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11.人前だと驚かれそうなので

 その日の夕方には、俺たちは無事街にたどり着いた。そこそこ大きな街ということで、衛兵隊の駐屯所がある。


「連行、ごくろうさまでした」


 なのでまあ、とっ捕まえた刺客御一行様は山賊扱いでここに放り込むことにした。背後関係を探るにしても、どうせ雇い主から大した話聞いちゃいないだろうしな。


「取り調べの方、よろしくお願いいたします」


「お任せください」


 俺は特務魔術師をクビになった身だけど、ファンランとシノーペはそれぞれ休職中とは言え近衛騎士と王都守護魔術師団員という立場。

 ということで、身分証明を見せた二人に衛兵さんはぺこぺこしている。王都から馬車で一日って距離なんで、まあいろいろあるんだろうなあ。


「情報の宛先は近衛騎士団団員、ファンラン・シキノ殿ですね。了解しました」


「数日滞在する故、よろしく頼むでござるよ。街の平和は、衛兵隊のおかげでござるからな」


「はっ!」


 びしっと敬礼した衛兵さんたちに軽く返礼して、俺たちは駐屯地の事務所を後にした。

 まあ、いきなり王都を出てきてしまったもので、ちと不足するものがいろいろあるからな。刺客御一行の供述内容も知りたいし、ということでこの街で数日過ごすことになったわけだ。

 ちなみに宿は、シノーペのツテで魔術師の多くが使っている宿屋を確保できた。この事務所に刺客さんたちを放り込んだ後さっさと行ってさっさと帰ってきて「男女ひと部屋ずつ確保しましたー!」と笑顔満開で報告してくれたシノーペ、ありがとな。助かったよ。

 さて、それはそれとして。


「あー、やっと大荷物がなくなったでござる」


「さすがに六人はしんどかったな。収納魔術に放り込むわけにもいかないし」


「それができれば苦労しませんよう」


 街中を歩きながら、全員で肩をこきこき動かす。いや、この三人で刺客さんたち計六人を連れてきたんだから大荷物だろう。馬車は街の入口にある預かり所に預けてきたから、そこからおら歩けそら歩けと突っつくのがめんどくさかった。


「と言いますか……テムさん」


「一番楽なポジションに収まったでござるな。テム殿」


「にゃ?」


 二人のジト目に、俺の肩でのんびりしている白猫がこきりと首を傾げた。

 この白猫は、二人の言う通りテムなんだよね。さすがは神獣、姿を変えることもできるのだ。

 有翼獅子の背中に積んでいけば、刺客運びも楽だったかもしれないけれど……いくら何でもそれはないな、というのが全員一致の意見だった。




「テムさん、街の中でもこの姿なんですか?」


「ん? そのつもりだが」


 発端はこの街が遠目に見えてきたあたりで、ふと疑問を言葉にしたシノーペだった。テムはそう答えたけれど、ややあって「おお、そうか」と頷く。


「なるほど。戦場であればともかく、平時の街中で獅子が歩いておれば民は驚くか」


「まあ、腰を抜かす者も出るでござるなあ」


「戦で獣を使役する者はいますから、確かに戦場なら当然だと思うでしょうけど……」


「そもそも、使い魔とか使役獣とかがこの国だと見慣れない存在だからなあ。神獣なんてその比じゃないけど」


 ファンランやシノーペの意見に、俺も同意する。

 ゴルドーリア王国では、テイマーのように何らかの獣を使役するような職業はあまり一般的じゃない。大体が辺境とか山奥とか、そういった人目につきにくいところにいる。……ブラッド公爵領には確か数名いた記憶があるけど、今でもいるのかなあ。

 魔術師で使い魔を使う者もいるにはいるけど、おおっぴらにこれが使い魔でーす、なんて言う人はいない。大体が犬猫鳥といった動物の姿をさせていて、ペットだと言い張っている。アシュディさんやシノーペは使ってないんじゃなかったかな、確か。


「私も使い魔はいませんし、テムさんが人語を話すというのにまず驚きましたから」


「おお、そうであったな。……そなたらも、それで驚いたのか?」


 話を振られたのは、その時は馬車の荷物として積まれていた刺客御一行。全員が涙目でこくこくこくと激しく頷くのを見て、俺たちは皆「ですよねー」という顔になっちまったよ。

 あと、テムは空から降ってきたからなあ。そりゃ驚くに決まってんだろ。俺だってびっくりしたっていうのに。


「なるほど。……では、人の子が驚かぬ姿になればよいのだな」


「変われるんですか」


「無論だ。……初代の『ランディスブランド』が好んでいたのは、この姿だったな」


 俺の質問に自信ありげに頷いて、テムはにゅるんと縮んだ。うん、にゅるんと。そうとしか言いようがない変身……というよりは変形で、あっという間に可愛らしい白猫の姿になったわけだ。


「にゃお」


「おお、愛らしいでござるな!」


「かーわいい!」


「うむ、可愛いであろ?」


 一声鳴いてみせた途端、シノーペもファンランもめろめろである。いや分かる、これはこれでめっちゃ可愛いもんな。

 テムの方もシノーペに喉ごろごろとか御者台のファンランの膝に乗っておでこぐりぐりとか、すっかり猫っぽく振る舞っている。いや見た目猫だし、そもそもの姿も獅子だから大きな猫だし。


「ああ、この姿でも結界は展開できる故、皆は案ずるな。それと」


 ひとしきりごろごろかいぐられて満足したのか、テムはムクリと起き上がる。そして、するすると俺の膝の上に乗った。


「この姿の我はマスター・キャスバートの飼い猫テム、であるからな?」


「ああ、ですよねー」


「そうだと思ったでござるよ!」


 何で人の膝の上でドヤ顔するかな、テム。あと二人とも、納得するな。いや、俺もある意味納得せざるを得ないけど。

 そして刺客御一行は、衛兵隊に叩き込まれたときにすごくホッとした顔だったのが印象的だった。俺たちから離れられるのが、そんなに嬉しかったんだろうなあ。近衛騎士に魔術師二人に神獣だし、うん。

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[一言] 猫か きっと可愛い
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