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特務魔術師をクビになったので故郷に帰ります~王都を守る伝説の血統の実力に気づいてももう遅い~  作者: 山吹弓美


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104.王帝

 とにかく俺たちは、分隊長さんに案内されてその場所までやってきた。バート村の外れ、テムが展開した『敵意を持つものが人里に近寄れない』結界のすぐ外になる。


「あれです」


 分隊長さんが示したそれは、鳥の翼と太い四肢を持つ獣。ただ、頭部は猫でも犬でもなくて、鷲。鋭い目とくちばしがガッツリ付いてるから、多分。長い長い尾羽がゆらゆらと揺らめき、全身の赤い色も相まってまるで炎のようにも見える。

 獅子姿のテムや虎姿のエークより一回り大きいその背中には、真っ白な髪の女性が座っていた。黒と赤のドレスをまとった彼女は眼差しが鋭いんだけど、どうも俺たちより少し年下っぽい感じ。その割に胸大きいけど……いや、ボディラインが目立つデザインだから、ドレス。


「……あー」


「ぐるるるる」


 その姿を見て、テムとエークは露骨にあいつ見たことがある、という反応をした。テムはうんざり顔、エークは敵意で。

 多分、女性じゃなくて獣の方だよな。てかテムが彼女を知ってたら、どんだけ長寿なんだって話になるし。


「テム、エーク、あの獣知ってる?」


「がう」


「知っているというか、倒した」


「つまり昔敵だった相手、か。エークの……上役みたいな?」


「がうん」


 俺の問いにエークは大きく頷き、テムは分かりやすい答えをくれた。あーはいはい、そういうことね。

 エークはその本体がもともと敵で、テムは敵としてエークの本体もあの獣も倒したことがある。で、エークにとっては元上役。

 つまり、今の俺たちにとっては敵。


「ベンドルの魔獣、でござるかな?」


「うむ。ああ、あれは分体だからな」


「分体なんですか? その割に、大きいんですが」


「まあ、ベンドルの怨念と妄執が詰まったような存在であるからなあ」


 すっかり呆れ返った感じのテムの説明に、でも俺たちは冷や汗をかいてる感じだ。特に、獣関係には慣れていないだろう分隊長さんとか。他の兵士さんたちは距離をとって、それぞれ剣や槍や弓矢を向けているけれど……ま、手出しさせないほうがいいよね。


「兵士さんたちには、そのまま待機をお願いします。防御は俺とテムで何とかしますが、いざとなったらまっすぐ逃げてください」


「しょ、承知いたしました」


 分隊長さんに指示をして、兵士さんたちを動かさないようにする。俺だけなら聞かないであろう指示だけど、何しろテムとエークがいるからな。特にテムの結界なんて、どれだけ皆を守ってくれているか。


「それと、女の気配も……どうやら我は、知っているようだ」


「え」


 と、テムがおかしなことを言ってきた。いやいや、だから彼女を知っているなら彼女はゴルドーリアの旧王城地下に来たことがあるとか、そうでなければ昔戦った相手だとかそういうことになってしまうじゃないか。

 ……あれ、今気がついた。もう一つ、可能性がある。俺みたいな。


「ベンドルの王帝、だ。『ランディスブランド』と同じく、血の気配でわかる」


 その可能性を、テムは肯定した。

 テムは自分が好む魔力を持つ『ランディスブランド』のことは代々把握できるし、条件から少し外れたアシュディさんのことも区別できる。それと同じで、かつて戦った相手……その首領の血筋を持つものも、分かるわけだ。


「あれが、でござるか」


「クジョーリカ、でしたっけ」


 ふうむ、と見つめるファンランと、そして宣伝ビラに書かれていた名前を思い出すシノーペ。そういや、そういう名前だったっけな。

 しかし、魔獣一頭の背に乗って他には供もつけずにたった一人でやってくるって、果たしてどういうことなんだろうか。


「というか、何故に王帝自らご出陣でござるかな?」


『さあ?』


「ぐる?」


 いやファンラン、俺も感じたけどその疑問は、多分本人にぶつけるのが一番じゃないかなと思った。目の前にいるし……いや、目の前って言ってもまだかなり遠いけど。

 まあ、俺たちが会話しているうちにあの魔獣はゆっくりとこちらに進んできている。まっすぐ、俺……というかテムを目指してきている気がするな。音がほとんどしないのがすごい……あの魔獣、足の裏ふっかふかなのかな。

 と。


「そなたが、ゴルドーリア『偽王国』と『神なる水』の守護神獣、システムであるか。出迎えご苦労であった」



「あ゛?」



 多分、今までの中で一番上から目線な言葉がテム目掛けて飛んできた。もちろん、発言者は推定王帝陛下その人、である。

 当然、テムの機嫌は急降下したわけなんだけど……彼女も魔獣も、まるで意に介さない。そのままゆっくり、ゆっくりと進んでくる。

 そうして鳴きもしない魔獣の背で彼女は、うっすらとした笑みを浮かべながら自らの名をやっとのことで名乗ってくれた。


「妾こそは世界の長、世界の帝。ベンドル王帝国王帝、ベンドル十五世クジョーリカである。神獣自ら妾を迎えるとは、さすが神の使いであるな」


「ぐる……」


 いやほんとにすごいな、あの上から目線台詞。エークがぽかんとしちゃったよ。

 シノーペはえー、と言う感じになっちゃってるしファンランは……。


「全力で縛ってよいでござるかな?」


「できるなら魔獣の方も頼む」


 あ、良かった。いつものファンランだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女帝すら縛ろうとするファンラン(笑)
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