりの光が広がるさまが周辺の街からも見えるとか何とか、そういう話は聞いたことがあった。

 というか、花火を打ち上げるのって何かのお祝いのときくらいだぞ。それに、夜中に打つのはおかしい。民に見せるためのものだから、夜になってすぐくらいに打ち上げるものなんだよな。

 そうすると、当然花火ではない。となると。


「しかし、魔獣払いの魔術砲、とは違ったのでござるな?」


「そうなんだよ。魔獣を追っ払うための魔術砲ならさ、ある程度の高さで光るもんだろ?」


「そうですね。空を飛ぶ魔獣でも、あまり高いところは飛ばないものですし」


 ……魔獣ならな。

 神獣であるテムもそうなんだけど、魔獣も空を飛べるものがいたりする。そういう獣を人の居住区域から追い払うために魔術砲を放つことも、ままあるんだよな。

 でもまあ、それだって獣を脅かすものだから、派手に破裂したり眩しい光を放ったりする。

 それでもない、とすると……だ。


「んにゃ」


 人の肩の上でのんびりしてる白猫に、ちらりと視線を向ける。テムは、あからさまに視線をそらした。

 ああ、つまりどーんと飛び出した花火のような、魔術砲のような何かの正体はお前か。夜中に飛び出して、夜が明けて昼前に俺たちに追いついたんだ。……途中どこで何やってた、かは聞いても教えてくれそうにないなあ。


「そもそも王都ということであれば、結界があったはずでござるな。何にせよ珍しいことでござるが、明日には公式見解が出ているのではないでござるかな?」


「……そーいやそうだな。ちょっと気にしてみるか、明日には帰るし」


 口調はともかくちゃんとした近衛騎士であるファンランの言葉に、おじさんは頷いた。え、昨夜の王都の話知ってていまここにいるってことは、今日こっちに来たってことだよな。それでもう、明日帰るの?

 同じ疑問は、シノーペにも浮かんだみたいで。


「大変ですね。お急ぎのお仕事ですか?」


「速達の手紙運んできたんだよ。街ごとに馬をとっかえてリレーしていく方式」


「ああ、なるほど」


 そういうことか。

 手紙は普通、荷馬車に乗せて街から街へと運んでいく。ただ、急ぎのもの……速達は追加料金必要だけど、それ単独で馬に積んで突っ走っていく方式になっている。

 特に、ものすごく急いで届けたいやつはおじさんの言ったとおり、街についたら次の馬、その次の街についたらまた別の馬……とリレーで運んでいくんだよな。

 ……王都から、どこに届けられるんだろうな。その手紙。

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