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107.結界の内外

「妾を閉じ込めて、何をする気だ!」


 結界展開と聞いて、王帝陛下が露骨にうろたえ出した。というか、自分のことしか言っていないってことは、つまり。


「……あ、これ気づいてませんねまったく」


「魔獣はどうか知らぬが、小娘はまるっきり鈍感であるの」


「まあ、こっそりつけてくるなら気づかれるような部隊は使わないかあ」


 目を丸くしたシノーペに、テムと俺がほぼ同時に頷いた。エークは警戒を解かず、ずっと低くうなり続けている。

 それはともかく……実情を理解していない王帝陛下に、説明する必要があるか。


「あなたの周囲には、ベンドルの兵士が多数配置されているようです。こちらは少数ですので、数で来られては面倒なので結界をかけさせていただきました」


「何?」


 一応『陛下』なので、敬語を使っておこう。変なところで暴走されても困るしな、と思いつつざっと説明したんだけど、途端に王帝陛下は周囲をキョロキョロ見回した。あーいや、多分見えないところにいると思うぞ。

 でまあ、やっぱり見えていなかったらしく王帝陛下は軽くお怒りのようだな。


「わ、妾は一人で来たのだぞ! 兵士などおらぬわ!」


「では、証拠をお見せするでござるよー」


「なっ」


 ファンランの声は、王帝陛下から見て左側……結界の外だからちょいと距離があるけれど、そこから聞こえた。

 そうして、声のした場所からぽいぽいぽい、と三つほど何かが王帝陛下の前に放り出された。変態的な縛り方を食らった、ベンドル兵三名である。……それぞれ縛り方が違うのはいいとして、全員あふんとかはうんとか変なこと言ってるんだけど大丈夫かあれ?


「……これは、シオンの私兵?」


 目を丸くした王帝陛下は、ぽつんと俺たちの知らない名前を口にした。なるほど、誰かは知らねどベンドルの偉いさんあたりの私兵か。完全に、王帝陛下の許可なしで勝手に送り出してきたな。


「そなたの知らぬうちに、兵がそなたを取り囲んでおる。守りのためか、そうでないのかは我は知らぬが」


「シオン・タキードは我がベンドル王帝国の大宰相である! そのシオンが派遣したのであれば、間違いなく妾を護るために相違ない!」


 テムの言葉に、王帝陛下はきっぱりと言ってのけた。いや、それならそれでいいんだけどさ。


「そういうことであれば、こちらにとっては面倒な敵兵なのでおとなしくしていていただきます。少なくとも、彼らの攻撃は俺たちには届きません」


「……メティーオの攻撃は届くということだな?」


 あ、ちゃんと俺の言葉の意味、受け取ってくれたみたいだ。まあ、別の結界を展開すればいいんだけど正直、魔力の消耗がしんどい。外からの攻撃が始まれば尚更、魔力は消費する。


「構わぬ。魔獣メティーオ、そなたの挑戦を受けてやろうではないか」


「くぉくわーお!」


「ぐわあう!」


 当然のごとく上から目線のテムに、メティーオはまあ怒るよな。リベンジマッチに来たんだろうし……あ、でもエークが吠えたのは、これもしかして自分がやる、ってやつですか。


「エークリール。そなた、行けるか?」


「がおう!」


 テムに答えた瞬間、エークが走り出した。何か知らんが、すっごくやる気になっているらしい。

 そう言えばあのメティーオ、とかいうのも他の魔獣の分体なんだっけ。ライバル心でもあるのかな、エーク。


「きゅああああああああ!」


「ぎゃおおうううううう!」


 メティーオの雄叫びとともに、多分衝撃波らしいものが発せられる。周囲の景色が歪むほどのそれを、エークは同じように雄叫びを上げて相殺した。

 衝撃波どうしがぶつかって荒れ狂う風の中を、黒い虎が突っ走る。背の翼は畳んでいて、風への抵抗を減らしている。


「メティーオ! 妾の魔獣であれば、あのような虎など吹き飛ばしてみせよ!」


「くわう! こおう! くぉーん!」


 王帝陛下はそう叫ぶけれど、メティーオが放つ衝撃波をエークはひょいひょいと避けていく。さっきのと違ってエークを狙い撃ちしてる感じだけど、うまく避けられるもんだなあ。


「エークちゃん、頑張ってえ!」


 シノーペが応援がてら、結界に魔力を提供してくれた。おお、助かる。実は地道に外から攻撃来てるんだよね……多分、結界をぶち割るために、その後はこっちに攻撃が来そうだから、何とか踏みとどまってほしいものである。もしくは。


「……あ、一か所の反応が収まった」


「何人縛ったのかのう」


 スパイを捕まえるために出ていったはずのファンランなんだけど、見事に護衛兵たちの数を減らしてくれているようだ。……どっちも敵だから一緒、とか考えてるかな。まあ、俺が楽になるんでありがたいけど。

 結界の外はファンランに任せておくとして、魔獣同士の戦いは、と。


「がおううにゃああああああん!」


「くおおおおおおおくわおうう!」


「うわあああ!」


「と、飛ばされるう!」


 再び衝撃波同士が激突、またも空気が乱されて暴風となる。攻撃である衝撃波ならともかく、それらがぶつかってできた風自体には悪意も敵意もない。だから結界をスルーして、外にいるベンドル兵たちにも影響が出たようだ。

 その間にエークはもう、メティーオの目の前まで到達して。


「ふしゃあああああああ!」


 思いっきり、でっかい猫パンチをその横っ面にお見舞いした。

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